スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ビルト外相の石油株保有

2007-01-11 09:03:58 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンの外務大臣であり、91~94年まで保守党政権の首相を務めたCarl Bildt(カール・ビルト)が、またもや窮地に立たっている。以前も話題に上った、石油関連株の保有についてだ。10月に組閣が行われて、彼は外務大臣になったが、その直後から彼の石油株の保有が問題視されてきた。彼は90年代に首相を務めたのち、産業界にデビューし、Lundin Petroleumというスウェーデンの石油会社の役員になったり、別のスウェーデン企業でロシアの半国営石油・天然ガス企業Gazpromの一部を所有するVostok Naftaの役員に就いたりしていたが、外相就任に先駆けて、これらの職を退いた。しかし、これらの企業に関する株式資産の所有は続けたのだ。以前の書き込み

まず、Vostok Naftaについていえば、彼は外相就任時に、それまで保有していた株式をすべて売却したものの、役員報酬として手にしていた株式のオプション権はそのまま保持し続けた。彼いわく「このオプション権を手放すことは、その売却が可能になる12月までは法的に不可能だから」ということだった。実際、昨年12月に彼は資産管理人を通して売却したものの、今メディアがスクープするところでは、12月まで待たなくても、就任時点で手放すことは可能だったということだ。一国の外交の鍵を握る外相職にあり、しかも現在、ロシアの石油・ガス資源供給に関する協議が続いているだけに、石油資本の利権に自ら足を踏み入れているようでは、バランスの取れた判断が取れないのではないか、との懸念が世論でもたれるようになった。僅かなスキャンダルの種を政治的に利用しようとするのは、どこの国でも世の常であるが、スウェーデンの環境党もビルト首相のオプション権保有を、警察省の汚職対策部門に告訴した。それを受けて検察庁が、大規模な調査を始めている。

また、Lundin Petroleumに関しては、ビルト首相は未だに株式を保有しているが、この企業はスーダンにおける石油開発に際して、近隣の村々を焼き払いをスーダン政府が行ったのを容認し、その結果、何万という農民が飢餓に追い込まれる、という大きなスキャンダルを起こした企業であり、2001年以降スウェーデンのメディアから大きく批判された企業なのだ。さらに、昨年11月にはエチオピアの資源管理当局と、資源発掘に関する大きな合意を結んでいるのだ。エチオピアといえば、年末年始に掛けて隣国ソマリアの内部抗争に介入し、現在でもこのソマリア紛争の混迷化が危惧されている。EU諸国をはじめ、スウェーデンもこの紛争の平和的解決に大きな関心を示してはいるが、ここでもやはり一国の外相として、当該国の利権に関与した状態で、冷静な判断ができるのか? 自分の利益を優先せずに、世界のため(スウェーデンのため)にベストな外交が展開できるのか? 本人にたとえその気はなくても、周りからは常に疑いの目で見られることになる。そのために、外相としての信頼性が揺らぎかねないのだ。(エチオピア・スーダンの文脈の限りでいえば、ビルト外相が自分で所有する株式の価値を高めたいと思えば、一刻も早く同地域を安定化させ、資源発掘を推進することなので、この紛争の平和的解決と両立はするのだが)

総じていえることは、ビルト外相は今のポストに就くことを決心した時点で、外相職と関連しかねないすべての利権を手放すべきであった。もちろん、それまでに会社役員として働いた分の報酬は株式やオプション権という形で懐に入れてもいいではないか!という議論ももちろん理解できないことはないが、外務大臣をはじめとする閣僚職は、彼らの決定一つで大きな利権を動かしかねないという点で「聖職」であるし、民主国である以上、彼らの決定の正統性は、国民・世論からの信頼性に拠っている。それを損なうようなことは極力避けなければらない。それでも彼が自らの報酬の保持を主張したいのであれば、彼は外相就任の打診にNejというべきであった。スウェーデンのメディアがこういう点に関して、とりわけ厳しいことは彼も承知していたであろうに!

そういう意味で言えば、Mona Sahlinがメディアに追及されて失脚した「チョコ・スキャンダル」など、この問題と比べれば、メディアが誇張して作り上げた些細なことにも思えてくる。

この騒動でビルト首相が退陣に追い込まれることはおそらくないと思われるが、彼のメディア対応しだいでは、ひょっとすると、新内閣閣僚のうち3人目の辞任となるのは、彼だったりするかも・・・?

最新の画像もっと見る

コメントを投稿