礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

やくざ者・芳賀利輔の「暴力」観

2017-10-14 03:11:04 | コラムと名言

◎やくざ者・芳賀利輔の「暴力」観

 芳賀利輔著『暴力団』(飯高書房、一九五六)の紹介を続ける。本日は「やくざの世界」(インタビュウ)から、「やくざ者」について語っているところを紹介する。

芳 賀 それからこの間もちよつとお話したが、私はこういう観念を持つているんです。私は暴力団の親分だと警視庁では騒ぎ立て新聞に書いておりますが、私は暴力団の親分じやないんだ。要するに、たとえば柔道五段とか素人相撲の大関をとるというような人間とけんかをしても負けない自信を持っている。それは決して暴力じやない。いわゆる正義感の働いた場合には、人には絶対に負けるものじやないという観念を持つておるんです。
 それからもう一つは、きのうもお話した通り、国定忠治〈クニサダ・チュウジ〉が一刀流の先生を殺したとか、神陰流〈シンカゲリュウ〉の先生をしめてしまつたとかいうのは小説じやない。実際にある。ということは、剣道をする人は剣道としてきたえられておる。柔道をした人は柔道できたえられている。やくざ者はやくざできたえられている。ということなんだ。たとえば柔道はまあ六級から五級、四級、三級、二級、一級となっている。それから初段になって、二段になって、三段になってこれが十段にもなるということになる。それと同じことでやくざ者がやはりそうなんだ。けんかなんかをすると、けんかできたえられていく、喧嘩なん段とかいうふうに実践できたえ上げられている。だからやくざ者は実力的にばかにできない。つまり剣道家が柔道を知らないから、柔道家に負けるとはきまらない、柔道家が剣道を知らないから剣道家に負けるとはきまらない。そういうふうにいわゆる階級的にきたえられているから、年をとつても決して若いものに負けるようには考えられない。あるいは負けるかもしれないが、負けるように考えないと云うのは、そういう経験を数多く踏んできているからじやないかと思う。
ききて 俗にいう度胸がいいんじやございませんか。
芳 賀 もう一つやくざの掟〈オキテ〉というものがある。その掟というのは、たとえば剣道家ならば正眼に構える。正眼に構えるということが一つの技術であり掟て〈オキテ〉でもあるということは、剣道家じやないからわかりませんが、そのようにいろいろ掟があると同時にやくざにも掟がある。それはもう長い間先覚者によつて教え込まれたやつを、われわれが親分から教えられて、それで記憶しているわけなんです。
 この間もお話した通りヤクザ者が酒を呑むことを左をやろうというでしよう、酒を左で飲むというのは、右を遊ばしておくということなんです。いかなる急場があつても、右の手が遊んでいるから対談ができるということなんです。それから親分と一同に招かれた時は親分の左に坐るというのは、親分は右利きだから、当然左が効いていない、左からかかられたときに、自分が親分の犠牲になるために親分の左の方に座るということ。これも先覚が教えてくれたことなんです。その他いろいろありますが、たとえば親分と知らない人が話をしているときには、必ず雑巾がけをする。表で話しているときにもやはり掃除をしに外へ出る。これは何かあつたときには親分の手助けをするという観念を常に教えられているということです。だから人が来た時掃除をするなということは人に対して、心をゆるして居るという礼儀なのです。それから博奕〈バクチ〉をするときにもその通り態度や何かにいろいろ掟があるのですが何かの機会に御話しましよう。私は博突打ちじやありませんが、おやじ武部申策は政治家で、博突打ちで、愚連隊の親分でもあつたわけなんですが。 【以下、次回】

 途中で、ききてが、「俗にいう度胸がいいんじやございませんか。」と口をはさんでいるが、これは、芳賀の真意をつかんでいない。芳賀は、「けんか道」ともいうべき武術体系があるということを言おうとしているのだと思う。

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