妙は作之進の傷の手当てをしながら、何度も礼を繰り返す。
「先ほどは 危ないところをありがとうございました。本当に助かりました。
でも、そのせいで貴方様は傷を負われてしまった。申し訳ございません。」
作之進はのんびりした口調で返す。
「なあに、たいしたことはありません。稽古をしていてもこれくらいの傷はしょっちゅうです。
ところで、あなたを襲ったのは、一体何者なのでしょう。」
妙は眉をひそめて話す。
「あのもの達は、路棄疎人と言って、浪人でもなく、かといって田畑を耕すわけでもない荒くれ者です。」
「妙さん、その、ろきそ、とは何ですか」
「道を棄て、人から疎まれる者という意味です。」
作之進は、はたと膝を打った。
「それで今、拙者に貼ってくれているのがロキソニン」
妙は、真っ赤に頬染めながら、
「作之進様、お戯れを。それは全くの偶然です」
「何も恥ずかしがることはありません。ここ富山の地といえば、第一三共ではありませんか。」
妙は、ますます恥じ入った様子で
「ロキソニンが開発されますのは1986年。今から二百年以上も先のことにございます。」
作之進は、妙の様子を好ましく見つめながら、
「これは拙者としたことが、うっかりしておりました。ではこれにてごめん。」
妙は道場へ向かう作之進の背中を熱のこもった目で見つめる。
続きはいずれまた。