都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「王朝の恋」 出光美術館
出光美術館(千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階)
「描かれた伊勢物語 王朝の恋」
1/9-2/17
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/fa/ec50d391d775d6003d7398195070988a.jpg)
これなら伊勢物語の知識のない私でも楽しめます。主に宗達の「伊勢物語図色紙」にて恋物語を追いながら、それに取材した書画や工芸などを一堂に見る展覧会です。出光美術館の「王朝の恋」へ行ってきました。
この展覧会の対象が第一に伊勢物語ファンとされているのなら、第二は琳派ファンと言っても良いのではないでしょうか。実際、上記の宗達の色紙(約30点)をはじめ、伝宗達の「伊勢物語図屏風」、伝光琳、または抱一、芦舟の屏風絵など、かなり見応えのある琳派作品が揃っています。そしてそれらが集中して紹介されているのは、ちょうど展示の第三番目、「東下り」のセクションです。冒頭、「昔、男ありけり」で始まるかの有名な行が、琳派の絵師によって雅やかな絵画へと仕立てられています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/af/b508d7d2da3b4d23c44108c4bec1e6c2.jpg)
ある男が三河八橋の地に行き着き、そこで「かきつばた」の五文字を句にして歌に詠んだという八橋の主題では、酒井抱一の「八ッ橋図屏風」が白眉です。眩しいばかりの6曲1双の金屏風に配されているのは、右上から左下へと向かって進む橋に沿って繋がる燕子花の群れでした。ここでは、例えば光琳の燕子花に見るような逞しい造形美はなりを潜め、むしろその葉は水にそよぐ草のように、また花びらはあたかも蝶がとまるような姿にて穏やかに描かれています。また、ポスターカラーのような平面的な燕子花と、たらし込みを多用し、苔の緑も滲んだような瑞々しい橋の描写の対比も鮮やかでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/eb/36d1b7f4807764d32d5f099c31ca85d0.jpg)
抱一ではもう一点、光琳百図からそのモチーフを借りたとされる「宇津山図」も出品されています。駿河の宇津山にて男が修行者へ歌を託すという光景が、どこか乾山を思わせる軽妙なタッチにて描かれていました。またここで興味深いのは、伝宗達の「伊勢物語図屏風」との類似です。この屏風は宇津山や住吉行幸等々の場面を、図像的な雲霞によるそれこそ異時同図法にて巧みに表したものですが、宇津山の場面の構図が抱一の作とかなり似ています。ここに、伝宗達の元の屏風、光琳百図、そして抱一作の「宇津山図」と、いわゆる琳派の系譜を辿ることが出来るのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/4a/908fb7f52dea29169628311812bb8806.jpg)
抱一の同名作も名高い、伝宗達の「月に秋草図屏風」も見応えがありました。殆ど地へ溶けて消えゆくかのような金色のすすきがか細く靡き、そこへに粉雪のような白い花々を付けた秋草が風雅に咲き乱れています。これと抱一作にどのような関連があるかは不明ですが、抱一のそれが、空と月を求めて秋草が大きく舞うという、どこか非現実的でシュールな秋の寂寞感を伝えるのに対し、宗達はもっと温かい眼差しを地に向けた、あたかも虫の声が聞こえ出すかのような秋の身近な情緒を巧みに示した作品とも言えるでしょう。見事な一枚でした。
会期末と、期間限定の「伊勢物語絵巻」(和泉市久保惣記念美術館所蔵)の展示が重なったからかもしれません。会場はかなり混雑していました。宗達の色紙の一角は行列です。
次の日曜日、17日まで開催されています。
「描かれた伊勢物語 王朝の恋」
1/9-2/17
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/fa/ec50d391d775d6003d7398195070988a.jpg)
これなら伊勢物語の知識のない私でも楽しめます。主に宗達の「伊勢物語図色紙」にて恋物語を追いながら、それに取材した書画や工芸などを一堂に見る展覧会です。出光美術館の「王朝の恋」へ行ってきました。
この展覧会の対象が第一に伊勢物語ファンとされているのなら、第二は琳派ファンと言っても良いのではないでしょうか。実際、上記の宗達の色紙(約30点)をはじめ、伝宗達の「伊勢物語図屏風」、伝光琳、または抱一、芦舟の屏風絵など、かなり見応えのある琳派作品が揃っています。そしてそれらが集中して紹介されているのは、ちょうど展示の第三番目、「東下り」のセクションです。冒頭、「昔、男ありけり」で始まるかの有名な行が、琳派の絵師によって雅やかな絵画へと仕立てられています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/af/b508d7d2da3b4d23c44108c4bec1e6c2.jpg)
ある男が三河八橋の地に行き着き、そこで「かきつばた」の五文字を句にして歌に詠んだという八橋の主題では、酒井抱一の「八ッ橋図屏風」が白眉です。眩しいばかりの6曲1双の金屏風に配されているのは、右上から左下へと向かって進む橋に沿って繋がる燕子花の群れでした。ここでは、例えば光琳の燕子花に見るような逞しい造形美はなりを潜め、むしろその葉は水にそよぐ草のように、また花びらはあたかも蝶がとまるような姿にて穏やかに描かれています。また、ポスターカラーのような平面的な燕子花と、たらし込みを多用し、苔の緑も滲んだような瑞々しい橋の描写の対比も鮮やかでした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/eb/36d1b7f4807764d32d5f099c31ca85d0.jpg)
抱一ではもう一点、光琳百図からそのモチーフを借りたとされる「宇津山図」も出品されています。駿河の宇津山にて男が修行者へ歌を託すという光景が、どこか乾山を思わせる軽妙なタッチにて描かれていました。またここで興味深いのは、伝宗達の「伊勢物語図屏風」との類似です。この屏風は宇津山や住吉行幸等々の場面を、図像的な雲霞によるそれこそ異時同図法にて巧みに表したものですが、宇津山の場面の構図が抱一の作とかなり似ています。ここに、伝宗達の元の屏風、光琳百図、そして抱一作の「宇津山図」と、いわゆる琳派の系譜を辿ることが出来るのかもしれません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/4a/908fb7f52dea29169628311812bb8806.jpg)
抱一の同名作も名高い、伝宗達の「月に秋草図屏風」も見応えがありました。殆ど地へ溶けて消えゆくかのような金色のすすきがか細く靡き、そこへに粉雪のような白い花々を付けた秋草が風雅に咲き乱れています。これと抱一作にどのような関連があるかは不明ですが、抱一のそれが、空と月を求めて秋草が大きく舞うという、どこか非現実的でシュールな秋の寂寞感を伝えるのに対し、宗達はもっと温かい眼差しを地に向けた、あたかも虫の声が聞こえ出すかのような秋の身近な情緒を巧みに示した作品とも言えるでしょう。見事な一枚でした。
会期末と、期間限定の「伊勢物語絵巻」(和泉市久保惣記念美術館所蔵)の展示が重なったからかもしれません。会場はかなり混雑していました。宗達の色紙の一角は行列です。
次の日曜日、17日まで開催されています。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )
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私も先週行って参りました。
伝宗達の「月に秋草図屏風」の月が存在感があって、繊細に描かれた秋草との対比が美しく、しばらく見入ってしまいました。
伝宗達の「伊勢物語図屏風」と抱一の構図は本当によく似てますね~
>ポスターカラーのような平面的な燕子花
私も同じようにポスターカラーみたいって思いましたよ(笑)
4色しか使ってませんもんね~~~
なんでそうしたのか聞きたいです(笑)
観てみたいものですね。
色紙でもいいから。。。
どこかで「発見」されないかな~
こんばんは。早速のTBをありがとうございます。
>「月に秋草図屏風」の月が存在感があって、繊細に描かれた秋草との対比が美しく
同感です。
どっしりとのしかかる月と、仰るような繊細な秋草とのコントラストが見事でしたよね。
出光所蔵の琳派作品でも特に見入る一枚です。
@グリシーヌさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
>私も同じようにポスターカラーみたいって思いましたよ(笑)
4色しか使ってませんもんね
先日まで東博にでていた四季花鳥図屏風の燕子花と似たようなところがありますよね。あれもかなり平面的です。何故なのでしょう…。(やはり光琳を意識?)
>抱一が描いた伊勢物語絵巻とか
観てみたいものですね。
伊勢物語主題の作品は結構あるようですからね。
もしかしたらどこかに、という話もあるかもしれません…。(期待もこめて…。)
昨日こちらのブログを拝見して、たまたま券も
手にはいったので今日また行ってきました。
琳派の絵としての視点で見直し、あの抱一の
「八橋図屏風」をじっくり、橋の色、にじみ具合
わあ滑りそうなんて、緑の葉が写り…橋げたの
綺麗なこと、燕子花のみずみずしいこと、
いっぱいにかざられた六曲一双のうつくしい
こと。ためいきです。
「月に秋草図」伝宗達 あのすすきと月、
すばらしいですね。 感謝してます。
伊勢物語の解説文があったのが、絵を見る際の
参考になり、良かったと思います。
八橋の屏風、いろいろ折り曲げて、立体的に
眺めてみたいなぁと感じました。
不思議に思う事があります。
たらし込みの技法を駆使したため息を誘う作品とマットで簡素なものと...
「八ッ橋図屏風」はその両方が同居する不思議な絵でした。橋を強調することにより杜若(女性)の中をすり抜ける男性(業平)を引き立たせたかったのでしょうか?
今回はそんな感想を持ちました。
こんばんは。TBをありがとうございました。拙ブログが少しでもお役に立てれば嬉しいです。
>にじみ具合わあ滑りそうなんて
仰る通りですよね。たらしこみがとても効果的でした。
何度見ても本当に美しい作品だなと思います。一度は、師の光琳の燕子花の脇に並べて拝見出来れば良いですよね。
@一村雨さん
こんばんは。
>八橋の屏風、いろいろ折り曲げて、立体的に眺めてみたい
屏風ですから、また折り曲げたりすると、立ち上がる場もまた大きく変わってくるのではないでしょうか。折ると、橋の段違いになる様がさらに強調されてきそうです。(燕子花はより濃密な群生になるのでしょうか。)
>絵を見る際の参考になり、良かったと思います。
同感です。伊勢物語を全く知らない私でも楽しめました。
@るるさん
こんばんは。
>「八ッ橋図屏風」はその両方が同居する不思議な絵でした
今回はその明快な対比が成功に結びついている作品かもしれませんね。
杜若をすり抜ける業平…。想像しただけでも風流です…。