「觀海庵落成記念コレクション展 - まなざしはときをこえて - 」 ハラミュージアムアーク

ハラミュージアムアーク群馬県渋川市金井2844 伊香保グリーン牧場内)
「觀海庵落成記念コレクション展 - まなざしはときをこえて - 」
7/27-9/23

 

新築された「觀海庵」(注)の展示の完成度は、おそらくは北品川の原美の空間をもってしても達することがないのではないでしょうか。「觀海庵」のオープンを記念する全館規模のコレクション展示です。ハラミュージアムアークでの「まなざしはときをこえて」へ行ってきました。



既設の独立した3つの展示室、つまりはギャラリーA、B、Cの展示は、まさに原美術館のコレクション展のスケールアップバージョンと言えるのかもしれません。ほぼ正方形をしたギャラリーAには、直径360センチにも及ぶ遠藤利克のサークル状になった巨大オブジェ、「Lotus」があたかもご神体のように鎮座し、それを三十三堂の仏像に取材した杉本博司の「千体仏」が見守るかのようにしてぐるっと取り囲んでいます。そのボリュームにおいて見る者を圧倒する無数の仏と、重厚な物質感に由来する静謐さが空間を引き締める遠藤のオブジェは、心地良い緊張感を保ちながらも見事に調和していました。この二点だけでも、同美術館の展示のセンスが伺えるというものです。モノクロの空間がまた身を引き締めてもくれました。

ギャラリーB、及びCには、インスタレーション好きにとってはたまらない展示が待ち構えています。ギャラリーCの最奥部、観音開きの白い扉の向こうで眩くのは、草間彌生のかぼちゃの夢幻回廊、「ミラールーム(かぼちゃ)」です。草間ではもはやお馴染みとなった黄色の水玉かぼちゃが部屋一面に描かれ、中央には同じくかぼちゃの内部空間を持つ、ちょうど2メートル四方のガラスキューブが置かれています。キューブのガラス面に反射する目もくらむようなイエローに黒のドット、そしてそこに写り込む自分や他の観賞者、さらにはキューブ内部へ繋がる鏡面世界と、まさに全てがかぼちゃに浸食されてしまったかのような空間が出来上がっていました。ここに居るのはものの10分、いや5分が限界でしょう。いつの間にか幻視を見ているかのように感覚が麻痺してしまいます。



ギャラリーBの暗室にある束芋の「真夜中の海」は、ひょっとすると彼女のビデオインスタレーションでも最上位に位置する作品かもしれません。ガラス面を利用した広大な海面の波が、何やら奇怪な生物の魂として彷徨い、それがまた海へ帰っていく様子が表現されています。またその他、名和晃平の二点の光瞬くオブジェ、あたかもこの建物の元来の住人であるかのように何食わぬ顔で座る加藤泉の木彫人形、さらには重厚な白のマチエールにくすんだ紫が暗鬱に横たわるフォートリエの「干渉」なども印象に残りました。そしてこの見応えあるラインナップに続いて、かの極まった「觀海庵」が続くというわけなのです。実に贅沢です。







「觀海庵」は上記のギャラリーとは入口を挟んで反対側、つまりは正面を向かって右奥へ通じる長い回廊の先に建っています。格子戸を開け、カプーアのオブジェや杉本の「海景」に迎えられたと思うと開けてくるのは、応挙とロスコ、それに須田とクラインと永徳とが書院造風の和の空間にて完膚無きにまでに調和、またはそれこそ対決して火花を散らす、古今東西の垣根を超越した独特な美の世界です。率直なところ、この展示の素晴らしさを文字で細々と触れるのは野暮だとさえ思いますが、ようは儚さを醸す須田の花が江戸時代の華やかな蒔絵刀筒に命をそっと吹き込み、永遠の炎を揺らめかせるロスコの孤高の赤が、繊細極まりないミクロの風景が広がる応挙の「淀川両岸絵巻」を敢然と見下ろし、さらにはおどけた様子ながらも、肩をあげて威嚇する永徳の虎が、ガラスケースの中にてサファイアのように輝くクラインのオブジェをまさに虎視眈々と狙っている様を想像していただければ、その凄みというのが少しでも伝わるのではないでしょうか。もちろん庵ということで、作品数こそ20点ほどに過ぎませんが、この空間を体感するだけでも伊香保へ行く価値は十分にあると言えます。これは必見です。



9月23日まで開催されています。もちろんおすすめします。(今月末に「觀海庵」の展示替えあり。)

注)觀海庵(かいかいあん)とは館長、原俊夫の曾祖父、原六郎(觀海と号した)の収集した近世日本絵画コレクションを展示するため、既設の現代美術ギャラリーより回廊で結ばれる位置に作られた、磯崎新設計の書院造り風の建物。(ちらしより引用。一部改変。)
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