◎『かぶきの成立』(1949)における注意すべきルビ
四月一八日のコラムで、『須多因氏講義筆記』(牧野善兵衛、第三版一八八九年一二月)に見られる特異なルビについて言及した。それは、「意氣自ラ」の「自」の右上に(「氣」の右下に)、一字のみ〈オ〉と振られているルビである。コラムでは、おそらくこれは、「自ラ」を〈オノズカラ〉と読め(〈ミズカラ〉ではなく)という符号であろうと推定し、また、この符号について、漢字の横に振って読みを指定しているという意味においては、ルビと言えるだろうという見解を示しておいた。
その後、某古書店の百円均一の棚で、林屋辰三郎『かぶきの成立』(推古書院、一九四九)という本を入手した。戦後間もなく発行された本であり、いかにも貧弱な装丁だが、当時としては画期的な歌舞伎論だったのではないかと推測する。
読んでいて驚いた。その六〇ページの「民心は自ら向けられる」とある部分の「自」に、〈オ〉という「ルビ」が振られていたのである。もちろんこれは、「自ラ」を〈オノズカラ〉と読め(〈ミズカラ〉ではなく)という指示である。
『須多因氏講義筆記』における〈オ〉というルビのような符号は、明治中期の特殊な符号であるかと思っていたが、戦後においても、こうした例があったことに驚いたのである。ただし、『須多因氏講義筆記』における〈オ〉が、「自」の右上に(前の字の右下に)振られていたのに対し、『かぶきの成立』の〈オ〉は、「自」の右側のルビの位置に(正確に言えば、ルビに位置に上部分に)振られている。
著者の林屋辰三郎は、なぜこういう「ルビ」の振りかたをしたのか。こういう「ルビ」の振りかたをどこで覚えたのだろうか。そして、こういう「ルビ」の振りかたを何と呼ぶのだろうか。
【昨日のクイズの正解】 1 終夜(よすがら) 2 逝る(みまかる)
3 嗇(やぶさか) 4 汚穢し(むさくるし) 5 咲む(ゑむ)
6 忽(ゆるかせ) 7 饗応す(もてなす) 8 綿津海(わたつみ)
9 運る(めぐる) 10 臠す(みそなはす)
11 覇(ほだし) 12 阻つ(へだつ)
今日の名言 2013・5・21
◎此頃カブキ踊ト云事有
『当代記』第三巻は、慶長八年(一六〇三)四月のところに、こう記しているという。〈このごろかぶきおどりということあり〉と読む。林屋辰三郎『かぶきの成立』(推古書院、1949)59ページより。
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