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ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

2023年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品、「名探偵のままでいて」(小西マサテル著;宝島社)を読む

2025-06-14 19:45:15 | 読む

2023年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品だというのがわかって、借りてきた本書。

 

元小学校校長の祖父と現小学校の先生の孫娘・楓。

楓の両親がすでにこの世にいない中で、ミステリー好きな二人の関係には温かさを感じる。

だが、71歳の祖父は、レビー小体型認知症という認知症を患っている。

その認知症は、幻視まで伴う重いものなのだが、症状が現れない時には、祖父は楓の持ち込む話に耳を傾ける。

そして、切れ味鋭い推理を展開し、楓の周辺で起こった事件の真相をあばく。

 

認知症の名探偵、ということで、その設定が面白い。

楓からの話を聞いたあとの祖父は、

「楓としては、どんな物語を紡ぐかね」

と決めゼリフを言う。

楓の意見を聞いた後にも決めゼリフがある。

「楓。煙草を一本くれないか。」

そこで吸う煙草の銘柄が、「ゴロワーズ」なのだ。

私は火のついた煙草は吸ったことがないが、「ゴロワーズ」の名前は知っている。

「我が良き友よ」の大ヒットを飛ばしたかまやつひろしが歌った歌に、「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」というのがあったのだ。

当時出されたシングルレコードが今でも家にあるが、A面が「我が良き友よ」で、B面が「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」だったから、なんと懐かしい。

もっとも、この祖父が71歳という設定だから、私らとそんなに齢が違わないことになるのだから、好みの煙草をこれにするなんて、ちょっと小粋な感じだった。

 

話は、連作の短編でできている。

その話の一つ一つに謎があり、それを祖父は鋭い推理で解き明かす。

しかも、毎回、その推理には一度納得できるものが披露されるが、その後さらにもうひとひねりした深い推理が披露される。

そこも、面白さの一つだ。

 

面白いと言えば、毎回孫娘楓の話を聞いてベッドで謎を解決する祖父が、解決後一転して幻視を見たりぶつぶつつぶやくようになったりになってしまうのは、面白くもあるが、哀しくもある。

けれど、反面それゆえに本書のタイトルが「名探偵のままでいて」になったのが分かる。

 

本作について、作者の小西マサテル氏は、このようなコメントを出している。

ミステリーを書くというのは少年期からの夢だったのですが、本作を執筆する直接的なきっかけは、長らくレビー小体型認知症を患っていた父の存在でした。

5年以上に及び妻と共に介護を続けるうち、世間にこの認知症への誤解があまねく広がっていることに気がつきました。この病気への理解を深めたい、せめて興味を持ってもらいたい──そう強く思ったうえでのアプローチのかたちが、私にとってはミステリーでした。

自分の場合は亡父への想いをこの作品に仮託していて、どうしてもこの作品でデビューしたいという強いこだわりがありました。それだけに今回の大賞受賞は、望外の喜びではありますが、本懐を遂げたという気持ちもあります。本作の主人公、楓と同じく、自分も一人っ子です。でも幼い頃から、そばには常にミステリーという“兄弟”がいました。今後もさまざまな兄弟たちを自分の手で生み出すことができれば、などと思っています。

そうか、やはり自身の体験が根底にあったのだな。

 

私にとっては、とても面白いミステリーだった。

小西氏は、ミステリーマニアなのだな。

たくさんのミステリーを読んでいることが、本書中に紹介される海外の古典的ミステリー作品名の多さから伝わってきた。

だから、ひねりを加えられるのだなと感じた。

 

さて、本作品は短編の連作で、登場する人物たちの関係が維持されながら、深まりも見せていく。

楓にかかわる2人の男性との恋愛話も変化しながら進んでいく。

本編の最終話では、それについては決着がついていないというか、方向が定まっていないから、続編があれば読みたいなと思った。

 

すると、ちゃんと続編も出ていた。

さっそく借りてきた。

今度は、「名探偵じゃなくても」だ。

これから、また認知症探偵の活躍を1冊読めると思うと、楽しいな。

コメント (4)
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