スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ヨーロッパ経済の火薬庫

2010-05-01 21:09:22 | スウェーデン・その他の経済
アイスランドからの火山灰は幸い収まったが、別の苦悩が再びヨーロッパを襲っている。ギリシャやスペイン・ポルトガルなどの財政危機だ。

2009年のギリシャの財政赤字は当初は10%程度だと言われ、それが実は12%になると見られ、そして最新の推計によると14%になる見込みだと言われている。債務残高はGDPの120%に相当する額。過去20年近くにわたって平均7.5%の財政赤字を毎年生み出してきたから、そのツケが着実に貯まってきたわけだ。

ギリシャの経済力から考えれば、近い将来、国が破産してもおかしくない。つまり債務を不履行にすることだ。一個人や一企業であれば、既に破産しているところだ。一個人の喩えをさらに続けるならば、ギリシャはサラ金に手を出して多重債務に陥ってしまったと見ることもできる。抱えている借金を返済するために、新たな借金をしなければならず、借り直すたびに負債額が増え、利率も上昇していく・・・。

今、目先に迫っているのは、次の返済日である5月19日。この日には85億ユーロの国債が満期を迎えるため、その資金を用意する必要があるが、新たな借金をしようにも市場での信用がないため、国債の販売価格をかなり安くしないと(つまり利率を高くするということ)買い手がつかない状態だ。これでは元本どころか利払いすら追いつかなくなってしまう。

だからこそ、EUとIMFは今後3年間に総額1000~1200億ユーロの特別融資を行う議論をしている。このうち直近の支援としては、IMFが250億ユーロ、EUが300億ユーロを拠出するというが、EUの負担分についてはドイツ国内で大きな反発が起きており、ドイツ政府がゴーサインを出さない限り実行には移されない。

また、EUとIMFは支援の見返りとして、今年と来年の財政支出を10%カットすることを要求しているが、ギリシャ政府にそれを行う能力があるのかも疑問だ。現時点でギリシャ政府が約束している歳出削減はわずか4%に過ぎない。それですらギリシャ国内ではゼネストが相次いでいる。だから10%削減なんて行ったら、どうなることやら・・・(いや、どうせ反発を受けるなら4%削減なんて小出しをせず、最初から10%減を発表したほうが良いという声もある)。

しかし、根本的な疑問は、EUやIMFがたとえ今ギリシャを支援したとしても、その場しのぎに過ぎないのではないか?ということだ。既に書いたように、ギリシャは過去20年にわたって毎年平均7.5%の財政赤字を記録してきたという。つまり、構造的な問題として(1)経済力・税収力が歳出に比べて小さすぎる、もしくは(2)歳出が経済力・税収力に比べて大きすぎる、ということだ。いや、本当の答えは(1)(2)の両方だろう。

他の西欧諸国(EU15)に比べたら経済力は相当劣るにもかかわらず、例えば、賃金水準は他の国と同じくらいだし、ギリシャの年金制度はヨーロッパの中でも一番寛大だと言われ、公務員をはじめとする一部の労働者は既に50歳代で退職でき、年金の受給を開始できるという。ギリシャ政府は歳出削減を行うために、年金受給開始年齢の引き上げを打ち出しているが、影響を受ける労働組合が途端に反発し、大きなストへと発展している。歳出がカットされる分野には医療など社会保障分野もあるだろうから、ストする側の気持ちも分からないでもないが、それでも、年金などでは既得権益を守りがたいためにストが起き、経済がストップし、危機がさらに深刻になるという悪循環に陥っている。そんな状況を見せられたら、ドイツの人々も自分達の税金をそんな国の救済に充てたいとは思わないだろう。

年金制度の持続可能性は、どの先進国も頭を悩ませている問題であり、だからこそスウェーデン政府も90年代に大きな年金改革をやってきた。現在の平均的な受給開始年齢は65歳だが、それを67歳に引き上げるべきという声すらある。ギリシャでどのような議論がこれまであったのかは不明だが、抜本的な改革に乗り出さず、小細工を使って財政赤字を野放しにしてきた責任は大きい

一番いいのは、自己破産を申請して、積もりに積もった債務を全部帳消しにして、一からやり直すことだろう。全部帳消しは難しいとしても、エコノミストの中には、ギリシャの債務残高1500億ユーロのうち3割から7割を帳消しにすべきという声もある。ただ、ギリシャの債務を帳消しにした場合、同様に危ないスペインやポルトガルに対する信用不安も拡大するだろうから、果たして良い手ではないかもしれない。ドミノ倒しみたいになってしまう。

ギリシャがどのような形でこの危機を乗り切るにしろ、身の丈にあった経済を作っていく必要がある。賃金水準や年金水準は相当下げざるを得ない。自分たちではおそらく難しいだろうから、EUがギリシャ一国を丸ごと直轄し、課税権をEUが奪い、歳出にも厳しい上限を設けるのはどうだろう? いや、いっそのこと属領・植民地にするとか? 2000年前には、ローマ帝国の属領にされた経験があるのなら、それも耐えられるかもしれない!?

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3 コメント

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破産 (里の猫)
2010-05-02 14:27:29
前に国が破産するとどうなるの、と質問したことがありますね。その時は仮定法の気持ちだったんですが・・・
なるほど、破産すると、どこかの属国のようになってしまうわけですか。
でもそうすると、ギリシャなんかだと内乱が起きるかも?
見てると国民の自覚がどこまであるのかな、って思ってしまいます。
アリ(ドイツなどの北の国)とキリギリスの話を思い浮かべました。
私のブログでアリさんとキリギリスさんのつたないお話を書きました。
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Unknown (blue_Water)
2010-05-03 01:04:29
勉強になります。
通貨切り下げできれば破綻回避の可能性も
少しはあったのかな?と思うと、ユーロは
構造的な問題を抱えてそうですね…。
いっそ中世みたいに、外国との貿易決済とは
別に現地通貨作って併用するとか…。

以前イタリアの服飾の話を読んでいた折、
冷戦時代に国内の左翼層の取り込みのために
身の丈にあわないバラまき路線に走った結果、
一部の産業の破壊と財政を圧迫した部分がある…
というような記述があった記憶があります。
ギリシャの場合も、多すぎる公務員の厚遇や
手厚すぎる社会保障は、似たような利益誘導で
出来た部分もあるのでしょうか。

アフリカ等の問題でも、ただ与えるだけの弊害と
支えるための支援の違いの話はよく見かけますが、
破れたバケツに水を注いでいるような状態では
健全ではないし長く続かない気がしますね…。
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Unknown (Yoshi)
2010-05-04 22:07:52
>なるほど、破産すると、どこかの属国のようになってしまうわけですか。

いやいや、いっそのことそうしたほうがいいけど、現実には無理だろうな、という話です。

>アリ(ドイツなどの北の国)とキリギリスの話を思い浮かべました。

いいたとえ話だと思います。

>通貨切り下げできれば破綻回避の可能性も
少しはあったのかな?と思うと、ユーロは
構造的な問題を抱えてそうですね…。

ギリシャなどの場合は、自国の経済や制度に構造的な問題を抱えているため、それを抜本的に変えないといけません。ユーロに参加せず、変動相場制の元で自国通貨を維持していれば、状況は少しは良かったでしょうし、構造的な問題もより早く明るみになっていたかも知れませんが、ギリシャの場合はそれ以上に重要なのは構造的な問題解決に取り組むことでしょうね。
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