礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

瀧正雄企画院総裁の重大な失言

2016-10-13 03:52:30 | コラムと名言

◎瀧正雄企画院総裁の重大な失言

 一昨日のコラムで、木元幹三〈カンゾウ〉著『国家総動員法早わかり』(新生社書店、一九三八)という本に言及した。これは、本文四〇ページの小冊子だが、実に興味深い本である。
 同書は、その一二~一三ページで、削除された四か条を紹介したあと、次のように述べている(一三~一四ページ)。

 以上であつた。
 而してこの条文に依つ最も脅威を被る〈コウムル〉者は言論機関であつて、都下大新聞の首脳部は右の条文を見て一驚し、瀧〔正雄〕企画院総裁より詳細なる説明を聴取すべく都下に於ける大新聞社の幹部を以て結成されてゐる二十一日会が先づ起ち上つた。この会見の席上瀧総裁は、右の条文は決して諸君等の大新聞社に対する制圧を考慮してゐるものではなくて、小新聞、小通信、地方新聞等の統制を意図して居る旨を言明し小新聞、小通信又は地方新聞社の当事者に極めて悪い印象を与へ、この反響は直ちに小言論機関の論調に実現された。しかも一方大新聞主義なる言明において都下言論機関の諒解を得んとしたが、その工作にも失敗し、更にまた貴族院に於ける懇談の席上不用意になした瀧総裁の「憲法に抵触する位のことは止むを得ず」と言つた意味の言明が貴衆両院の空気を果然悪化せしめたのであった。
 こゝにおいて政府は二月十八日の閣議に於て最後的態度を決すべく各閣僚の意見を聴取したところ、前記四ケ条は何等本法の骨子にふれるものにあらずとの論が多数を制し、更にまた企画院事務当局、並に各省事務当局に於ても右を削除することは何等差支へなく、言論機関に対しては取締主義よりもむしろ協力要請主義の方が刻下〈コッカ〉の情勢からしても又立法の目的からしても賢明なる方法であると諒承する者多く、遂に前記四ケ条を削除し、新に第五十条を付加することによつて最後案の決定を見るに至つたのである。
 こうした経路を辿つて本法案の決定を見たが、財界方面の本案に対する態度は依然好転すべくもなく、このことはまた貴衆両院に反映して四ケ条の削除により反対論ゝ緩和されたとは言ふものゝ、無修正通過の確信を政府に与へるには未だ相当の距離を有して居つた〈オッタ〉。
 たゞ議会に於て社会大衆党は先般の大転向以来本案に反対する理由を失ひ率先これが支持に当り、その他第一、第二議員倶楽部に属する小会派の一派がこれを積極的支持するとは言ふものゝこれらの小群像は議会に於ける何等の決定性も持ち合せて居らず、そこに政界策士の活躍舞台が与へられたのである。

 これを読むと、政府が、国家総動員法の「原案」から、計四か条を削除せざるを得なくなった背景として、瀧正雄総裁の「失言」が挙げられるように思う。
 瀧総裁が、二十一日会との会見で、「右の条文は決して諸君等の大新聞社に対する制圧を考慮してゐるものではなくて、小新聞、小通信、地方新聞等の統制を意図して居る」と言明したのは、たぶん、二月八日のことだったと思う。明らかに失言であった。この失言は、ただちに、「小新聞、小通信又は地方新聞社」の反発を招いた。
 瀧総裁が、貴族院で「懇談」をおこなった日時は不明だが、二月上旬から中旬にかけてのことだったと思われる。この席における「憲法に抵触する位のことは止むを得ず」というのも、もちろん失言である。しかも、その重大性は、二月八日の失言の比ではない。
 貴族院における失言は、「貴衆両院の空気」を悪化させた。政府が、計四か条を削除せざるを得なくなった要因として、新聞業界の抵抗ということも、確かにあったと思う。しかし、それ以上に大きかったのは、瀧総裁の「失言」という要因ではなかったのか。【この話、さらに続く】

*このブログの人気記事 2016・10・13(5・9・10位に珍しいものが)

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