夕涼み よくぞ男に 生まれけり
ご存知、江戸期の俳諧師、宝井其角(たからい きかく)の句である。「夕涼み」が夏の季語となっている。
くそ暑い夏の盛りの夕べに、ひとっ風呂浴びて浴衣なんぞを着こなし、縁側でもって浴衣の襟元をはだけて、団扇かなにかで胸元に風を送り込む。おぉ涼しい、女じゃとてもこうはいかねぇよな、な~んて情景が目に浮かぶようではないか。或いは褌一丁で縁台将棋なんぞを指している、といった図かも知れないなぁ。
「もぅ~、またオシッコ飛び散らかしてぇ。 床がベタベタじゃ~ん。 座ってしなさいよぉ」
耳には届くが毎度のことである。こういう時は知らん振りを決め込むに限る。だいたい女子どもじゃあるめぇし、男が座って小便なんぞできるかってんだ。江戸っ子をナメんじゃねぇぞ。 江戸っ子じゃねぇけどな。
たしかに、近頃は勢いはねぇし、放物線なんて表現とは程遠く、ただ力なく下に零(こぼ)れ落ちるだけと言った方が当たってたりもすらぁな。たしかにな。たまに調子が悪いときなんざ、先端の方で二筋に枝分かれしちまったりもすっからよぉ。別にワザとじゃねぇし。ワザとできたら特技じゃねぇか。
だからっておめぇ、いつの時代だろうが、立小便こそが男の本分ってもんじゃねぇか。 よくぞ男に生れけりってなもんよ。てやんでぇ。 …いちおう拭いといたかんな。