礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

谷崎潤一郎『盲目物語』の複刻版について

2018-12-06 00:21:57 | コラムと名言

◎谷崎潤一郎『盲目物語』の複刻版について
 
 先日、神保町の古書店で、谷崎潤一郎『盲目物語』の複刻版を入手した。原本は、一九三二年(昭和七)二月、中央公論社刊。その複刻版は、一九七七年(昭和五二)一一月に、日本近代文学館から、「特選 名著複刻全集」の一冊として刊行された。
 この複刻には、たいへんな苦労があったもようである。『特選 名著複刻全集 近代文学館―作品解題―』(日本近代文学館、一九七一)の「谷崎潤一郎 盲目物語」の項(酒井森之介執筆)を参照すると、その末尾に、「複刻について」と題して、次のような一文が置かれている。

複刻について〕 原本は四六倍判〈シロクバイバン〉横綴じ、和洋折衷風のつきつけ表紙で函〈ハコ〉付き。表紙、見返し、扉、中扉および函の用紙は木の皮・ゴミ入りの和紙でそれぞれに根津夫人の筆になるという題字を配した凝ったもの。なお、口絵一葉は根津夫人の肖像であるが、のちの再版ではこの口絵及びそれについて記した前書き一丁が入っていない。複刻版底本は日本近代文学館所蔵初版本を使用、参考用原本として稲垣達郎氏所蔵および編集部所蔵初版本を見た。ほかに文学館所蔵再版本を参考とした。表紙、見返し、扉、中扉および函の和紙は福井県今立〈イマダテ〉郡で特漉きした木の皮浮かし漉きおよびゴミ入り紙(ゴミ・繊維の入りぐあいや色のちがいで五種類)で、手漉き中でも手のこんだ和紙である。本文用紙も現在では入手しにくい柔軟なコットン風のものなので、これも岩野製紙で特漉きした。全用紙特漉きである。

 文中、「根津夫人」とは、このとき、根津清太郎の夫人で、のちに、谷崎潤一郎の夫人となる松子(一九〇三~一九九一)のことである。
 なお、「谷崎潤一郎 盲目物語」の項を執筆しているのは酒井森之介氏であるが、上の「複刻について」を執筆したのは、酒井氏ではなく、名著複刻全集の製作担当者だったと推察される。

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