日本男道記

ある日本男子の生き様

土佐日記(2)ある人、県の四年五年果てて、……

2024年06月25日 | 土佐日記


【原文】 
①ある人、県の四年五年果てて、例のことどもみなし終へて、解由など取りて、
②住む館より出でて、船に乗るべき所へわたる。
③かれこれ、知る知らぬ、送りす。
④年ごろよくくらべつる人々なむ、別れがたく思ひて、
⑤日しきりに、とかくしつつ、ののしるうちに、夜更けぬ。
⑥二十二日に、和泉の国までと、平らかに願立つ。
⑦藤原のときざね、船路なれど、馬のはなむけす。
⑧上・中・下、酔ひ飽きて、いとあやしく、潮海のほとりにて、あざれあへり。

【現代語訳
①ある人が、国守の任期の四、五年が終わって、所定の事務引き継ぎもすっかり終わらせて、解由状などを受け取って、
②住んでいる官舎から出て、船に乗ることになっているところへ移る。
③あの人やこの人、知っている人も知らない人も、見送りをする。
④長年たいそう親しく付き合った人々は、別れづらく思って、
⑤一日中、あれこれ世話をしながら、大騒ぎをするうちに、夜が更けてしまった。
⑥二十二日に、和泉の国まではと、無事であるように神仏に祈願する。
⑦藤原のときざねが、船旅であるけれど、馬のはなむけ(=送別の宴)をする。
⑧〔身分の〕高い人も、中流の人も、低い人も、みなすっかり酔っぱらって、たいそう不思議なことに、〔塩のきいている〕海のそばでふざけあっている。


◆『土佐日記』(とさにっき)は、平安時代に成立した日本最古の日記文学のひとつ。紀貫之が土佐国から京に帰る最中に起きた出来事を諧謔を交えて綴った内容を持つ。成立時期は未詳だが、承平5年(934年)後半といわれる。古くは『土左日記』と表記され、「とさの日記」と読んだ。 

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