前回、弟を斬った回はめちゃめちゃハードで重く、次の回も引きずるか、政宗(渡辺謙)の性格激変とかしてんじゃないかしらと、多少緊張を覚えましたが、驚いたことに、パッと切り替わってほとんど余韻を残しませんでした。こういうところの思い切りのよさもすごいですね。
というか、ここの回のテーマは陰惨な骨肉の争いから、目もくらむような「天下人」にフォーカスが切り替わるんです。そういう切り替えも鮮やかだ!で、またその「天下人」豊臣秀吉=勝新太郎が強烈で、もうぶったまげて見入ってしまうしかありません(笑)。
カツシン秀吉はものすごい粗野で、立ち居振る舞いや物言いは俗物そのもの。そして暴力的なまでの迫力に、人は強烈な反感と、嫌悪感と、おなじくらいの憧れを抱かずにはいられません。天下をとるってこういうことなんだ!と、24歳の政宗は目くるめくような気持ちになります。
強烈な存在感で君臨する秀吉と、若い政宗の世界へのめざめ。それはそのまま、怪優・勝新太郎と、世に出たばかりの渡辺謙の実人生にもスライドするようで、20何年すぎた今あらためて見て見ると、なにか記念すべきものを見たような、感慨深いものがあるのでした。
というわけで、今回は第23話と24話を見ます。
第23話「小田原へ」
弟殺しと実母の追放、それに毒を飲んだダメージから、政宗はパッと立ち直ります。一連の問題をリセットすると、直面しているのは小田原への参陣です。
いや、もう準備もととのって行くばかりになっているのですが、どうやら政宗は、出立しては引き返し、というのを何回かやったらしい。というのは、政宗が小田原に出発した隙を狙って、近隣の敵対勢力が伊達領を犯してくることが考えられるのですね。で、政宗は誰が仕掛けてくるかをテストするため、空振り出立を繰り返しているのでした。
政宗は、小田原には百騎でいくと決めていて、しかもその随行員は、大内定綱(寺田農)はじめ、征服した近隣から臣従した新参家臣ばかりです。「少なすぎる、しかも寝返ったらどうする」と心配する成実(三浦友和)、どうしても随行に加えてくれと懇願する綱元(村田雄浩)を退けて、政宗は説明します。あえて新参の者を連れて行くのは、芦名攻めの戦が、奥羽の平和維持のためであり、奥州を平和的に統合したのだと申し開きするためなんですね。
なるほど~、平和の名分を借りた軍事介入はこのころからあったんだなあ(笑)と、微妙に今日的なテーマも織り交ぜて、政宗はいよいよ出陣します。
出陣にあたり、猫御前(秋吉久美子)には暇がとらされることになり、喜多(竹下景子)が解雇通告にいきます。「子供を産めない側室がいてもしかたない」と言い聞かせる喜多でしたが、猫は「でもわたし殿のお種をやどしています」と。キャラがキャラだし、狂言妊娠の前科もあったりするので、喜多は政宗にも「飯坂の局がまたこんなふざけたことを言ってます」と悪意の報告をします。イラッとした政宗は、猫の解雇を命じてしまいます。
そして政宗はいよいよ出立したのですが、半分すぎた途中で、相馬が国境を侵して攻め込んだと報告をうけ、その場で即決して米沢に引き返します。政宗お得意の速攻フェイントUターンですね。戦はあっさり片付き、米沢城代の留守政景(長塚京三)と雑談していると、猫の父親の飯坂宗康(東八郎)が、どうしても殿に言いたいことがあると乱入してきます。黒川城から追い返された猫が、実家に帰って流産してしまったと。輿に揺られたのが悪かったんだそうです。
この報告をきき、すごいショックをうける政宗。やっと出来た自分の子が流れてしまったのは打撃です。家臣のまえで両手をついて慟哭する政宗に、宗康もビックリです。
さて、小田原に切り返した政宗は、こんどは不思議な進路をとります。なぜか越後・信濃・甲斐を経由し、すごい遠回りで小田原に向かったんですね。こうして、遅れに遅れて小田原参着した政宗は、底倉という、名前も不吉な谷底の温泉を宿舎に割り当てられます。場所柄、攻められたら袋のネズミで逃げられません。
そこで何日も待っていると、秀吉の宿老たる前田利家(大木実)、浅野長政(林与一)ら、そうそうたるメンバーが訪ねてきます。ようは、政宗をつるし上げにきたんですね。小田原遅参のこと、芦名攻めのことなど申し開きを強いられた政宗は、「奥羽地方はまだ敵ばかりで、なかなか留守にできなかった」と率直にいいます。さらに、奥羽の敵はみんな向うから戦を仕掛けてきたので、伊達はあくまで専守防衛です。奥羽を平和に地ならしし、関白様をお迎えするためのご奉公とおもって戦にあけくれてきました。…なーんてもちろんみんなウソ。ウソとわかってるのですが、その弁舌のさわやかささに、宿老たちは舌を巻き、政宗に好意をいだいて帰ります。
その夜、家康(津川雅彦)の子供で秀吉の養子になっている結城秀康(往年の青春スター新田純一だ)がやってきて、政宗は家康と初対面します。
政宗は、まず「越後、信濃、甲斐をつつがなく通過させてくださってありがとうございました」と家康に頭を下げました。そう、ありえない遠回りをしたのは実は家康の計らいだったんですね。あんまりパッパッと来てしまっては、すぐ首を飛ばされるかもしれないわけです。さすが家康、ジンワリと武将を懐に取り込んでいく食えない男です。
さらに家康は、秀吉に印象付けるにはなにかインパクトが必要だと、遠まわしなアドバイス。津川さんの家康は、粘着質でしたたかそうで、でも暖かさもあってよい感じです。
家康のアドバイスを考え抜いた政宗は、翌日、あっと驚くパフォーマンスに出ます。なんと、上下白の死に装束で関白の対面に臨んだんですね。一世一代のハッタリ…これが、このあとのあるシーンへの布石になるんじゃないかな(確か)。…とそれはともかく、死に装束で挑む政宗の前に、天下人・秀吉(勝新太郎)が立ちはだかっておりました!
第24話「天下人」
この回は、はからずも「天地人」と被るような場面が多く、どうしようもないレベルの違いにあらためて深く心を動かされる回であります。
政宗のハッタリ死に装束は、ド迫力の秀吉(勝新太郎)に一笑にふされます。「なかなか芝居心があるわ」とか言われ、、完全に子ども扱い、というより面白がられてます。到着前に小田原が落ちていたらそのほうの命はなかったわ、運のよい奴めと、威嚇のように笑われて、流石の政宗もハッタリかますどころでなく、バキバキに硬直。
そんな政宗に秀吉は差料をもたせ、ゆうゆうと着物をめくって丘の上から立小便します。それで天下人の威風というものを見せ付けるのが凄い…! 持たされた刀を抜いて背後を襲うことも、崖から突き落とすのも簡単なのに、金縛りになっている。政宗はものすごい屈辱のなかで、強烈な憧れを覚るわけですね。(①)
秀吉には貫禄負けしたけど、家来達にナメられるわけにはいかない。政宗は、秀吉の側近中の側近のまえでとっておきのパフォーマンスを披露します。「関白様への献上品でござる、ご一同様のご見分のほど」と、三方をとりだし、持参の茶器につめた砂金を山と盛り上げたんですね。金が山になって畳にあふれおち、それを「ご無礼」とかいって無造作に扇で掬ってみせる政宗に目が点になり、「伊達じゃのう…!」とうなる宿老たちでした。(②)
秀吉は茶席に政宗を招き、甥の秀次(陣内孝則)も相伴させます。この秀次が、なんともかわいいバカキャラで、いい味をだしてます(笑)。点前を披露しながら、あからさまなスケベ話などに興じた秀吉は、政宗に「若いのだからたくさん子供をつくれ」と、秘蔵の精力剤をわけてくれたりし、そんなバカ話の合間にも「会津だが、いつ引き渡す」と呟く目が殺気に光っているわけです。
このド迫力の前に政宗は、関白何するものぞとか言っていた自分がいかに世間知らずだったか思い知り、しかし、男と生まれたら天下を取って何ぼだ!と、強烈な上昇志向にも火がつきます。このへんの機微を、謙さんが実に瑞々しく演じていていいんだなあ。
そんな秀吉の陣に、最上義光(原田芳雄)が参陣してきます。遅参を責められた義光はとにかく平身低頭。なぜか家康がとりなしてやり、「政宗殿が関白の陣営に加わるよう尽力したのも義光殿だ」とかいって持ち上げるのですが…このあたり、なに考えてるかわからない家康。不気味です。
家康のとりなしで許された義光は、政宗とちがって敗北感でいっぱいで、めずらしく弱気になり、自分から政宗の陣をたずねて「もう時代はかわった、奥羽で小競り合いしてるうちに俺らは時代に乗り遅れた」とかグチグチこぼすわけです。が、政宗は、ショボクレた義光とちがって意気軒昂。「わたしには信長公が乗り移ってござる!」とちょっと危険な発言をし、義光は「バカが…」と嘲笑します。
そんなテンションの高い政宗にも泣き所が。宿舎の露天風呂に入っている夜などに(どうでもいいけど入浴シーン多い…)、小次郎の亡霊(岡本健一)が「兄上~兄上~」といって出てくるわけですね。お前が憎くて斬ったのじゃない、大人しく成仏してくれ~~、という政宗の壊れた悲鳴が露天風呂に響き渡ります。
こうして、政宗の小田原参陣は、血と汗で勝ち取った会津を没収されて終わりました。が、「関白はもうトシだ、オレはまだ若い。これから時世時節がめぐってくれば、また会津を取り戻す日もくるだろう。いや、オレが天下を取らないとも限らない!」と、こういう長期的ビジョンの楽天主義に転換したのも、政宗が小田原でひとつ脱皮したのをあらわしてますね。
秀吉は小田原に愛妾の淀殿(樋口可南子)を連れてきているのですが、この淀殿が、石田三成(奥田瑛二)とビミョーになれなれしい感じで、なにかありそうな含みを持たせてるんですね。樋口さんは今のほうが美しいかな。このころは、ちょっとエロい感じで、わたしはあまり好きじゃなかったです。
会津は蒲生氏郷(寺泉憲)が預かることになりました。秀吉は北に向かい、宇都宮で政宗の出迎えを受けます。あいかわらず呉れ好きの秀吉は、とつぜん、政宗の側にひかえる小十郎に目を留めます。「お前の顔が気に入った、没収した三春領をくれてやる」…と。これは、恩賞で釣って小十郎を手に入れようというようなものですよね(③)。
小十郎にとっては目もくらむ出世、でも…。と固まる政宗の横で、小十郎は「わたくしは伊達家に骨を埋めると決めてますので、その義は平にご容赦のほど」と固辞。「わしのために骨は埋められぬと?」と突っ込む秀吉に、小十郎は、政宗に忠義を尽くすことは殿下に忠義を尽くす道、伊達家で無用と言われるなら己の不忠を恥じて腹を斬ります!と。
これで秀吉を感服させた小十郎でしたが、帰路、政宗は「出世を坊にふって、お前はバカか」となじります。「殿こそいずれ天下をとるお方、出世はそのときにとっておきます」と微笑む小十郎に、政宗は、ありていに言うがオレは嬉しかった!と(④)
…というわけで、①②③④と、天地人と被る場面をあえて挙げてみましたけど、どうでしょうか。比べると、今年は大河ドラマ見る気がしなくなる、ってそれも問題か…?
(つづきます)
というか、ここの回のテーマは陰惨な骨肉の争いから、目もくらむような「天下人」にフォーカスが切り替わるんです。そういう切り替えも鮮やかだ!で、またその「天下人」豊臣秀吉=勝新太郎が強烈で、もうぶったまげて見入ってしまうしかありません(笑)。
カツシン秀吉はものすごい粗野で、立ち居振る舞いや物言いは俗物そのもの。そして暴力的なまでの迫力に、人は強烈な反感と、嫌悪感と、おなじくらいの憧れを抱かずにはいられません。天下をとるってこういうことなんだ!と、24歳の政宗は目くるめくような気持ちになります。
強烈な存在感で君臨する秀吉と、若い政宗の世界へのめざめ。それはそのまま、怪優・勝新太郎と、世に出たばかりの渡辺謙の実人生にもスライドするようで、20何年すぎた今あらためて見て見ると、なにか記念すべきものを見たような、感慨深いものがあるのでした。
というわけで、今回は第23話と24話を見ます。
第23話「小田原へ」
弟殺しと実母の追放、それに毒を飲んだダメージから、政宗はパッと立ち直ります。一連の問題をリセットすると、直面しているのは小田原への参陣です。
いや、もう準備もととのって行くばかりになっているのですが、どうやら政宗は、出立しては引き返し、というのを何回かやったらしい。というのは、政宗が小田原に出発した隙を狙って、近隣の敵対勢力が伊達領を犯してくることが考えられるのですね。で、政宗は誰が仕掛けてくるかをテストするため、空振り出立を繰り返しているのでした。
政宗は、小田原には百騎でいくと決めていて、しかもその随行員は、大内定綱(寺田農)はじめ、征服した近隣から臣従した新参家臣ばかりです。「少なすぎる、しかも寝返ったらどうする」と心配する成実(三浦友和)、どうしても随行に加えてくれと懇願する綱元(村田雄浩)を退けて、政宗は説明します。あえて新参の者を連れて行くのは、芦名攻めの戦が、奥羽の平和維持のためであり、奥州を平和的に統合したのだと申し開きするためなんですね。
なるほど~、平和の名分を借りた軍事介入はこのころからあったんだなあ(笑)と、微妙に今日的なテーマも織り交ぜて、政宗はいよいよ出陣します。
出陣にあたり、猫御前(秋吉久美子)には暇がとらされることになり、喜多(竹下景子)が解雇通告にいきます。「子供を産めない側室がいてもしかたない」と言い聞かせる喜多でしたが、猫は「でもわたし殿のお種をやどしています」と。キャラがキャラだし、狂言妊娠の前科もあったりするので、喜多は政宗にも「飯坂の局がまたこんなふざけたことを言ってます」と悪意の報告をします。イラッとした政宗は、猫の解雇を命じてしまいます。
そして政宗はいよいよ出立したのですが、半分すぎた途中で、相馬が国境を侵して攻め込んだと報告をうけ、その場で即決して米沢に引き返します。政宗お得意の速攻フェイントUターンですね。戦はあっさり片付き、米沢城代の留守政景(長塚京三)と雑談していると、猫の父親の飯坂宗康(東八郎)が、どうしても殿に言いたいことがあると乱入してきます。黒川城から追い返された猫が、実家に帰って流産してしまったと。輿に揺られたのが悪かったんだそうです。
この報告をきき、すごいショックをうける政宗。やっと出来た自分の子が流れてしまったのは打撃です。家臣のまえで両手をついて慟哭する政宗に、宗康もビックリです。
さて、小田原に切り返した政宗は、こんどは不思議な進路をとります。なぜか越後・信濃・甲斐を経由し、すごい遠回りで小田原に向かったんですね。こうして、遅れに遅れて小田原参着した政宗は、底倉という、名前も不吉な谷底の温泉を宿舎に割り当てられます。場所柄、攻められたら袋のネズミで逃げられません。
そこで何日も待っていると、秀吉の宿老たる前田利家(大木実)、浅野長政(林与一)ら、そうそうたるメンバーが訪ねてきます。ようは、政宗をつるし上げにきたんですね。小田原遅参のこと、芦名攻めのことなど申し開きを強いられた政宗は、「奥羽地方はまだ敵ばかりで、なかなか留守にできなかった」と率直にいいます。さらに、奥羽の敵はみんな向うから戦を仕掛けてきたので、伊達はあくまで専守防衛です。奥羽を平和に地ならしし、関白様をお迎えするためのご奉公とおもって戦にあけくれてきました。…なーんてもちろんみんなウソ。ウソとわかってるのですが、その弁舌のさわやかささに、宿老たちは舌を巻き、政宗に好意をいだいて帰ります。
その夜、家康(津川雅彦)の子供で秀吉の養子になっている結城秀康(往年の青春スター新田純一だ)がやってきて、政宗は家康と初対面します。
政宗は、まず「越後、信濃、甲斐をつつがなく通過させてくださってありがとうございました」と家康に頭を下げました。そう、ありえない遠回りをしたのは実は家康の計らいだったんですね。あんまりパッパッと来てしまっては、すぐ首を飛ばされるかもしれないわけです。さすが家康、ジンワリと武将を懐に取り込んでいく食えない男です。
さらに家康は、秀吉に印象付けるにはなにかインパクトが必要だと、遠まわしなアドバイス。津川さんの家康は、粘着質でしたたかそうで、でも暖かさもあってよい感じです。
家康のアドバイスを考え抜いた政宗は、翌日、あっと驚くパフォーマンスに出ます。なんと、上下白の死に装束で関白の対面に臨んだんですね。一世一代のハッタリ…これが、このあとのあるシーンへの布石になるんじゃないかな(確か)。…とそれはともかく、死に装束で挑む政宗の前に、天下人・秀吉(勝新太郎)が立ちはだかっておりました!
第24話「天下人」
この回は、はからずも「天地人」と被るような場面が多く、どうしようもないレベルの違いにあらためて深く心を動かされる回であります。
政宗のハッタリ死に装束は、ド迫力の秀吉(勝新太郎)に一笑にふされます。「なかなか芝居心があるわ」とか言われ、、完全に子ども扱い、というより面白がられてます。到着前に小田原が落ちていたらそのほうの命はなかったわ、運のよい奴めと、威嚇のように笑われて、流石の政宗もハッタリかますどころでなく、バキバキに硬直。
そんな政宗に秀吉は差料をもたせ、ゆうゆうと着物をめくって丘の上から立小便します。それで天下人の威風というものを見せ付けるのが凄い…! 持たされた刀を抜いて背後を襲うことも、崖から突き落とすのも簡単なのに、金縛りになっている。政宗はものすごい屈辱のなかで、強烈な憧れを覚るわけですね。(①)
秀吉には貫禄負けしたけど、家来達にナメられるわけにはいかない。政宗は、秀吉の側近中の側近のまえでとっておきのパフォーマンスを披露します。「関白様への献上品でござる、ご一同様のご見分のほど」と、三方をとりだし、持参の茶器につめた砂金を山と盛り上げたんですね。金が山になって畳にあふれおち、それを「ご無礼」とかいって無造作に扇で掬ってみせる政宗に目が点になり、「伊達じゃのう…!」とうなる宿老たちでした。(②)
秀吉は茶席に政宗を招き、甥の秀次(陣内孝則)も相伴させます。この秀次が、なんともかわいいバカキャラで、いい味をだしてます(笑)。点前を披露しながら、あからさまなスケベ話などに興じた秀吉は、政宗に「若いのだからたくさん子供をつくれ」と、秘蔵の精力剤をわけてくれたりし、そんなバカ話の合間にも「会津だが、いつ引き渡す」と呟く目が殺気に光っているわけです。
このド迫力の前に政宗は、関白何するものぞとか言っていた自分がいかに世間知らずだったか思い知り、しかし、男と生まれたら天下を取って何ぼだ!と、強烈な上昇志向にも火がつきます。このへんの機微を、謙さんが実に瑞々しく演じていていいんだなあ。
そんな秀吉の陣に、最上義光(原田芳雄)が参陣してきます。遅参を責められた義光はとにかく平身低頭。なぜか家康がとりなしてやり、「政宗殿が関白の陣営に加わるよう尽力したのも義光殿だ」とかいって持ち上げるのですが…このあたり、なに考えてるかわからない家康。不気味です。
家康のとりなしで許された義光は、政宗とちがって敗北感でいっぱいで、めずらしく弱気になり、自分から政宗の陣をたずねて「もう時代はかわった、奥羽で小競り合いしてるうちに俺らは時代に乗り遅れた」とかグチグチこぼすわけです。が、政宗は、ショボクレた義光とちがって意気軒昂。「わたしには信長公が乗り移ってござる!」とちょっと危険な発言をし、義光は「バカが…」と嘲笑します。
そんなテンションの高い政宗にも泣き所が。宿舎の露天風呂に入っている夜などに(どうでもいいけど入浴シーン多い…)、小次郎の亡霊(岡本健一)が「兄上~兄上~」といって出てくるわけですね。お前が憎くて斬ったのじゃない、大人しく成仏してくれ~~、という政宗の壊れた悲鳴が露天風呂に響き渡ります。
こうして、政宗の小田原参陣は、血と汗で勝ち取った会津を没収されて終わりました。が、「関白はもうトシだ、オレはまだ若い。これから時世時節がめぐってくれば、また会津を取り戻す日もくるだろう。いや、オレが天下を取らないとも限らない!」と、こういう長期的ビジョンの楽天主義に転換したのも、政宗が小田原でひとつ脱皮したのをあらわしてますね。
秀吉は小田原に愛妾の淀殿(樋口可南子)を連れてきているのですが、この淀殿が、石田三成(奥田瑛二)とビミョーになれなれしい感じで、なにかありそうな含みを持たせてるんですね。樋口さんは今のほうが美しいかな。このころは、ちょっとエロい感じで、わたしはあまり好きじゃなかったです。
会津は蒲生氏郷(寺泉憲)が預かることになりました。秀吉は北に向かい、宇都宮で政宗の出迎えを受けます。あいかわらず呉れ好きの秀吉は、とつぜん、政宗の側にひかえる小十郎に目を留めます。「お前の顔が気に入った、没収した三春領をくれてやる」…と。これは、恩賞で釣って小十郎を手に入れようというようなものですよね(③)。
小十郎にとっては目もくらむ出世、でも…。と固まる政宗の横で、小十郎は「わたくしは伊達家に骨を埋めると決めてますので、その義は平にご容赦のほど」と固辞。「わしのために骨は埋められぬと?」と突っ込む秀吉に、小十郎は、政宗に忠義を尽くすことは殿下に忠義を尽くす道、伊達家で無用と言われるなら己の不忠を恥じて腹を斬ります!と。
これで秀吉を感服させた小十郎でしたが、帰路、政宗は「出世を坊にふって、お前はバカか」となじります。「殿こそいずれ天下をとるお方、出世はそのときにとっておきます」と微笑む小十郎に、政宗は、ありていに言うがオレは嬉しかった!と(④)
…というわけで、①②③④と、天地人と被る場面をあえて挙げてみましたけど、どうでしょうか。比べると、今年は大河ドラマ見る気がしなくなる、ってそれも問題か…?
(つづきます)
母親に毒を盛られるシーンと秀吉が背中向けて立小便するシーン(&政宗の死に装束)は、実は私が『政宗』で一番印象に残っているシーンです。数話の間にこんな印象的なシーンがガツガツ盛り込まれていたんですねぇ。ドラマ中盤の最高潮って感じでしょうか。
どちらももうお志摩さんのお東の方と勝新の秀吉がキョーレツで!でも、そんな大御所(お志摩さんはまだ大御所の域ではないかな?)のキョーレツな演技に、決して渡辺謙さんの政宗が負けてないんですよね。「貫禄」に十分対することのできる若々しい迫力というか。子供心にも1年を通して政宗は本当に魅力的でしたもの。やっぱり28歳でも大河ドラマの主役を演じるだけの風格があったのだなぁ~と思います。
陣内さん、秀次を演じてましたか。
陣内さんといえば、私にはこの数年後の『太平記』の時のばさら大名・佐々木道誉役が印象的で(大好きな役でした!)、秀次役を覚えてませんでした。でも、「なんともかわいいバカキャラ」ってなんか分かる気がするな~。いつか『政宗』見直す時の楽しみが増えました(笑)。
ところで、『プロジェクトJAPAN』始まりましたね!ご覧になりましたか?
私の好きな時代なので本当に楽しみな番組です。
好きな時代ですが…知れば知るほど胸が痛くなる時代でもあります。特に映像は。。。
原爆などは辛い体験をしたということで目頭が熱くなりますが、何よりも他のアジア圏に対して日本人が行ってきた侵略行為を見るのが胸が痛み、何となくダラダラと横になってではなく、背筋を伸ばして観なきゃいけない気分にさせられる時代(番組)です。
でも、日本人の過去に目を背けてはいけないし、こういう番組は意味も意義もあるものだと思いますので、NHKには視聴率気にせず骨太なしっかりしとした番組をこの先も期待して、シリーズ見届けたいと思います。
勿論、年末の『坂の上』も心から楽しみにしています!メイキング番組もありましたね。撮影ちゃんと進んでいるようで一安心ですよ(笑)。現在がアレですし(苦笑)、年末への期待がさらに高まります。
立小便といえば小田原ですが(笑)、これは別バージョンで強烈でしたね。
28歳の謙さんは、世に出たばかりの未熟さというのをうまく生かして、秀吉と政宗の関係にスライドさせ、すごいリアリティをだしていたように思います。お東の方との関係でも、反発する姿に幼さや初々しさを感じさせ、ドラマ上のストーリーに反映されててイイんです~。
そういうの、必ずしも計算してやっていたのではないと思いますが、今思うと大器の片鱗ですよね。
秀次役の陣内さんは、このあとの処刑シーンなどけっこう強烈で、印象に残っています。見るのがいまから楽しみです。
プロジェクトJAPANも見てますよー! まあ、まうちょっと力抜いて月1で45分番組とか(なにも3時間番組でなくても)のほうが見るほうも気楽か…と思いますが(笑)。
こういう番組はNHKしかできないので、期待を大きくしているところです。
坂・雲楽しみですね!そろそろ企画考えないと。
レビューで庵主様が触れられているように、秀吉と政宗とが共演した場面は、そのまま渡辺謙さんの実人生にもスライドするようでした。「口惜しいが貫禄負けと言うほかあるまい」との政宗のセリフがありましたが、謙さんの政宗に感情移入していればこそ、その目の前に現れる怪優・勝新太郎の秀吉に、いやが上にも格の違いを感じてしまうのかも知れません。「カツシンだったら仕方ないか・・・」といったような。大河ドラマがベテラン俳優を若い主人公に絡ませるのはよくあることですが、こういう使われ方をされて、カツシンは幸せだなァ・・・とも思いました。
24話のラスト、三春領をエサに、小十郎が秀吉に釣られそうになった場面がありました。しかしそこはキッパリ、政宗に忠義を尽くすことは秀吉に忠義を尽くす道・・・って、うーんホントにカッコイイ!! しかも素晴らしく簡潔なセリフですよね・・・。これと似た場面が今週(第17話)の『天地人』にもありました。信長に石田三成が「儂に仕えぬか・・・?」と囁かれた場面ですが、天の采配だのナンチャラだの言うよりも、こういう答え方もあるんだな・・・という模範例のようなシーンでした。このあたりも「格の違い」なのでしょうか!?
ほんとにカツシン秀吉は強烈ですよね。若い渡辺さんとのがっぷり四つのバトルも見ごたえ十分なのですが、みているうちに、脚本のジェームス三木氏と勝新太郎という「怪物」の真剣勝負をみているようにも思えて…。なんか、だんだん凄くなる。どこまでいくのだろうと(笑)。
いやホント、カツシンという強烈な素材をどのように扱うかは、ジェームズさんにとっても器量がためされる大勝負だったのではないでしょうか。そのへんも、政宗と秀吉の真剣勝負に投影されるものがあり、とても興味深いです。
>天の采配だのナンチャラだの言うよりも、こういう答え方もあるんだな・・・という模範例のようなシーンでした
いや、実はこのシーンのほうを先に見ていたので、「天には逆らえませぬ」とかいうシーンは、おもわず苦笑しちゃったんですけども。
格が違いすぎると、類似のシーンがあっても「パクッた」とすら見えないもんなんだと良くわかりました(笑)。ほか、黄金を三方に盛り上げて…という場面なんかも失笑するくらいあからさまなパクリなんですけどね。なんか、似てみえさえしないんですよね。ああ痛々しい…。