スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

EUの厳しいヒアリング(2)

2010-01-26 10:38:44 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデン政府が指名した欧州委員会の委員候補41歳のセシリア・マルムストローム(Cecilia Malmström)という女性だったが、彼女は3時間に及ぶ欧州議会の口頭尋問をうまくクリアすることが出来た。

ただ、彼女が着任することになる内務担当委員というポストは、難民保護や人権問題、犯罪防止、テロ対策といった政策領域を担当するため、欧州議会の議員から投げかけられる質問にはデリケートなものが多かった。EU加盟国によっても見方が大きく分かれる事柄も多いからだ。たとえば、スウェーデンのように途上国や戦地からの難民を積極的に受け入れてきた国もあれば、厳しすぎる基準を設けて強制送還している国もある。テロ対策にしても、市民の自由や基本的人権とのバランスが難しい問題だ。

しかし、彼女は機転を利かせながらうまく答えていた。リベラルな立場からこれらの問題に長年携わってきた自分自身の考えや見方も、強く主張していたようだった。

答えは事前に用意していたのであろうが、自分の言葉で喋るから意欲が伝わってくるところもよかった。しかも、スウェーデン語・英語に加え、フランス語やスペイン語と、多言語を即座に切り替えて、相手の追及を流暢に切り返せるのも魅力の一つだ。さらにドイツ語やイタリア語も出来るという。(彼女は子供の頃にはフランスとヨーテボリに住んでいた。だから、もちろんスウェーデン語はヨーテボリ方言。)




彼女は、実は1999年から2006年まで欧州議会の議員をしていたのだった。だから、EUの機能や立法手続き、行政のシステムについては熟知している。この時は、とりわけ売春目的の人身売買によって貧しい国からEU内へ人を移動させるトラフィキングという問題への対策に力を入れていた。

ただ、彼女のEUに関する知識というのは、この時の議員経験からだけではない。彼女はその前には、ヨーテボリ大学政治学部博士課程に在籍しており、ヨーロッパ政治を研究していたのだった。1998年に博士号を取得しているが、それ以前から博士課程の研究生として大学の講義を担当したり、ヨーロッパ政治に関する様々な講演やパネルディスカッションに参加し、経験を積んできたようだ。特に、寛大な難民・移民の受け入れ政策やテロ対策・人権保護などといったテーマに強い関心を持っていた。だから、今回の内務担当委員のポストにはまさに適任者だといえるだろう。

ただし、博士課程時代は、彼女は政治的な意欲をあまり表には出さず、むしろ地味で、注意深く精確な研究者というイメージが強かったという。政治家になるよりも、むしろ官僚が向いていた。「彼女なら、閣議決定の一つ一つに脚注と参考文献リストを付け加えることも容易だと思えたよ」と党の同僚は語ったという。


さて、1999年の欧州議会議員の選挙のときに面白いことが起きた。彼女は当時30歳だった。スウェーデンでは、政治家として特に若いというわけではない。それまでの学術界での経験や知識、そしてヨーロッパ政治に対する熱意が評価されたため、比例代表の候補者順位を決めるための党員による事前投票で、彼女は第3位につけていた。しかし、党内でもそれほど名は知られていなかった。

その前の欧州議会選挙では、彼女の所属する自由党1議席を獲得していた。しかし、党に対する支持率の推移から推測すれば、2議席は取れそうな勢いだった。でも、彼女は第3位。第2位にはベテラン議員で当時66歳の男性がいた。

しかし、比例代表名簿の順位を最終的に決める党執行部の会議で同党の青年部会が反論を行った。「若い議員の力を政治に生かすべきだ!」と。たしかに、比例名簿の第1位には、これまたベテラン議員で当時60歳の女性マーリット・ポールセン(Marit Paulsen)がいた。「2議席獲得できるチャンスがあるなら、そのうち一つは若い力に託そうではないか!」というわけだ。

議論は紛糾し、最終的には会議に出席していた人たちの間で多数決にかけられることになった。結果は26対26。同数となったのだった。

こういう場合は、くじで決めることになる。早速、2枚の紙切れが用意され、帽子の中に入れられた。そして、比例名簿第2位という順位を手にしたのは30歳のセシリア・マルムストロームだったのだ。

彼女が選挙名簿の第2位についたことも功を奏しただろうし、第1位のマーリット・ポールセンの人気も高かったおかげで、1999年の選挙では自由党は大躍進し、結局は3議席も獲得することとなったのだった。

ちなみに、1998年から2001年まではヨーテボリのあるヴェストラ・ヨータランド県の県議会議員をしていた。つまり、1999年からは欧州議会議員と兼職ということになる。すごいパワーの持ち主だ。

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