礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

真崎は民主主義の戦士であるという宣伝が……

2024-06-26 02:54:56 | コラムと名言

◎真崎は民主主義の戦士であるという宣伝が……

 戦前版『日本国家主義運動史』(慶應書房、1939)において木下半治は、真崎甚三郎大将に関して、わずか二行しか言及していない(325ページ)。
 一方、戦後版『日本国家主義運動史』(福村出版、1971)においては、真崎甚三郎(まさき・じんざぶろう)大将について、かなりくわしく論じている。真崎について論じているのは、『日本国家主義運動史 Ⅱ』第六章「二・二六事件を中心として」第二節「二・二六事件の経緯」のうち、「六 北・西田・真崎」の項の後半部分である。
 この後半部分は、かなり長いので(403~413ページ)、何回かに分けて紹介したい。なお、同書Ⅱ巻のページ付けは、Ⅰ巻からの通しになっている。

 二・二六事件との関係において、最も問題となった高級軍人は真崎甚三郎であった。荒木・真崎と並び称されて、長年、皇道派青年将校の人気を集めていた大将真崎は,大将荒木〔貞夫〕の饒舌と非行動性とがようやく青年将校の批判の的となりつつあったのに反して、いぜんとして青年将校の渇仰〈カツゴウ〉の的となっていた。岡田啓介の口を借りれば、「……座敷で若いものが『是非閣下がお出にならなければならない時代です』というと『なにをいうか、お前らはばかなことを考えるんじゃないぞ』とたしなめる。さて連中が、立って玄関までくると、送って出た真崎が肩をたたいて、『いいか、これからの日本はお前ら若いものの世の中なんだよ』と暗示するようなことをいう。若いものはそういわれると、真崎の気持が自分らと同じものだという風にとってしまうのは当然なんだ。……」(『岡田啓介回顧録』、一八二頁)。真崎とはこういう男であった。
 二・二六事件が起こると、当然大将真崎は反乱軍の蔭の指導者と考えられた。相沢〔三郎〕公判に真崎が証人として出廷した翌朝、事が起こったのだから、世間がかれの名を、直接、反乱に結びつけたのに不思議はなかった,事実また事件中、内閣の首班として、しばしばその名が世に伝えられた。事件収拾後、かれは、「反乱幇助罪」として起訴され、刑務所に収容されたが、一年有余にわたる取り調べの結果、事件の翌一九三七年(昭和十二年)九月、「証拠不十分」として釈放された。しかし、世人は、この無罪の決定に対して釈然としないものがあった*
 敗戦後、言論の自由が許されるにしたがって、真崎は二・二六事件には全然無関係であり、同大将の未決勾留は統制派の陰謀であり、真崎はファッショでなく、軍閥と戦った民主主義の戦士であるという驚くべき宣伝が行なわれた。単に真崎と親しい民間人(たとえば岩渕辰雄『軍閥の系譜』、前掲)のみでなく、追放軍人取り締りの衝にあたる責任者にまで、そうした言論が行なわれた、法務総裁在任中の殖田俊吉〈ウエダ・シュンキチ〉「日本バドリオ事件顚末」――『文芸春秋』、一九四九年十二月号)。これに対しては、また、「結局はかれらの(統制派対皇道派等々)派閥運動は、軍閥という山塞〈サンサイ〉においての山賊同士の分けまえ争いに過ぎないような結果を生んだ」と見(山本勝之助、前掲、二七五頁)、「敗戦道後、東條の専横に対し皇道派の真崎・荒木・柳川〔平助〕・小畑〔敏四郎〕の諸将軍が絶えず反対的な態度を持し、抗戦大いにつとめたようなことを書いた文章が氾濫したものであるが、もちろんかれらの永い対立的伝統からして対華派(大体において統制派)に対して反対的な態度をとったことは事実であったが、これらに描かれているように、挺身して反東条的な運動の前衛的役割を果たしたという具体的事実はどこにもない。ただかれは一部の宮廷派や重臣の一部の微温的平和主義者と同じく、周囲の者と反東条的不平を展開していたにとどまる」(同上、三七五~三七六頁)という意見もある。〈403~405ページ〉【以下、次回】

『岡田啓介回顧録』とあるのは、岡田啓介述『岡田啓介回顧録』(毎日新聞社、1950)、岩渕辰雄『軍閥の系譜』とあるのは、岩渕辰雄著『軍閥の系譜』(中央公論社、1948)、「山本勝之助、前掲」とあるのは、山本勝之助著『日本を亡ぼしたもの』(彰考書院、1949)のことである。

*このブログの人気記事 2024・6・26(8位になぜか国家社会主義、10位になぜか橋本凝胤)

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