酒井抱一の「月に秋草図屏風」が展示されます(夏目漱石の美術世界展)

勝手応援中の「夏目漱石の美術世界展」。場所は上野の東京藝術大学大学美術館。


「夏目漱石の美術世界展」@東京藝術大学大学美術館(プレビュー記事)

5月半ばからスタートした展覧会もいよいよ7月7日まで。佳境に入りました。

さて本展のチラシ表紙のトップ、最上段に掲載されたのは金地の屏風絵。はて、あっただろうか。そんなことを思った方もおられるやもしれません。

作品の名は酒井抱一の「月に秋草図屏風」。東博寄託の重要文化財。実のところこれまで展示されていませんでした。

ここにようやく登場、本日、6月25日(火)より会期末日まで展示されます。


酒井抱一「月に秋草図屏風」江戸時代(19世紀) 重要文化財 東京国立博物館寄託 *展示期間:6/25-7/7
Image: TNM Image Archives


保存などの観点とはいえ、メインの作品が会期末の10数日しか出ないのも珍しいかもしれませんが、そもそもこの屏風の展示機会自体が稀。私の記憶が定かならば、都内で展示されたのは2008年の東博大琳派以来。抱一の大回顧展として注目を浴びた千葉市美術館の「酒井抱一と江戸琳派の全貌」展にも出品されませんでした。

月夜を彷徨うかのような秋草の動き。構図とモチーフに完成された「夏秋草図屏風」とはまた異なったある種の自在、即興性の美学。「月に秋草図屏風」の空間は実に深淵。それこそ彼岸へと誘います。抱一画では特に重要な作品です。

待ちに待った「月に秋草図屏風」の展示。漱石との関係では、小説「門」に登場する屏風のモチーフになったとされる作品です。

下に萩、桔梗、芒、葛、女郎花を隙間なく描いた上に、真丸な月を銀で出して、其横の空いた所へ、野路や空月の中なる女郎花、其一と題してある。
宗助は膝を突いて銀の色の黒く焦げた辺から、葛の葉の風に裏を返している色の乾いた様から、大福程な大きな丸い朱の輪郭の中に、抱一と行書で書いた落款をつくづくと見て、父の生きている当時を憶い起こさずにはいられなかった。
 *夏目漱石「門」より。


「夏目漱石と美術世界展」会場風景

「夏目漱石の美術世界展」のハイライトとも言うべき抱一の「月に秋草図屏風」。次またいつ出会えるかも分かりません。この機会に是非ともご覧ください。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

「夏目漱石の美術世界展」 東京藝術大学大学美術館
会期:5月14日(火)~7月7日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1500(1200)円、高校・大学生1000(700)円、中学生以下は無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園12-8
交通:JR線上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ千代田線根津駅より徒歩10分。京成上野駅、東京メトロ日比谷線・銀座線上野駅より徒歩15分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
見ました! (みけ)
2013-06-25 23:49:22
さすがの紹介文にもうっとりです。はろるどさんならではですね!
数十分立ち尽くして眺めて来ましたが、初めと終わりとで、全然見え方が変わってくるのです!これは驚きでした。時間とともに、すっきりと収斂されていくというのかな、おしまいはもう抱一の世界の虜に。
惜しむらくは、あの展示ケースが・・・。もうご覧になりました?
 
 
 
Unknown (すぴか)
2013-07-03 23:30:05
こんばんは。
もう終了間際にやっと行ってきました。
何だかこのひと月「漱石の美術世界」に振り回された感じです。
はろるどさんの素敵な解説、
 < 即興性の美学。「月に秋草図屏風」の空間は
   実に深淵。それこそ彼岸へと誘います。>
今回やっとわかりかけてきました。
ありがとうございます。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2013-07-04 21:43:16
@みけさん

こんばんは。お褒めの言葉恐縮です。ありがとうございます。

>初めと終わりとで、全然見え方が変わってくるのです

飽きませんよねえ…。私もついつい時間を忘れて長居してしまいました。
今回見ることで、何でしょう、草花の横への志向。ああいう展開はどこに原点があるのかなと思いました。
色々と発見がありますね。

>展示ケース

まあないことにこしたことはありませんが…とりあえずがぶりつきで見ました。


@すぴかさん

こんばんは。

>だかこのひと月「漱石の美術世界」に振り回された

私も同じです。結局3度ほど行きました。
まだ見納めしたいくらいです。

こちらこそコメントありがとうございます!
 
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