2011/08/18, 14:12, 日経速報ニュース
17日のニューヨーク市場で、金先物(中心限月の12月物)が再び1トロイオンス1800ドルに迫った。理由の一つとして市場関係者が挙げるのは、ベネズエラのチャベス大統領による金の国内採掘・製錬業の国有化計画だ。同大統領は反米姿勢を隠さない辣腕政治家として知られ、過去には石油や化学など素材産業の国有化にも踏み切っている。資本主義のルールをねじ曲げることに対しては、抵抗がないという見方がもっぱらだ。そんなチャベス氏が今度は金に触手を伸ばしたことで、資源ナショナリズムの対象に金も入るのではないかという警戒が市場で広がっている。
ベネズエラは石油輸出国機構(OPEC)に加盟する世界有数の産油国で、原油を主たる外貨の獲得源としている。一方、同国の金の年間生産量は世界全体の生産量の1%にも満たない。中央銀行などの国家保有が365.8トン(8月末時点、ワールド・ゴールド・カウンシル調べ)と世界15位に入り、存在感を示している程度だ。
チャベス大統領は欧米の銀行に保管する金を国内に移送することも発表した。海外資産の差し押さえなど不測の制裁措置の影響を回避する狙いがあるとされる。もっとも、スタンダードバンク東京支店の池水雄一支店長は「ベネズエラが海外に保有する金を自国内に運んでも、現物市場の流動性や価格に与える影響は小さい」とみる。
むしろ、市場で意識されているのは、金価格が高騰するなかで国有化を宣言したことへの警戒感だ。住友商事総合研究所の鈴木直美・市場分析チーム長は「主要な生産国が市場への流通量を絞り込み、自国内にため込む可能性が意識された」と指摘する。産金国の上位には、中国や南アフリカ共和国、ロシア、ペルーなどが顔を並べている。「資源産業ではグローバル化と反対の動きが起きる」(鈴木氏)ことは、こうした国で過去に起きたことからも明らかだ。例えばロシア。2007年には日本の商社なども参画した資源開発事業「サハリン2」を巡り、同国政府が環境問題を持ち出して西側企業に圧力をかけた結果、経営の主導権をロシア企業に奪われている。
現在の金価格上昇の底流にあるのは、ドルやユーロといった主要通貨への不信だ。各国の中央銀行は外貨準備の多様化を目的に金の購入を増やしている。ロシアやメキシコなどが今年に入り保有量を増やしたほか、韓国が13年ぶりに金を25トン購入している。国家による金の保有拡大と資源ナショナリズムが重なり合ったとき、金の価格に与える影響は無視できなくなる――。市場では、こんな警戒感がじわりと広がり始めている。〔日経QUICKニュース 三輪恭久〕