いつもは会社の近くのファミリーマートで昼食用の弁当を買ってから出社するのであるが、朝はとにかく品数が少なくて、毎日おなじようなものに偏ってしまう。はっきり言って単調で飽きたりもする。
たまには目先を変えてみようと、家の近くのセブンイレブンに寄ってみたのだが、やはり朝の同じ時間帯のコンビニはどこも似たり寄ったりで、陳列棚は隙間の方が多い。
それでもファミリーマートには置いてない商品があったので、とりあえずそれを買うことにし、ついでにお茶と煙草も手にしてレジに向かった。
レジのバイトの女の子の顔を見て一瞬「えっ!」と驚いたものの、相手は極めて神妙な面持ちで、「温めますか?」とか「お箸付けますか?」とか聞いてくる(もちろんマニュアルどおりである)ので、こちらもつい真顔で、「いえ、結構です」とか「はい、お願いします」とか答える。
お互いレジカウンターを挟んで、極めて近い距離で向き合っているにも係わらず、女の子はまるでわたしのことを知らないかのようにニコリともしないが、胸の名札を見れば彼女であることに間違いない。何となくぎこちない印象を受けるのは、仕事に慣れないせいなのかも知れない。
その日の夕刻、庭で花殻を取ったり草を抜いたりしていたら、隣りの家の駐車場の屋根上ガーデンで彼女が水遣りをしていた。そう、朝コンビニにいたアルバイトの女の子は隣家の娘なのである。大学一年だったと思うが、普段からちょくちょく顔も合わせるし、「犬みせて」とか言いながら、わが家に上がり込んだりもする。
「おーい、ア○ネ(呼び捨てである)、お前(オマエ呼ばわりである)いつからバイトしてんだ」
「もう一か月くらい。今朝○○さん(姓ではなく名前である)入ってきた時すぐに解ったよ」
「そうかぁ?」
「挨拶したのに、知らんふりしてた」
「ぜんぜん気付かんかったぞ。お前の声が小さすぎたんだろ」
「そうかもね。あの店よく行くの?」
「たまたま今日だけだ。あんまり真剣な顔してるから緊張してるのかと思って声掛けなかったけど」
「まだ多少は緊張する時もあるけど。何で声掛けてくれないのかなって思ってた」
「そっちは仕事中だし、邪魔しちゃ悪いと思ってな。今度行ったら声掛けるよ」
「うん。声掛けてね、平気だから」