さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【読書録】コンチキ号漂流記

2023-04-05 07:08:55 | 読書録

ハイエルダール著/神宮輝夫 訳/偕成社文庫

この本は私にとって因縁のある本だ。

小学校3・4年の頃、私は受け持たれた先生と合わなかった。当時の私は4月に教科書を受け取ると、その日のうちに全部読んでしまう子供だった。それに図鑑や参考書とお友達。なので、授業の先の先まで知っている私を怒り、その先生はクラス全員の理科の教科書を没収したりさえしたのだ。そんなことをされても私は痛くも痒くもなかったのであるが、いまだにそういうことをする先生の人間性を疑う。まぁ当時の先生は24歳。私は扱いにくい子供だったのだろう。

その先生がやたら勧めた本があった。表紙のデザインは違っていたが、ハードカバーのコンチキ号漂流記。面白いから読めと、4年性の夏休みか冬休みか忘れたが、クラス中を回覧したのであった。当時私は、親から「本の話ばかりするからもう本を読むな」と言われるほど読書好きだったのだが、「これを読め」と強制されると全く読む気がなくなるのであった。ましてや嫌いな先生に勧められた本など・・・。私は1ページも読まずに次の順番の男の子の家に持って行った。「面白くなかった」と言って。その子は数年後に亡くなり、その「面白くなかった」というのが最後に交わした会話になってしまった。

幸い、その本について先生が個人別に感想を求めたりすることはなかった。高校の英語の教科書に超要約版が載っていたので、どういう話なのかやっと分かった。だが大人になってから、「今ではヘイエルダール(ハイエルダール)の説はほぼ否定されている」という話をどっかで読んだことから、また興味を失った。

そんな私がなぜ改めて読もうと思ったのかというと、先日「日本史サイエンス2」という本を読んで、古代船を復元したもので北九州から朝鮮半島に渡ろうとしても、対馬沖の海流のせいでなかなかうまくいかないという話を読んだからだ。あんな狭い距離を渡れないなんて・・。そもそも長距離を筏で航海したハイエルダールはどうやって渡ったのだろうということに急に興味が湧いてきたのだ。

読んでみると、本当に面白く、あっという間に読み終わってしまった。読書には縁というものがある。小学校4年生の私には、もし頑張って読んだとしても表面的にしか分からなかったのではないだろうか。特に最初の方、人を募る話、役所との話、国との話など、それがどんなに大変な話なのか子どもにはわからないだろう。また神奈川県の地理までしか習っておらず、日本地理も世界地理も知らなかった私にとって、なぜハイエルダールがそのような航海をしようと思ったか、理解できなかっただろう。あの時は縁がなく、逆に今読んで良かったのだ・・と思う。

そもそも今でさえポリネシアとミクロネシアとメラネシアの違いをちゃんとわかっていないが、ハイエルダールがターゲットにしたのはポリネシア。結構広くて北はハワイ、南西にニュージーランド、南東にイースター島の広大な三角形の中にある。真ん中らへんにタヒチがある。南の方はフランス領だな。距離は遠いが、ハワイのフラダンスはタヒチから伝わったと言われるので、なんとなくつながりがあるのはわかる。ハイエルダール達6人は一人も欠けることなく、ペルーからタヒチの近くの島まで、筏で航海したのだ。

その筏だが、この本の表紙にあるように意外に高機能である。インデアンの筏を資料に忠実に再現したものだというが、図からはよく見えないが、可動竜骨を持っている。船が航路から逸れないように、あるいは舵の代用としても使えるもの。長らく竜骨のない船に乗っていた、日本の古代人とは大違いだ。

6人の乗組員・・探検好きの軍隊経験もある人たち・・この人たちだからこそ渡れたのではないかという気もする。ハイエルダールは生物にも詳しい学者であり、サメのヒレを手で引っ張って屈服させ、何匹も釣り上げている。わぁそんな技があるならヘミングウェイの書いてたじいさんに教えてやってよ・・・。

筏の上には飛魚やイカが自然に乗ってきて、魚も豊富に食べれたようだ。プランクトンネットでプランクトンを取って食べたりもしたようだ。嵐に何度も見舞われたが、バルサの木を乾かさないまま使って、かつ昔のように綱で繋ぎ止めていたのは逆に幸いしたようだ。樹液により海水の浸透を免れ、綱が食い込むことで、隙間は開いたがバラバラになることはなかった。金属製の鎖だったらかえってダメだったろうと。

航海以上に着岸も相当に難しいことがわかった。とにかく、海のこと、船のこと、生物のこと、実話だからこそ全部勉強になる本であり、例えこの航海が南米からポリネシアに人が渡ったという証明にならなくても、この航海自体は偉大で尊敬されうる価値のあるものである。

この本は子供向けに3分の2ぐらいに要約しながら訳された本だという。なので原書を普通に訳したやつも読んでみたいと思った。


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