スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ベリー摘みと困った税法

2006-06-30 05:48:14 | スウェーデン・その他の経済
毎年8月になるとスウェーデン各地で、ベリーが実をつける。ブルーベリー(blåbär)をはじめ、lingon、björnbär、svartvinbärなど様々。中でも、スウェーデン北部の湿地帯でしか獲れない黄色いhjortronは希少価値が高く、比較的高値で取引される。(といっても、種ばかり大きくて、何でそんなにもてはやされるのか、私は理解できない)


あたり一面、ブルーベリーだらけ。去年は自家消費分のブルーベリーをたくさん取りました。

様々なベリーはジャムなどの食料品に加工されて出荷されるほか、ブルーベリーなどは医薬品やヘルシーフードとしても重宝される。(去年このブログにコメントを下さった業界の人によると、日本に入ってくるのは主に粒の大きめな北米産だとか)

収穫は1年のうちの限られた時期。卸業者はその時期にできるだけたくさんのベリーを収穫して、冷凍保存する。しかし、収穫作業は肉体労働の上に、買い取り価格も低く、スウェーデン人でやるものはいない。なので、今ではスウェーデンのベリー産業はほとんど外国人の季節労働者に頼っている。主に、タイ人、ポーランド人、ロシア人、ベラルーシ人などが入国ビザを取得してやって来る。労働ビザはベリー摘みには必要ない。特にタイ人がスウェーデンでは好評だ。稲作に慣れているために、森林や湿地帯など、歩きにくいところでも身軽に動き回り、前かがみで長時間、収穫を続けることができるからなのだそうだ。
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しかし、今年はどうも例年通りにはいかないようだ。税制が変わったためだ。これまで、ベリーの収穫による所得は5000クローナ(75000円)までは非課税とされていた。(税法の中にわざわざ“ベリー”の項目があるのだ。)外国人に対しても同じ。彼らは自分で収穫したベリーを買い取り業者の所へ持って行き、その場で現金に替える。どの人が5000クローナ以上の所得を得たかなんて、なかなか分からないから、事実上は非課税は青天井だった。

だが、今年から外国人の季節労働者にはarbetsgivaravgift(=payroll tax =支払給与税)が課せられることになった。つまり、買い取り業者が外国人から買い取る時に、彼らに支払う対価とは別に、その約3割を税金として国に納めなくてはならなくなったのだ。

理由はこういうこと。ベリー摘みの季節労働者の多くが、最近は買い取り業者に招かれてスウェーデンへ来るようになった。そして、ベリーを摘み、業者に卸して対価をもらう。スウェーデンの国税局は「まさに買い取り業者に雇われているのと同じこと。それならば“雇い主”である買い取り業者は、他の業種と同じように労働者の給与とは別に、支払給与税を払うべき」と主張するようになったのだ。

さぁ、今頭を悩ませているのはベリーの買い取り業者だ。今年の夏は、この税金分を差し引いて、外国人のベリー摘みに対価を支払わなければならない。彼らの手取りは減るわけだ。

一方、お隣フィンランドでは、それまでのスウェーデンと同じように、相変わらずベリー収入には非課税。スウェーデン北部とフィンランド北部は陸続きなので、摘んだベリーをフィンランドまで行って買い取ってもらえば、収入は多くなるのだ。これに目をつけたフィンランドの買い取り業者は、トラックでスウェーデンに乗り入れ、ベリー摘みから直接買い取る計画もあるそうだ。そうなると、誰もスウェーデンの買い取り業者に売りたがらなくなる。そうなると、せっかく新設したあたらしい税法も、税収入を生み出さないばかりか、国内のベリー業界に大きな打撃を与えることになる。

島国である日本ではあまり考えられないことだが、他の国と陸続きのヨーロッパの国々では、ある国の政策が他の国の人々にも影響を与えかねない。もしくは、この話のように、ある国で作られた政策が、隣国の政策とのバランスを考慮しなかったために、当初の目的に適わないばかりか、別の分野で悪影響を及ぼす、ということにもなりかねない。

今回の例でも、スウェーデン国内でベリーを加工する業者は、あえてスウェーデンでベリーを手に入れずに、フィンランドで買い取られたベリーを逆輸入すれば、今までどおり簡単に原材料を調達できる。スウェーデンで収穫されたベリーがフィンランドで買い取られ、再びスウェーデンに輸入される。なんという二度手間だろう。打撃を受けるのはスウェーデンの買い取り問屋と輸出業者だ。

考えられるもう一つの悪影響は、闇で買い取る業者が出てくる恐れだ。外国人労働者も、そういう業者に高値で買い取ってもらえるうちは喜ぶかもしれないが、足元を見られて不当に買い叩かれるようになると、闇なので文句も言えなくなる。
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副次的な影響を考えずに導入されたこの税制。ベリー業界は不服を申し立てている最中で、今年の間はこの新法の適用が回避されることを願っている。


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2 コメント

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いちご (snickare)
2006-07-02 16:05:36
以前住んでいたエーランド島は苺の産地だったのですが、やはり収穫の頃にになると外国からの季節労働者の力を借りているようでした。やっぱりタイからの人が多いと聞きましたよ。畑の脇に宿泊用の本当に小さな小屋が並んでいました。

これまで通り「ベリー」を特例とするくらい、いいような気がしますけどね。



友人はhjortronを“北方の美味”のひとつと評してました。ぼくは生のものを食べたことがないのですが、希少であることが舌の感覚に影響を及ぼすことはあるかもしれませんね。
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Unknown (Yoshi)
2006-07-04 16:50:04
へぇ、イチゴ摘みも季節労働者に頼っているのですね。今年は、イチゴの出来がいいという話を聞きました。道端のあちこちでイチゴを売っていますね。



あれをお酒につけて、イチゴ酒を作ってみたいと思う今日この頃。
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