「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その2・展示全般)

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「特別展 妙心寺 - 京が伝える禅の名宝 - 」
1/20-3/1



南北朝時代に開創した妙心寺の寺宝は何も江戸絵画だけによりません。「その1」で紹介した江戸絵画以外の文物をまとめてみます。東京国立博物館での妙心寺展プレビューへ行ってきました。

*写真撮影、掲載については主催者の許可をいただいています。



まず平成館のエスカレーターをあがって向かって左、第1章「臨済禅」冒頭で待ち構えるのが、妙心寺の開山である「関山慧玄坐像」(江戸時代/通期)です。実際のところ同僧の肖像は一切残っていないため、後の世の人々が想像にてこのような坐像を作り上げました。



国宝の「宋峰妙超墨蹟『関山』道号」(鎌倉時代/前期)。大徳寺の開山であり、関山慧玄を花園天皇に推挙した宋峰妙超が書いたとされています。



「六代祖師像」(鎌倉時代/前期)。初祖達磨に始まる禅の六代祖師が一挙に登場します。ちなみに同作例としては国内で現存する最古のものです。



関山と並びもう一体、一際目立つのが「花園法王坐像」(江戸時代/通期)です。そもそも妙心寺は花園天皇の離宮を禅寺としたことに始まっています。泰然と構えておられました。



「瑠璃天蓋」(明時代/通期)。ガラスの小玉で精緻に表された天蓋です。法王の座所、玉凰院の外陣に懸かっていました。こうした工芸品もまた見所の一つです。



同じく玉凰院で用いられていた戸、「山水楼閣人物図螺鈿引戸」(明時代/通期)が初公開されています。仄かな光沢感を纏っているのをお分かりいただけるでしょうか。これは文様に螺鈿、つまりは夜光貝が用いられているためです。修復を終え、輝きもよみがえりました。

(第3章「妙心寺の中興」展示室)

前半部では主に開山、開基(寺院開創時に経済的に支援する世俗の信者)にまつわる作品を紹介していましたが、同章を含む中盤では、義満の時代、応永の乱(1339)のために中絶した妙心寺の苦難の歴史を辿っています。現在こそ広大な敷地を誇る同寺ですが、その発展の経緯は決して順風満帆というわけではありませんでした。(同時期の僧侶の肖像画などが並んでいます。)

(第4章「禅の空間2」展示室)

さて俄然面白くなってくるのが第4章以降です。ここからは室町絵画など、中、近世絵画ファンには見逃せない文物が続いています。



狩野元信「瀟湘八景図」(室町時代/前期)。狩野派の始祖、正信の子元信の四幅の八景図です。



放屁が得意だったという男を題材とした滑稽な物語絵巻、「福富草紙」(室町時代)です。禅寺がこうした作品を所蔵しているとは思いませんでした。



妙心寺は戦国大名の帰依も多く受けました。第6章「妙心寺と大檀越」入口、正面に見えるのは、豊臣秀吉の子で僅か三歳にして亡くなった棄丸所用の「玩具船」(安土桃山時代・通期)です。赤ん坊の棄丸がこの船(実際には四輪車になっています。)に乗り、臣下に引っ張らせて遊んだと伝えられています。ちなみに棄丸の葬儀は妙心寺の僧侶が行ったそうです。両者には深いつながりがありました。



再び登場した別バージョンの「瑠璃天蓋」(明時代/通期)です。こちらは同じく帰依した春日局を祀る麟祥院に懸かっています。春日局は長男正勝の菩提を弔うため、妙心寺に隣接する場所に麟祥院を建てました。



後半部、第7章「近世の禅風」では妙心寺の生んだ最大の改革者、白隠が登場します。豪快な「達磨像」(江戸時代/通期)に、彼の気宇壮大な心持ちを見る思いがしました。

白隠を過ぎると、前回取り上げた主に江戸期の襖絵、障壁画の一括展示です。ハイライトは壮観でした。

「特別展 妙心寺」 東京国立博物館(その1・速報『江戸絵画』)

改めて一点、メトロポリタン美術館よりやって来た狩野山雪の「老梅図襖」(江戸時代/通期)を挙げておきます。このただならぬ気配を是非会場で味わってください。

(クリックで拡大します。)

「さながら身もだえしのたうちまわる巨大な蟠龍のように、上昇し、下降し、屈曲し、痙攣している。」(展覧会図録より。辻惟雄著『奇想の系譜』から。)

私も出来れば前期にもう一回、そして絵画作品の多く入れ替わる会期後半に必ず足を運ぶつもりです。

前期展示:1/20~2/8、後期展示:2/10~3/1出品リスト

3月1日まで開催されています。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
« 「特別展 妙心... 「内海聖史 - ... »
 
コメント
 
 
 
老梅図襖 (prelude)
2009-01-22 01:06:09
チラシを見てもそれほど強くは惹かれていなかったのですが、どうやら「老梅図襖」一点を見るためにだけでも足を運ぶ必要がありそうですね。写真でもこれだけ圧倒されますから、実物を目の前にしたら卒倒必至です。

もう何十年も前の話になりますが、うちの母が高校の先生のコネで妙心寺に泊めていただいたことがあると言っていました。ひょっとしたら、その時にガラス越しにではなく直に見せていただいたものも展示されているかもしれませんね。

母に東博で「妙心寺展」があるということを話したら、「ふーん、そう。」で片付けられてしまいましたが・・・(妙心寺に泊めていただいたことの価値、わかってるんでしょうか?)。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-01-22 01:35:08
preludeさんこんばんは。コメント有難うございます。

>どうやら「老梅図襖」一点を見るためにだけでも足を運ぶ必要がありそう

まさに仰るとおりですね。
山雪あたりはどうもまだ真価が見開かれていない気もしますが、
たとえば対決展で若冲らと並んでもおかしくはない重要な絵師だと思います。
この展示で少しでも火がつけば面白くなるかもしれません。

>母が高校の先生のコネで妙心寺に泊めていただいた

何とご縁がありましたか!
是非是非お母様と上野まで足を運ばれてはいかがでしょう。
常設には若冲も出ています!
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。