都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「特別展 長谷川等伯」 東京国立博物館(Vol.1 全体の印象)
東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9)
「特別展 長谷川等伯」
2/23-3/22
東京国立博物館ではじまった「特別展 長谷川等伯」へ行ってきました。
何を思ったのか平日にも関わらず、初日に出かけてしまいましたが、個々の感想は次回以降に廻すとして、ここでは全体の大まかな印象などを手短かにまとめてみました。
【展覧会の構成】
順路は正面に向かって左へと回ります。第1章にまだ等伯と名乗る前、信春時代の仏画が並び、以降、肖像、障壁画、水墨と続いて、最後の第7章に「松林図」が待ち構える流れとなっていました。基本的には回顧形式ですが、必ずしも年代順ではないので、激動に満ちた等伯の生涯をリアルに追えるほどのストーリー性はないかもしれません。どちらかというと等伯大名品展の様相でした。
【展示方法】
はじめに並ぶ仏画はとても小さいため、混雑していると長蛇の列になりかねません。また仏画の細密描写を味わうには間違いなく単眼鏡が必要です。一方で巨大な作品、全11メートルにも及ぶ「仏涅槃図」は天井からぶら下がっているものの、下の部分は床に接触して折れ曲がってしまっています。その大きさにはたまげるばかりですが、かなり手前に柵があるために、細部をじっくり楽しむのは相当に難しいのではないでしょうか。ひょっとすると双眼鏡があっても良いかもしれません。
【等伯の魅力】
・線を操る
ともかく仏画しかり、初期作からの細やかな線描には目を見張るものがあります。一方での水墨表現における溌剌とした、まさに水が激しく流れるかの如く自由に泳ぐ線も魅力的です。硬軟使い分けて描く、その多彩なスタイルには驚かされました。
・空間を把握する
霧と靄に澱む「松林図」はもちろんのこと、風がそよぐ「萩芒図屏風」など、等伯の屏風絵には大気が流れています。いわゆる余白に空気を含み、前景から限りなく奥へと開けていく深淵な空間には吸い込まれそうになりました。横ではなく、奥へ奥へと進んでいく感覚は、この時期の他の絵画ではあまり感じられません。
・雅やかな飾り
巨木を隠してしまうほど花や葉が茂る「楓図壁貼付」をはじめ、肖像画における例えば法衣の細部の意匠の描きこみなど、等伯は事物を彩るものへの並々ならぬ関心を示しています。装飾性も一つのキーワードとなりそうです。
【ハイライト】
もちろん順路からすればラストの「松林図」に違いありませんが、一方での雅やかな「楓図壁貼付」、さらには前述の巨大な「仏涅槃図」、または荒々しき波が雲霞の隙間から鋭く迫る「波濤図」などの作品が、それぞれ展示の重要なポイントになっているのではないでしょうか。また数としては前半の仏画、肖像画が目立ちます。後半部の水墨画の表現との差異には半ば頭が混乱するほどでしたが、そもそもあまりにも多様な等伯の芸風を一括りに捉えるのは土台無理なことだったのかもしれません。
【図録・音声ガイド】
全340ページ余りの図録はさすがに豪華です。鮮明な図版はもとより、4本の論文、または詳細な作品解説が付属しています。2500円ですが、即購入したのは言うまでもありません。また音声ガイドは松平定知氏のナレーションです。全体的に簡潔な内容でしたが、等伯の生涯に沿う形での解説が多いので、展示ではやや掴みにくい面を補完する内容にはなっていたかもしれません。全30分、500円でした。なおある作品の前で「その時、歴史は動いたのです。」という名ゼリフが入ります。これはご愛嬌です。
作品数で勝負する展示ではないので、見方によってはさほど時間はかからないかもしれませんが、私は2時間でも足りませんでした。なお特別展はその日、1回に限って再入場(平成館)が可能です。休憩などに重宝します。
なお途中一回、一部の作品の展示替えがあります。詳細は出品リストをご参照下さい。
また私の印象云々ではなく、主催者による展示のポイントについては、前に拙ブログの以下の記事にまとめてあります。宜しければご覧下さい。
「没後400年 特別展 長谷川等伯」 記者発表会
初日から混雑する展覧会は少ないかもしれませんが、私としては予想していたよりも静かな出足だと思いました。
「もっと知りたい長谷川等伯黒田泰三/東京美術」
それでは次回、Vol.2では各章毎に印象に残った作品について書いていきたいと思います。
*関連エントリ(長谷川等伯展シリーズ)
Vol.2(仏画・肖像画)/Vol.3(金碧画)/Vol.4(水墨画と松林図の世界)
*追記:混雑状況について
会期も後半に入り、展覧会はかなり混雑してきています。入場待ち時間などの混雑状況は、等伯展公式WEBサイトでもリアルタイムに更新されていますので、そちらもご参照下さい。
「特別展 長谷川等伯」
2/23-3/22
東京国立博物館ではじまった「特別展 長谷川等伯」へ行ってきました。
何を思ったのか平日にも関わらず、初日に出かけてしまいましたが、個々の感想は次回以降に廻すとして、ここでは全体の大まかな印象などを手短かにまとめてみました。
【展覧会の構成】
順路は正面に向かって左へと回ります。第1章にまだ等伯と名乗る前、信春時代の仏画が並び、以降、肖像、障壁画、水墨と続いて、最後の第7章に「松林図」が待ち構える流れとなっていました。基本的には回顧形式ですが、必ずしも年代順ではないので、激動に満ちた等伯の生涯をリアルに追えるほどのストーリー性はないかもしれません。どちらかというと等伯大名品展の様相でした。
【展示方法】
はじめに並ぶ仏画はとても小さいため、混雑していると長蛇の列になりかねません。また仏画の細密描写を味わうには間違いなく単眼鏡が必要です。一方で巨大な作品、全11メートルにも及ぶ「仏涅槃図」は天井からぶら下がっているものの、下の部分は床に接触して折れ曲がってしまっています。その大きさにはたまげるばかりですが、かなり手前に柵があるために、細部をじっくり楽しむのは相当に難しいのではないでしょうか。ひょっとすると双眼鏡があっても良いかもしれません。
【等伯の魅力】
・線を操る
ともかく仏画しかり、初期作からの細やかな線描には目を見張るものがあります。一方での水墨表現における溌剌とした、まさに水が激しく流れるかの如く自由に泳ぐ線も魅力的です。硬軟使い分けて描く、その多彩なスタイルには驚かされました。
・空間を把握する
霧と靄に澱む「松林図」はもちろんのこと、風がそよぐ「萩芒図屏風」など、等伯の屏風絵には大気が流れています。いわゆる余白に空気を含み、前景から限りなく奥へと開けていく深淵な空間には吸い込まれそうになりました。横ではなく、奥へ奥へと進んでいく感覚は、この時期の他の絵画ではあまり感じられません。
・雅やかな飾り
巨木を隠してしまうほど花や葉が茂る「楓図壁貼付」をはじめ、肖像画における例えば法衣の細部の意匠の描きこみなど、等伯は事物を彩るものへの並々ならぬ関心を示しています。装飾性も一つのキーワードとなりそうです。
【ハイライト】
もちろん順路からすればラストの「松林図」に違いありませんが、一方での雅やかな「楓図壁貼付」、さらには前述の巨大な「仏涅槃図」、または荒々しき波が雲霞の隙間から鋭く迫る「波濤図」などの作品が、それぞれ展示の重要なポイントになっているのではないでしょうか。また数としては前半の仏画、肖像画が目立ちます。後半部の水墨画の表現との差異には半ば頭が混乱するほどでしたが、そもそもあまりにも多様な等伯の芸風を一括りに捉えるのは土台無理なことだったのかもしれません。
【図録・音声ガイド】
全340ページ余りの図録はさすがに豪華です。鮮明な図版はもとより、4本の論文、または詳細な作品解説が付属しています。2500円ですが、即購入したのは言うまでもありません。また音声ガイドは松平定知氏のナレーションです。全体的に簡潔な内容でしたが、等伯の生涯に沿う形での解説が多いので、展示ではやや掴みにくい面を補完する内容にはなっていたかもしれません。全30分、500円でした。なおある作品の前で「その時、歴史は動いたのです。」という名ゼリフが入ります。これはご愛嬌です。
作品数で勝負する展示ではないので、見方によってはさほど時間はかからないかもしれませんが、私は2時間でも足りませんでした。なお特別展はその日、1回に限って再入場(平成館)が可能です。休憩などに重宝します。
なお途中一回、一部の作品の展示替えがあります。詳細は出品リストをご参照下さい。
また私の印象云々ではなく、主催者による展示のポイントについては、前に拙ブログの以下の記事にまとめてあります。宜しければご覧下さい。
「没後400年 特別展 長谷川等伯」 記者発表会
初日から混雑する展覧会は少ないかもしれませんが、私としては予想していたよりも静かな出足だと思いました。
「もっと知りたい長谷川等伯黒田泰三/東京美術」
それでは次回、Vol.2では各章毎に印象に残った作品について書いていきたいと思います。
*関連エントリ(長谷川等伯展シリーズ)
Vol.2(仏画・肖像画)/Vol.3(金碧画)/Vol.4(水墨画と松林図の世界)
*追記:混雑状況について
会期も後半に入り、展覧会はかなり混雑してきています。入場待ち時間などの混雑状況は、等伯展公式WEBサイトでもリアルタイムに更新されていますので、そちらもご参照下さい。
コメント ( 16 ) | Trackback ( 0 )
« 「カオスモス0... | 「特別展 長... » |
僕も休みいただいて初日12時ごろに。
阿修羅のような熱狂がなくて本当に静かなスタートでしたね。
熱心なお客さんが多く、中には図録をめぐりながら作品にあたっている人も見かけました。
音声ガイド僕も借りました。
いやぁ松平さんですね。
一巡して音声ガイドを返して、また第一会場回りましたので時間とられましたね。
いや必ずしも年代順に作品が並んでいるわけではないのでもう一巡する必要を感じたのです。
常設は近代絵画、黒田清輝が沢山出てましたね。
必ず行く積りです。
昨年の前年祭を七尾美術館で見てからずっと待っていた展覧会。
期待に違わず最高の展覧会でした。
お気に入り多数で記事はショート・サマリーになってしまいました。
こんばんは。何と初日にいらっしゃいましたか!私は3時くらいの参戦でした。館内も余裕でしたね。本当に静かなスタートです。
>松平さん
あの名ゼリフが出た時は「おお!」と思ってしまいました。さすがの貫禄です。
>年代順に作品が並んでいるわけではないのでもう一巡する必要
やや交錯していましたね。等伯の生涯を丹念に辿れるかという面に関しては厳しかったかもしれません。
>近代絵画
常設までは全然手が回りませんでした。今度、同じく平常展の狩野派とあわせて見てくるつもりです。
@RICARDOさん
こんばんは。
基本は単眼鏡なのですが、ともかく涅槃図は驚異の全長11mです。
双眼鏡でも良いかもしれません。
感想楽しみにしております!
@とらさん
こんばんは。
>七尾美術館
これまた素晴らしかったようでしたね。
しかし東京も待ちに待ったということで、
さすがに壮観な展覧会になっていました。
後ほどTB先にお伺いします!
「波濤図」には私も衝撃を受けました。この作品を知ることができただけで、もう入場料の元はとった!と思いました。
vol.4も楽しみに待っています。
そう仰っていただけると嬉しいです。「波濤図」はずば抜けていましたね。スケール感といい細部描写といい、実に見事でした。
>入場料の元
質量ともにほぼ申し分のない展示でしたね。
また行きたくなってきました。
ワタクシは、土曜日に行きました。朝一とも思ったのですが、ちょっと寝坊して13時くらいに着きました。覚悟していた程は混んでいなかったな、というのが印象です。
どれもこれもがう~んと唸らされる作品でしたが、多彩な世界ですよね、本当に。一点と言われれば、ワタクシは萩芒かなぁ、好きという典からは。いや、波濤図も檜原図もちろんすごいと思いますし、良いなぁ、と思いましたが。
自分でもエントリーを上げようと思います。
土曜日のお昼過ぎのご観覧でしたか。今のところ仰るようにそれほど混雑していないようですね。7日の日曜美術館の放送次第ということかもしれません。
>萩芒
素晴らしかったですね。見方によってはデザイン的でもありますが、そこに豊かな情緒が感じられるのも魅力的でした。
お返事遅れて失礼しました。TB先へお伺いします。
はろるどさんの素晴らしい記事を見ていて、
もう一度ゆっくり見てこようと思っています。
重くて敬遠してしまった図録をとにかく買ってこなくては、
他の本だけでは間に合いませんね。
あれも知りたいこれも知りたいと、おそまきながら
しばらく、等伯に夢中になりそうです。
「南泉斬猫」の禅の公案まで絵になっているなんて
びっくりです。あの猫のおびえた様子忘れられません。
図録は図版もしかり良く出来ていました。
ただ今回は芸術新潮、美術の窓しかり、
どの雑誌も力作ぞろいで見逃せません。
こうした機会に様々な角度から等伯を知ることが出来るのは嬉しいですよね。
そろそろ3度目に挑戦したくなってきました!
昨今の日本絵画ブームでいろいろな画家が
再発見されてうれしい限りですね。
こんばんは。
>開眼
もやもやしていたものが徐々に取り払われてきたような気もします。
それにしてもここに来て大変な混雑になったようですね。
後期にいつ行くか悩ましいところです。
大変参考になりました。
ありがとうございました。
トラックバックもあわせてさせていただきました。
ご了承ください。
記事をご参考にしていただけたようで嬉しいです。ありがとうございます!
TBはもちろん大歓迎です。今後とも宜しくお願いします。
見所満載の展示でしたね。
混雑がすごいことになってて昨日行ってみたら19時で20分待ち。
がっくりときてたのですが、逆に閉館が30分延長されて却ってゆっくりと鑑賞できてよかったです。
結局、入場者は30万近く、一日あたりの平均入場者は1万名を超えたそうですね。
会期当初は比較的静かな出足だったので、
ともかく後半の熱気が大変だったなと改めて思いました。
>閉館が30分延長されて却ってゆっくりと鑑賞
こういう配慮は有り難いですよね。