「ロートレック展」 サントリー美術館

サントリー美術館港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン・ガーデンサイド)
「ロートレック展 パリ、美しき時代を生きて」
1/26-3/9



移転リニューアル後、同美術館では初めてとなる西洋絵画の展覧会です。版画、ポスター、油彩、挿絵、素描など全250点の作品(出品リスト)にて、世紀末のパリを足早に駆け抜けたロートレック(1864-1901)の画業を俯瞰します。

ロートレックをこれほどまとめて観賞するのは初めてですが、今回の展示で特に見入ったのは、作品の大半を占めていたポスターではなく、日本初出品であるというオルセーの所蔵品を中心とした油彩絵画群でした。ちらし表紙を飾る「黒いボアの女」(1892)は、ロートレックに特徴的な線描、つまりは簡素でありながらも、どこか執拗に塗られたような表現が、対象の一瞬の動きを封じ込めるかのようにして捉えた見事な作品です。木の葉を振りかけたような、地の色もそのままにした線が体や腕の肉付きを大胆に表し、またその反面での塗り込まれた白い顔が彼女の表情を丁寧に伝えています。手を腰にまわし、睨みをきかすような面持ちに、思わず後ずさりしてしまうような勢いも感じました。

 

冴えた構図を見る作品が目立ちますが、スカートをたくしあげたダンサーを後ろから捉えた「大開脚」(1893)はとりわけ魅力的です。キャプションにある浮世絵の影響はそれほど感じられませんでしたが、ダイナミックに蹴り上げるダンサーの前景とそれを覗き込む観客の後景との対比、またはステージをスカート部分を同じ地の色で表現してしまう器用な塗りわけには強く感心させられました。また後ろといえば、半裸で座りながら身繕いする女性を後方上部からの視点で描く「赤毛の女」(1889)も印象に残ります。背中が語り出してくるかのようなその構図もさることながら、透き通るかのような白と薄い青の色遣いが絶品です。繊細な感性を見出します。

ムーラン街の娼婦を描いた「サロンにて、ソファ」(1893)も、その色の魅力に長けた作品と言えるのではないでしょうか。どこか気怠い様にて、おそらくは仕事前に休憩をとる彼女らが表されていますが、画面を支配する朱色の深みはまるでゴーガンを思わせるものです。もちろんこの作品だけによるものではありませんが、世紀末パリの一種の混沌とした日常の一コマを、これほどの臨場感をたたえて描くとはまさに見事の一言に尽きます。実際のところ、これまでロートレックにはあまり惹かれたことがありませんでしたが、これらの油彩だけでも彼の稀な画力を十分に感じることが出来ました。噛めばかむほどその魅力が増していきます。

先日の日曜日の夕方に観賞しましたが、入場待ちの列が出来るほど混雑していました。会期末には会場の熱気もさらに高まりそうです。

3月9日まで開催されています。
コメント ( 14 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (遊行七恵)
2008-02-25 22:33:55
こんばんは
大方半年前に見た展覧会でしたが、とてもよかったです。映像で当時のパリの芸人さんたちが映されていたのが面白くも思いました。
自転車レースの版画などが、好きです。
娼婦の絵を見ていて思ったのですが、若い頃のピカソが描いた妹の肖像画に似ているような気がしました。
版画と油彩との距離感が意外なくらい大きい画家だとも思いました。
 
 
 
Unknown (Tak)
2008-02-26 21:33:57
こんばんは。
紹介されている二点の作品とも
まず視点が独特ですよね。
それに続いて色あいも。

好きだな~やっぱり。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-26 22:44:39
@遊行さん

こんばんは。早速のTBをありがとうございます。
大阪では半年前に開催されていたのですね。こちらはミッドタウンの喧噪に包まれたのか、大変な混雑でした。

>若い頃のピカソが描いた妹の肖像画に似ているような気がしました。

なるほどそうかもしれません。記事中でもゴーガンに触れましたが、他の作品でも色々な画家のイメージが浮かんできました。

>版画と油彩との距離感

同感です。私はまず油彩から入ったので、これからじっくり版画との距離を縮めていきたいと思います。


@takさん

こんばんは。後ろ姿というのがまた味わい深いですよね。
こういう充実した展示からロートレックに入れて良かったです。
ずっと見続けていきたいなと思う画家にまた一人出会えました。
 
 
 
ロートレックは (あおひー)
2008-02-26 22:52:48
こんばんわ。
わたしは美術に深くハマるようになったので昔から見てるのは少ないのですが、ロートレックは学生の頃に展覧会に行ったことがあってちょっと特別です。

油絵もいいのですが、やはり版画が上手いなあと思います。やはりあのスタイルは唯一ですね。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-26 23:17:48
あおひーさんこんばんは。
15年越しの出会いとは素晴らしいですね。時間をおいて、改めて好きな作家を見るというのもまた趣き深いなと思います。

どちらかというと油彩でしたが、仰るような唯一無比の版画ももちろん見入りました。絵の中に感じられる躍動感のような動きが、彼の足早な人生と重なって見えます。
 
 
 
Unknown (palpal)
2008-02-27 00:41:25
こんばんは。
私も先日行って参りました。
油彩絵画群も興味深く鑑賞しましたが、企業広告類もロートレック独特の視点で描かれていて面白いと思いました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-27 22:24:17
palpalさんこんばんは。
TBとコメントをありがとうございます。

広告の類いもロートレックならではの鋭さが見られましたね。
古びないとでも言うのか、いつ見ても独得な新しさを感じます。
 
 
 
Unknown (panda)
2008-02-27 22:32:48
ロートレックの輝ける20代の作品
彼の鋭い観察力は人物の内面をえぐり出しますね。
私も19世紀パリを体感して鑑賞する際に
はろるどさんの視点と、出展リスト助かりました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-27 23:26:02
pandaさん、こちらにもありがとうございます。

>ロートレックの輝ける20代の作品
彼の鋭い観察力は人物の内面をえぐり出しますね。

彼の晩年は20代も入るのですよね。若さとまた儚さと、一瞬を駆け抜けたその勢いも感じました。

>出展リスト助かりました

会場に用意されていない場合でも、このようにWEB上にあると助かります。本当は会場内にて、紙でいただければとも思いますが…。
 
 
 
Unknown (はな)
2008-02-28 20:24:29
はろるどさん、こんにちは!
私も今回の展示の中で特に油彩画の作品群に魅入られました。
表現的には塗り方とかにめりはりがあるもの、色合いが魅力的なもの、などなど、そのよさは様々なのですが、気持ち的な面で、作品に共通する哀しい優しさがじんわり心にしみてきました。
 
 
 
Unknown (はな)
2008-02-28 20:27:23
度々すみません!
こちら側の画面に「TB失敗」と無情なメッセージが出たので
このコメントのURL欄に記事のURLをいれさせていただきます。
TB代わりです!
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-28 21:47:53
はなさんこんばんは。コメントありがとうございます。

油彩、素晴らしかったですよね。ロートレックというと、版画、ポスターなのかもしれませんが、今回油彩にも華があったなと思います。
仰るような色合い、とても繊細な部分を感じました。哀しい優しさと仰るのも、そんなところからも滲み出ているのかもしれませんね。

>こちら側の画面に「TB失敗」と無情なメッセージが出たので
このコメントのURL欄に記事のURLをいれさせていただきます。
TB代わりです!

申し訳ありません。こちらでは無条件にTBを受け付けるように設定しているのですが…。
URL先よりまたお伺いさせていただきます。
 
 
 
Unknown (みどり)
2008-03-11 07:46:27
こんにちは。
私も数多く展示されていたポスターよりも油彩画作品に心が引かれました。
「黒いボアの女」はほんとにいいですね。
苦手なロートレックでしたが、観に行って良かったと思いました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-03-11 22:19:14
みどりさんこんばんは。TBをありがとうございます。

>ポスターよりも油彩画作品

そうでしたか!同じように感じられた方がおられて嬉しいです。
ボアの女、カッコいいですよね。

>苦手なロートレックでしたが、観に行って良かった

実は私もこれまであまりロートレックに感じるものがないのですが、
今回の展示でかなり引き込まれました。本当に行って良かったです。
 
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