スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

労働市場モデルの踏襲

2007-01-10 02:00:27 | スウェーデン・その他の経済
(下の記事の続き)

ラインフェルト党首率いる「新しい保守党」は、彼が党首になった2003年以降に、それまでの新自由主義的、市場リベラル的イデオロギーのトーンを下げ、現実路線へと転換するようになった。

例えば、スウェーデン型の労働市場モデルというと、
・労働組合が強く、従業員の加盟率も非常に高い。
・労働者の権利は様々な分野で保証されている。そのため、企業側は、従業員との合意を重視しながら事業を進めていく必要がある(コーポラティズムと呼ばれる)。
・基本的に賃金は労使の集団交渉によって決定され、その結果、賃金の格差が小さい。
・きめ細かい労働法体系のほかに、労使間で結ばれる様々な協定が重要な役割を果たす。
・手厚い失業保険や、再教育プログラムなどの積極的労働市場政策を国が行う。・・・、
などを含むが、保守党は党是としてこれらの制度を強く批判してきた。

しかし、ラインフェルトや彼のブレイン集団(今の財部大臣Anders Borgや労働市場大臣Sven Otto Littorinなど)は、スウェーデン型の労働市場モデルが持つとされるプラスの効果を大幅に認め、現在の制度を大きく変えるような政策は行わない、と言い出したのだ。

実際、経済学による国際比較でも、スウェーデンモデルの弊害として労働市場の硬直化や若年者の高失業が起こりうることを指摘される一方で、労使の協調によって生産性向上への投資が円滑になったり、ストライキの頻度が抑えられたり、インフレの抑制ができるなどのプラスの面を指摘するものもある。

ラインフェルトの路線転換の背後には、政権獲得のための目論見だけでなく、こうした理論的な根拠への重視もある。というのも、彼のブレインの中には経済学を専攻した人や、その後、中央銀行で勤務した者も多く、理論的な素養も持っている人が多いからだ(おそらく、ケインズ派や制度学派)。実際、現財務大臣Anders Borgは党や税制のプログラムを発表するときに、経済理論をベースにした図表を用いて説得力のある説明をするが、これは政界あがりの財務大臣にできるような業ではない。また労働市場大臣であるSven Otto Littorinの専攻は経営学ではあったものの、マスコミでの議論やインタビューを聞いていると、経済学的な素養を感じさせてくれることもよくある。

保守党の路線転換についての過去の書き込み

(続く・・・)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿