【北京】ここ数年間で中国と他国との関係が悪化するとその国の製品がボイコットされるのが通例になってい
る。尖閣諸島(中国名は釣魚島)紛争も例外ではない。
今月に入って日本政府による3島国有化に対する抗議活動が中国十数の都市で行われた。二国間関係は悪化し
、中国政府に対して日本政府に経済的痛みを加えるよう促す声には一般市民のみならず多くの学者も加わり、二
国間の貿易関係に打撃を及ぼした。
中国の一般市民が法律を順守するかぎりにおいてボイコットを支持する自由を持つことは言うまでもない。し
かし、国家の利益をふまえると政治と経済との分離が不可欠であり、経済のカードを安易に切ることの危険性を
警戒する必要がある。ボイコット擁護派のうち暴力に訴えた少数の要求は無視すべきだ。
過去40年もの外交関係を通じて、中国と日本は歴史や領有権の問題でたびたび衝突している。しかし、これは
堅調に成長する二国間貿易を総じて揺るがしてこなかった。
昨年の中国の対外貿易に占める日本の比率は8.5%、日本から中国への投資は50%増、対中輸出は10%増とな
った。今年に入っても、中国への海外投資が縮小する中、日本からの投資は16%増えている。日本にとって、中
国は輸出、輸入の最大の相手だ。
二国間貿易に重大な支障をきたせば両国とも打撃を被る。それでも、このことに異論を唱える学者もいる。日
本の中国経済への依存性はその逆よりも大きいというのだ。つまり、中国が「経済の引き金」を引くと日本経済
は壊滅的な影響を受け、もう10年か20年喪失するのだという。
これは事実に基づく分析というよりは推測にとどまる。低調な日本経済が世界経済に及ぼす影響など考慮する
ことをやめよう。少なくとも日本の下降は中国経済に予期せぬ形で影響を及ぼし、下降局面につながる可能性も
ある。
成長維持に加えて、中国は経済開放を続けなくてはならない。「経済的トリガー」を引くことを検討する前に
、当局にとってこうした行動が及ぼす向かい風について熟考することが賢明であろう。
日本は世界の工業サプライチェーンのハイエンドに位置する一方、中国はローエンドの製造拠点にある。中国
は毎年、製品組み立てのために大量の部品を輸入し、製品を世界中に輸出している。
こうした日本製部品には容易に代用できないハイテクの高付加価値製品も含まれる。昨年の津波や原子力発電
事故が中国のみならず、欧州、米国のエレクトロニクス、自動車業界に影響を及ぼしたことは記憶に新しい。
日本系企業や日本製物品に依存する事業に勤める中国人は多い。日本製製品のボイコットはこうした製品の輸
入に伴う有益な技術移転の阻止につながるのみならず、大量の雇用喪失の原因になりかねない。これは不安定な
中国経済にとって悲惨なことになろう。
むしろ中国は事業環境を改善し、法整備を強化しなくてはならない。日本企業を攻撃し、その事業を締め出す
ことは法律に反する。
市場の機能はすべてを均等に扱うことに依存する。過激な圧力団体が日本の利益にダメージを及ぼすことを容
認すれば、外国のすべての事業や投資家に歓迎し得ないメッセージを伝えることになる。これは中国での事業コ
ストを引き上げるもので、一部の黎明(れいめい)期にある産業、地域に深刻な打撃を及ぼす資本逃避を招きかね
ない。
最終的に、こうした行動は中国が釣魚島を取り戻すことを支えるものではない。一部の人々が怒りを表すこと
に成功するだけだ。
もう1つ考慮することは中国と日本、韓国との自由貿易協定(FTA)をめぐる協議で、これが実現すれば欧州連
合(EU)に匹敵する貿易圏となる。3国が別途ASEAN加盟10カ国とのFTA協定を完了していることをふまえると、1
3カ国からなる自由貿易圏の台頭も考えられる。
10年もの準備期間をへて、3カ国交渉は今月末に開始予定だった。
各国政府高官らが政策協調に動き、摩擦を最小限に食い止め、互いの競争上の優位性を補完すれば、欧州や米
国の低迷を補うような活発な貿易圏を設ける潜在性もある。一方、領有権に注力すれば地域の発展はおろか、国
内の成長も犠牲になる。
領有権紛争の悪化以来、われわれは協議が続くことに期待する以外になくなっている。
中日関係の特長が政治と経済の分離となり続ける公算は大きい。経済的協調は戦略的信頼を揺るがすものでは
ない一方、経済戦争が両国関係を損なうことは間違いない。中国に経済制裁に臨むことなく外交で解決する道は
ある。時間は中国側に有利に働いている。(財経)
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