20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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『樋口一葉』(真鍋和子著・講談社火の鳥伝記文庫)

2009年06月16日 | Weblog
 友人の作家、真鍋和子さんからしばらく前にご恵贈いただいていたご本です。
 ご紹介がたいへん遅くなってしまいました。
 あらためて、これはご紹介しなくてはとの思いでこれを書いています。

 樋口一葉が、その代表作である「たけくらべ」や「にごりえ」をどんな思いで、またどんな生活状況のなかで描ききったのか。
 この伝記を読むと、それが実感として伝わってきます。

 かつての師匠であった「半井桃水」に「古めかしい」と言われた一葉の作風。そこからどんな風に彼女は文学を掴み取っていったのか。
 また日々の暮らしや、住む町の光と影。そんな光景からなにを見つけ出していったのか。
 この伝記を読みながら、そういった一葉を巡る一部始終がつまびらかに解けていくのがわかりました。

 ここで、ちょっと、一葉の代表作である『にごりえ」の抜粋を。

「おい木村さん信さん寄ってお出よ、お寄りといつたら寄っても宣いではないか、又素通りで二葉やへ行く気だらう、押しかけて行つて引きずつて来るからさう思いひな、ほんとにお湯なら帰りの屹度よつてお呉れよ。嘘つ吐きだから何を言ふか知れやしないと店先に立って馴染みらしき突かけ下駄の男をとらへて小言をいふような物の言ひぶり、腹も立たずか言訳しながら後刻に後刻にと行過るあとを・・・」
 
 モノローグの力強さ。迫力。リズム感。
 一葉があの時代にあって、「新しい」それも日本ではじめての女流作家であった存在感を、この短い抜粋の中からだけでも感じることが出きます。 
 この『樋口一葉』の伝記では、そういった一葉の才能と生き方、人間を見つめるまなざし。そういったものを真鍋和子さんらしいヒューマンな視点、問題意識から丁寧に描いています。
 実によく調べ上げています。

 ぜひお読みになって、今の時代にあらためて「一葉」を感じ取っていただけたらと思います。
コメント
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