社会民主党と環境党からなるスウェーデンの新政権は、10月23日に2015年の予算案を議会に提出した。

これに対し、野党である中道保守ブロックと極右のスウェーデン民主党は自分たちの予算案を11月10日にそれぞれ提出した。(左党は閣外協力という形で与党の予算案に関与しているため、独自の予算案はない)
この3つの予算案をめぐる議会採決は12月3日に行われる。採決ではまず支持が比較的少ない2つの予算案の間で多数決を取り、そこで多数を得た予算案と残りの予算案の間で次に採決を取り、そこで多数を得た予算案が最終的に選ばれることになる。
過去4年間の予算案採決では、スウェーデン民主党は独自の予算案を提出した上で、まず自分たちの予算案に票を投じ、それが早い段階で否決された後、最後の採決(与党・中道保守ブロックの予算案 vs 社会民主党の予算案)では棄権したため、与党の予算案が否決されることはなかった。そのうえ、スウェーデン民主党は棄権を事前に発表していたため、採決の結果はあらかじめ予想がついていた。
しかし今回は、スウェーデン民主党が、予算案をめぐる最後の採決で、今や野党となった中道保守ブロックの予算案に賛成する可能性も仄めかしながら、実際にどう投票するかをまだ明かそうとしていない。
【 与党の予算案が否決された場合 】
もし、スウェーデン民主党が中道保守ブロックの予算案に賛成した場合、この案が与党(社会民主党・環境党)案に数で勝るため、可決することになる。野党の組んだ予算のもとで与党が政策を実行することは考えにくいから、その後のシナリオは、(1) 内閣総辞職の後に新たな内閣の編成、(2) 内閣総辞職の後に新選挙、の2つとなる。
(与党と中道保守ブロックの予算は、政策分野によっては予算配分がかなり似通っているため、予算の細かい配分を調節したりすれば、中道保守ブロックの予算のもとで与党が自分たちの政策を実行することも理論的には可能かもしれない。しかし、ロヴェーン首相は、与党の予算案が否決されたら総辞職する、と既に宣言している。)
内閣が総辞職すれば、もう一度、選挙をするというのは自然な流れだと思われるかもしれないが、スウェーデンの場合はむしろ(1)の新たな組閣が一般的だ。スウェーデン議会の任期は4年(以前は3年)であるが、その任期の途中で総辞職にともなう新選挙が行われても、そこから任期を改めて数え直すわけではない。定例選挙から与件の任期がすぎれば、新選挙からの年数に関係なく、再び定例選挙となる。つまり、議会の定例選挙の周期は新選挙の有無にかかわらず一定なのである。だから、次の定例選挙までの年数が少なければ、新選挙をやってもまた定例選挙となるため、政党としてもそれはちょっと面倒と感じてしまい、できれば新たな組閣で政治の危機を乗り越えようとするようである。(どこの国とは言わないが、毎年のように国会選挙を繰り返している選挙大好きの国もあるようだが・・・笑)
新たな組閣となった場合、社会民主党と環境党が再び連立を組むこともあるだろうが、それ以上にありうるのは、社会民主党だけの単独政権となることかもしれない。環境党を切り離したほうが中道保守政党の支持は得られやすく、したがって予算案が可決する可能性が高いと考えられるからだ。
【 与党の予算案が否決される可能性はどのくらいあるか? 】
極右のスウェーデン民主党は、予算案をめぐる最後の採決では「よりマシな」案に票を投じると宣言している。ただ、与党(社会民主党・環境党)の予算案と中道保守ブロックの予算案を見てみると、スウェーデン民主党の一番の関心どころである「移民受け入れ」「社会統合」の予算はほとんど変わりがない。また、この党が減らしたいであろう「国際援助」も与党と中道保守ブロックはほぼ同じ額を充てている。
では、他の予算領域はどうだろうか?スウェーデンの予算には27の予算領域があるが、その一つひとつにおいて、与党と中道保守ブロックのどちらの予算案が、スウェーデン民主党の予算案に近いかを比べてみると、実は与党の予算案のほうが近いことが分かる。

赤は与党、青は中道保守ブロック、黄色はスウェーデン民主党
だからといって、スウェーデン民主党が本当に与党の予算案に賛成するか(もしくは、棄権するか)といえば、今のところ確証はないし、これらの数字には現れていない政策の違いもある。例えばエネルギー政策に関しては、スウェーデン民主党は原発賛成なので、同じく原発賛成である自由党のいる中道保守ブロックに考えが近い。いずれにしろ、実際に採決が行われる12月3日まで、どっちに転がるのか分からない。ほくそ笑んでいるのは、そのキャスティングボートを握るスウェーデン民主党である。
スウェーデン民主党は近年、党の「正常化」に努めてきた。つまり、極右というイメージをトーンダウンさせ、他の党と何ら変わらない、責任感のある党だというイメージを確立させようと努力してきた(とはいえ、人種差別・宗教差別的発言のスキャンダルが絶えないが・・・)。もしそうなら、今回の予算案の採決においても、政治や経済の安定性を大きく損なうであろう内閣総辞職とか新選挙につながるような選択は避けるかもしれない。また、新選挙になった場合、党首のジンミ・オーケソンが燃え尽き症候群で一線から退いている今、この党には不利かもしれない。一方で、彼らが政治に嵐を巻き起こそうと思えば、いくらでもできてしまう。
実際の採決まで結果が分からない、という今の状況を打開しようと思えば、中道保守ブロックを構成する4党のどれかが与党側に寝返ることをあらかじめ約束することだ。私は、選挙直後はこの可能性もあるのではないかと思っていたが、この4党は(少なくとも表面上は)これまでの結束を維持しているし、その証として共同で予算案を提出しているから、直前になって与党側に寝返る党が出てくる可能性は非常に小さくなってしまった。

これに対し、野党である中道保守ブロックと極右のスウェーデン民主党は自分たちの予算案を11月10日にそれぞれ提出した。(左党は閣外協力という形で与党の予算案に関与しているため、独自の予算案はない)
この3つの予算案をめぐる議会採決は12月3日に行われる。採決ではまず支持が比較的少ない2つの予算案の間で多数決を取り、そこで多数を得た予算案と残りの予算案の間で次に採決を取り、そこで多数を得た予算案が最終的に選ばれることになる。
過去4年間の予算案採決では、スウェーデン民主党は独自の予算案を提出した上で、まず自分たちの予算案に票を投じ、それが早い段階で否決された後、最後の採決(与党・中道保守ブロックの予算案 vs 社会民主党の予算案)では棄権したため、与党の予算案が否決されることはなかった。そのうえ、スウェーデン民主党は棄権を事前に発表していたため、採決の結果はあらかじめ予想がついていた。
しかし今回は、スウェーデン民主党が、予算案をめぐる最後の採決で、今や野党となった中道保守ブロックの予算案に賛成する可能性も仄めかしながら、実際にどう投票するかをまだ明かそうとしていない。
【 与党の予算案が否決された場合 】
もし、スウェーデン民主党が中道保守ブロックの予算案に賛成した場合、この案が与党(社会民主党・環境党)案に数で勝るため、可決することになる。野党の組んだ予算のもとで与党が政策を実行することは考えにくいから、その後のシナリオは、(1) 内閣総辞職の後に新たな内閣の編成、(2) 内閣総辞職の後に新選挙、の2つとなる。
(与党と中道保守ブロックの予算は、政策分野によっては予算配分がかなり似通っているため、予算の細かい配分を調節したりすれば、中道保守ブロックの予算のもとで与党が自分たちの政策を実行することも理論的には可能かもしれない。しかし、ロヴェーン首相は、与党の予算案が否決されたら総辞職する、と既に宣言している。)
内閣が総辞職すれば、もう一度、選挙をするというのは自然な流れだと思われるかもしれないが、スウェーデンの場合はむしろ(1)の新たな組閣が一般的だ。スウェーデン議会の任期は4年(以前は3年)であるが、その任期の途中で総辞職にともなう新選挙が行われても、そこから任期を改めて数え直すわけではない。定例選挙から与件の任期がすぎれば、新選挙からの年数に関係なく、再び定例選挙となる。つまり、議会の定例選挙の周期は新選挙の有無にかかわらず一定なのである。だから、次の定例選挙までの年数が少なければ、新選挙をやってもまた定例選挙となるため、政党としてもそれはちょっと面倒と感じてしまい、できれば新たな組閣で政治の危機を乗り越えようとするようである。(どこの国とは言わないが、毎年のように国会選挙を繰り返している選挙大好きの国もあるようだが・・・笑)
新たな組閣となった場合、社会民主党と環境党が再び連立を組むこともあるだろうが、それ以上にありうるのは、社会民主党だけの単独政権となることかもしれない。環境党を切り離したほうが中道保守政党の支持は得られやすく、したがって予算案が可決する可能性が高いと考えられるからだ。
【 与党の予算案が否決される可能性はどのくらいあるか? 】
極右のスウェーデン民主党は、予算案をめぐる最後の採決では「よりマシな」案に票を投じると宣言している。ただ、与党(社会民主党・環境党)の予算案と中道保守ブロックの予算案を見てみると、スウェーデン民主党の一番の関心どころである「移民受け入れ」「社会統合」の予算はほとんど変わりがない。また、この党が減らしたいであろう「国際援助」も与党と中道保守ブロックはほぼ同じ額を充てている。
では、他の予算領域はどうだろうか?スウェーデンの予算には27の予算領域があるが、その一つひとつにおいて、与党と中道保守ブロックのどちらの予算案が、スウェーデン民主党の予算案に近いかを比べてみると、実は与党の予算案のほうが近いことが分かる。

赤は与党、青は中道保守ブロック、黄色はスウェーデン民主党
だからといって、スウェーデン民主党が本当に与党の予算案に賛成するか(もしくは、棄権するか)といえば、今のところ確証はないし、これらの数字には現れていない政策の違いもある。例えばエネルギー政策に関しては、スウェーデン民主党は原発賛成なので、同じく原発賛成である自由党のいる中道保守ブロックに考えが近い。いずれにしろ、実際に採決が行われる12月3日まで、どっちに転がるのか分からない。ほくそ笑んでいるのは、そのキャスティングボートを握るスウェーデン民主党である。
スウェーデン民主党は近年、党の「正常化」に努めてきた。つまり、極右というイメージをトーンダウンさせ、他の党と何ら変わらない、責任感のある党だというイメージを確立させようと努力してきた(とはいえ、人種差別・宗教差別的発言のスキャンダルが絶えないが・・・)。もしそうなら、今回の予算案の採決においても、政治や経済の安定性を大きく損なうであろう内閣総辞職とか新選挙につながるような選択は避けるかもしれない。また、新選挙になった場合、党首のジンミ・オーケソンが燃え尽き症候群で一線から退いている今、この党には不利かもしれない。一方で、彼らが政治に嵐を巻き起こそうと思えば、いくらでもできてしまう。
実際の採決まで結果が分からない、という今の状況を打開しようと思えば、中道保守ブロックを構成する4党のどれかが与党側に寝返ることをあらかじめ約束することだ。私は、選挙直後はこの可能性もあるのではないかと思っていたが、この4党は(少なくとも表面上は)これまでの結束を維持しているし、その証として共同で予算案を提出しているから、直前になって与党側に寝返る党が出てくる可能性は非常に小さくなってしまった。
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