「川瀬巴水と吉田博 - 日本の風景・世界の風景 - 」 UKIYO-E TOKYO

UKIYO-E TOKYO江東区豊洲2-4-9 ららぽーと豊洲1階)
「川瀬巴水と吉田博 - 日本の風景・世界の風景 - 」
7/4-26

久々に美しい「巴水ブルー」が目と心に染み渡りました。UKIYO-E TOKYOで開催中の「川瀬巴水と吉田博 - 日本の風景・世界の風景 - 」へ行ってきました。

お馴染みの目立たない場所での小展示室とのことで、いつもの如く量への期待は出来ませんが、巴水、吉田博を合わせて約60点の木版の響宴はなかなか見応えがありました。本展の見所はズバリ以下の二点です。

・日本の風景を描いた巴水だけではなく、同時代の水彩画家で、米国遊学後、世界各地の景色を木版で表した吉田博の作品を楽しめる。(=日本の風景・世界の風景)
・巴水版画では他の追従を許さない渡邊木版のプロデュースの元、今回、新たに発見された版木を用い、今に蘇らせた巴水の「十和田湖」を見ることが出来る。

それでは早速、印象に残った作品をあげます。

[川瀬巴水]

「旅みやげ第三集 但馬城崎」(大正13年)
雨降りしきる城崎の街角をぼんやりと照らす明かりが美しい。濡れた路面には情緒が漂う。

「旅みやげ第三集 飛騨中山七里」(大正13年)
降り積もる雪の中に広がった飛騨の山里。巴水の雪にはいつも確かな湿り気が感じられる。

「日本風景選集 木曽の寝覚」(大正14年)
紅葉に染まる木曽の渓谷。谷に沿って影が伸びている様子もまた趣深い。

「十和田湖(版木一式含む)」
前述の通り、今回の展示のために改めて刷られた出来立てほやほやの巴水版画。6枚の版木の表裏、計12面を使い、ぼかし刷りを含めた計22度の刷りで巴水ブルーが蘇った。輝きを放つその鮮やかな色彩に『今』を感じる。



「大宮見沼川」(昭和5年)
闇夜に覆われた見沼の田園に蛍が舞う。うっすらと藍色を帯びた夜の川面には、仄かな明かりがもれていた。この静けさこそ巴水版画の醍醐味でもあろう。

「井の頭の春の夜」(昭和6年)
桜満開の井の頭の水辺を描く。月明かりに照らされたのか、桜のピンクが紫色にも光っているのが興味深い。



「日本風景集 関西編 高野山鐘楼」(昭和10年)
グレーの曇り空の下でしんしんと降りしきる雪に覆われた高野山。背を向けて道を進む僧侶の姿が絶筆の「平泉金色堂」と重なった。どこか物悲しい。

「川瀬巴水 木版画集/阿部出版」

[吉田博]



「ヴェニスの運河」(大正14年)
建物の窓や運河に浮くゴンドラの影、また水紋などの細やかな色のグラデーションが美しい。

「タジマハルの庭(昼/夜)」(昭和6年)
インドの有名なタジマハルを昼と夜に分けて描く。ブルーを操る巴水は夜の景色もまた印象に深いが、華やかな色彩をうりにする吉田の版画はやはり日差し眩しい昼の方がより魅力的だ。

「石鐘山」(昭和15年)
中国の景勝地、石鐘山の景色を捉える。土色の道のぬかるみまでが細やかに表現されていた。

「吉田博 全木版画集/阿部出版」

元々、水彩を手がけていた吉田は、遊学先のアメリカで浮世絵版画の人気を知り、帰国後に巴水とも関係の深かった渡邊庄三郎を訪ね、次々と木版画を次々と制作し始めました。ともに大正より昭和初期にかけ、一方は国内、そして他方は世界を描き続けた画家の個性を比較するのも興味深いのではないでしょうか。吉田の版画は、数十回にも及ぶという摺り重ねの効果もあってか、まさに水彩的表現とも言うべき色の細やかな陰影が際立っていました。

いつもながらにこのスペースだけはららぽーとの喧噪と無縁です。がらんとしたスペースでじっくりと木版の美しさに浸ることが出来ました。

今月26日までの開催です。巴水ファンの方はお見逃しなきようご注意下さい。
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