スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

温暖化とともに解けて無くなるか?アイスランド!

2010-01-06 06:49:27 | スウェーデン・その他の経済
アイスランドの政治・経済は、年明け早々から混乱状態だ。もちろん、国土が解けてなくなるわけではないが、この先もこの国の経済は明るくない。

2008年秋の金融危機以前は、アイスランドでは金融業が大きく潤い、国のGDPの何倍にも相当する貸付残高を誇っていた。そんな勢いに乗ってアイスランドの銀行は、国外にも進出し預金を募っていた。小国であり資本不足に悩まされていたアイスランドの銀行は、高い利息を約束することで国外の投資家から預金を集めていた。

しかし、2008年秋に金融危機がこの小国を襲い、貸し付けていた融資は多くが焦げ付き不良債権と化した。結果として、アイスランドの銀行は預金者に預金を返すことが出来なくなってしまった

特に、インターネット銀行であったアイスセーブ(Icesave)銀行オランダイギリスで10万人を超える預金者から預金を募っていた。そして、彼らの預金が煙のごとく消えてしまったのだ。

預金保険はどうだったのかというと、アイスランド政府は自国の預金保険制度ではカバーできないから、預金者の住む国の預金保険制度を頼りにするようにと伝えた。そして、これに怒ったのがイギリス政府でありオランダ政府であった。

預金をきちんと預金者に払い戻せと強くせがむイギリス政府などは、金融危機直後、何と対テロ法を適用して、国内にあったアイスランドの資産を凍結したりした。その後も、英・蘭両政府はアイスランド政府に何度も圧力をかけてきた。預金を払い戻さなければ、EUの加盟も認めないと迫った。さらに、IMFを通じて圧力もかけ、預金を返さなければ、IMFがアイスランドに供与している特別融資を凍結する、とも言ってきた。これが凍結されれば、国全体が破産してしまうことになる。

さぁ大変! アイスランドは金融危機後に保守政権から社民党政権に代わっていたが、両国の圧力に屈し、預金を両国の預金者に払い戻すための新法を制定し、議会は大晦日の前日に可決した。

しかし、この新法の内容はというと、預金の払い戻しのためにアイスランド政府が50億ドルという大きな借り入れを行い、それを今から2024年までの間、少しずつ返済していくというものだ。借り入れの利率は5.55%であり、毎年の利子の返済だけでもアイスランドの医療費の半年分に相当するという。

これにビックリしたのは、今度はアイスランドの国民だった。署名活動を行い、アイスランドの大統領に誓願する動きに出た。というのも、アイスランドの法によると、たとえある法案がたとえ議会で可決されたとしても、それに大統領が署名しなければ発効しないことになっているからだ。大統領が署名を拒否した場合、議会が法案を撤回するか、そうでない場合は国民投票にかけられることになる。集まった署名は6万人分で、先週末に大統領に提出された。

なーんだ、たったの6万人だって? 何をおっしゃいます、総人口30人万あまりのアイスランドでは有権者の4分の1にあたる。そして、この署名を重く見た大統領はこう語った。

「法律の正統性に関して最終的に判断を下す権利を持っているのは国民である、とわが国の憲法には書かれている。そして、国民がこの権利をきちんと行使できるようにする責任を持っているのは大統領である私だ。」

そして、今日(5日)署名を拒否することを正式に発表した。建国後65年という若いアイスランドの歴史の中で、大統領の署名拒否は過去に1度しか例がないという。アイスランド議会は法案を撤回する気はないようだから、これから国民投票にかけられることになるが、世論調査によると国民の大多数が否決に回ると見られている。

どっちに転んでも、アイスランドにとっては苦境だ。可決されれば民間銀行が他国で行っていた業務活動のツケを、今後10年以上にわたって納税者が負担させられることになるし、否決されればIMFからの融資が凍結される恐れもある。金融危機以前は国債残高がGDPの30%だったというが、それから1年余りの現在は130%に膨らんでいる。それを支えているのがIMFであり、また、スウェーデンをはじめとする北欧諸国も多額の資金を融資している。

大統領のこの決定を受けて、格付け機関の一つであるアメリカのフィッチ(Fitch)アイスランドの長期債務格付けBBB-からBB+に下げてしまった。Bの数が3つから2つに減ったことは「この国には融資しないほうがよい」を意味するのだという。


ところで、全体として感じるのは、自国の背丈に見合わないくらいに金融業の拡大を許してきたアイスランドもアイスランドだが、イギリスやオランダも、まるで弱い者イジメのようにアイスランドを吊るし上げにかかっているということだ。

そもそもアイスランドの銀行のその国における業務活動の監督責任は、イギリス・オランダ両国にあったのだろうし、預金者も自国で預けるよりもずっと高い利子を貰える裏には大きなリスクがあることは、気づいていなかったのだろうか。そんな危険性をリスク・プレミアムとして加味した上での高い利回りだということは考えなかったのだろうか? もちろん、国境をまたぐ融資であれば、外貨建てでない限り、為替リスクが常にともなうが、為替損までを政府が補え、とは誰も要求しないであろうに・・・。それに、業務の監督責任だけでなく、預金保護の責任がどの国にあるのか、果たして事前に明確であったのだろうか?

ちなみに日本の預金保険制度では、外資系銀行に対する預金であっても、日本国内に本店を置く銀行(つまり、おそらく日本に現地法人を持っているということだと思う)であれば預金保険制度の対象となると書かれている。

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4 コメント

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大変! (里の猫)
2010-01-07 04:53:08
人口30万のところに10万人が外国から貯金してたんですね。
アイスランド人一人につき10万クローナ以上の負担になると聞いています。
そんなことがイギリスやオランダで起こって御覧なさい。彼等絶対に払わないと思います。

ところで、一国が破産するって、もしあるとするとどういうことなんでしょうね。
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Unknown (Unknown)
2010-01-08 00:30:23
イギリスがアイスランドの資産を凍結したのは、確かアイスランドの利率の高さに目がくらんで警察などイギリスの政府機関までがメインの口座をおいていたからだと聞きました。
それはさておき先進国同士でここまでえげつないことするんかと改めて感じますね。
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Unknown (Yoshi)
2010-01-09 08:07:12
>一国が破産するって、もしあるとするとどういうことなんでしょうね。


・アイスランド・クローナに対する信用がなくなり、外国人は自国通貨と両替しなくなる。

・外国からの投資や資金の流入が滞り、政府は深刻な財政赤字に陥る。

・もちろん、政府はその赤字を補うために「新札」をじゃんじゃん発行すればよい。しかし、これはあくまで国内でしか通用せず、輸入には使えない(外国人が外貨と両替しないため)。

・小国であり生活物資の輸入依存度が高いアイスランドは、深刻な物資不足となる。一方で、国内には「新札」が財の総供給量以上にバンバン流通しているから、必然と高インフレ状態になる。

・これに対抗するためには、国内での財生産を増やすことだが、すぐには難しい。また、国外からの投資が冷え切っている状態では、生産設備を作ることも難しい。

・そのうち、アイスランド・クローナは価値を持たなくなり、国内ではユーロやドルといった外貨が支払手段として使われるようになる。

・見るに見かねたアイスランドの火山の神様が怒り狂って、火山が大爆発。国土のほとんどが海に沈む。

・30万人の国民大移動。スウェーデンが彼らを難民として受け入れる。人口が増えて、あと少しで1000万人に達し、スウェーデン政府はホクホク顔。


という感じでしょうか。ちょっと酔いながら書いているので、最後の部分はウソですが、高インフレ状態になり、外貨が支払手段となるといったところは、まさにムガベさんのジンバブエで現に起きている状態と似ていると思います。
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Unknown (Yoshi)
2010-01-09 08:08:58
>イギリスがアイスランドの資産を凍結したのは、確かアイスランドの利率の高さに目がくらんで警察などイギリスの政府機関までがメインの口座をおいていたからだと聞きました。

コメントありがとうございます。

そうですね。たしかに、Icesave銀行だけが要因ではなく、他銀行も似たような高金利で預金を集め、それにつられたイギリス人がたくさんいたのでしょうね。
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