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『戦場のアリス』読書会レポート

2019年11月10日 12時27分10秒 | 魔女のジュリー

 11月2日、神保町のブックハウスカフェにて、洋書の森おしゃべりサロン主催の読書会がおこなわれました。今回の課題図書は『戦場のアリス』(ケイト・クイン著、ハーパーBOOKS)。訳者の加藤洋子さんと担当編集者Nさんをゲストにお迎えし、読書会初参加の方からあちこちの読書会に顔を出しているベテランまで、たくさんの人にお越しいただいて、にぎやかで楽しい会になりました。

 ゲストおふたりのお話によれば、『戦場のアリス』は、「この本をどうしても訳したい」という加藤さんと「この本をどうしても出したい」という編集部、その双方の熱い思いが奇跡的に出会って生まれた作品なのだとか。特に加藤さんは、「最初からイヴの声が聞こえていた」という惚れ込みよう。実際、イヴをはじめとする登場人物たちのセリフは、目の前にその人が立ち上がってくるように生き生きとしていて、参加者からは、キャラクターひとりひとりが魅力的だという感想が多くあがりました。

 また、この本のフェミニズム的な面に惹かれた人も多かったようです。『戦場のアリス』は第一次大戦から第二次大戦直後にかけての物語ですが、登場人物たちの抱えている「女性であるがゆえの生きづらさ」は現代にもつうじるものがあり、だからこそ彼女たちに感情移入できるという意見が出ました。担当編集者さんも、同じくハーパーBOOKSから出ている『ドリーム  NASAを支えた名もなき計算手たち』のような、見えない存在だった女性たちに光をあてた作品の流れのなかで、いま、この時代に出す意義のある小説だと思うと話していました。

 個人的におもしろいと感じたのは、キャラクターに対する見方が人によって大きく違うこと。「死ぬほど気持ち悪い」と思っていたキャラを好きだと言う人が少なからずいてびっくりしたのですが、よくよくお話を聞いてみると「なるほど」と思うところもあって、なんだか新しい景色が開けたような気分でした。そんなふうに、自分では思いもよらなかった視点を発見できるのが読書会の醍醐味だとあらためて感じました。

 読書会後の懇親会でも話は尽きず、おいしいおでんを食べつつ、小説や翻訳の話から世のなかのことまで、あれこれと語りあっていたら、あっというまに時間が過ぎてしまいました。ゲストの加藤さん、担当編集者Nさん、そして参加してくださったみなさま、ほんとうにありがとうございました。またみなさまと楽しい時間を共有できますように。