スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

Vatternrundan 2005 (1)

2005-06-20 20:33:12 | コラム

ヴェッテルン(Vättern)湖のまわり300kmを走る自転車の大会 ヴェッテルンルンダン(Vätternrundan)の二度目の体験記。私は専門的な知識も経験もない、アマチュアとしての体験談ですので、いい加減なところもありますが悪しからず。

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大会の前日、木曜日にスタート地点であるモータラに入る。電車での移動だが、自転車の持ち運びが大変だ。自転車そのままを列車に持ち込むことはできないから、分解して専用の袋に収納する。列車の車内の荷物置き場は限られているから、邪魔にならない所にちゃんと置けるかということも問題だ。さらには、モータラまで乗換えが二回だから、その度に大きな自転車袋を持って、ホームを行ったりきたりしなければならない。

そんなこんなでも、何とかモータラにたどり着く。この町では、私の父が昨年、間借りをさせてもらった家族の家で、今年も泊まらせてもらう。郊外に建つ二階建ての一軒家で、夫婦と二人の息子が生活しているのだが、このヴェッテルンルンダンの前後は子供の部屋や使われていない部屋、さらには庭においてあるキャンピングカーを総動員して、大会参加者の宿にしている。私たちが間借りしたのは19歳になる長男の部屋。私たちのほかには、7人のスウェーデン人参加者がこの家族のもとで宿をとった。レースに先駆けて、他の参加者と世間話や情報交換ができるのはとてもよい。さらに、ここの家の家族もスタートに向けていろいろと世話をしてくれる。ガレージを空けてもらって、そこで宿泊者はレースに備えて自転車の整備をする。

他の7人の参加者というのは、10回目出場の62歳の男性、初出場の父親と娘のペア、30代の男性(出場回数不明)、初出場の20代女の子三人組。ちなみに、私は今回2回目、私の父は3回目。

大会前日は自転車を調整したり、ゼッケンをもらいに行ったりとのんびり過ごす。ゼッケンのほかICチップが配布され、これを各自が左足に巻きつけてレースに参加するのだ。このチップのおかげで、それぞれの参加者がいつスタートして、途中のポイントをいつ通過し、最終的にいつゴールに到達したかが記録される。こうして、15000人を超える参加者の結果がコンピューターに自動的に記録されるのだ。

次の日は、いよいよ大会当日。といっても、私のスタート時間は深夜0時24分、私の父は1時46分なので、この日はまる一日時間がある。夜中走ることになるので、それに備えて、よく寝ておきたいもの。日中はのんびりした後、夕方から仮眠をとろうと思うものの、結局ほとんど眠れずじまい。横になって時計を見ていると、時計が20時を指す。外はまだまだ明るい。スタート地点ではちょうどこの時最初のグループがスタートしている。それ以降、2分間隔で60人ずつの参加者がスタートを切っていくのだ。


20時に最初の60人がスタート。あいにくの雨。ヒヨコ姿のおじさん!?
(写真は大会関係者撮影)


それまで曇っていたものの、この頃から雨まで降り出す始末。天気予報によれば、深夜にかけて雨がやみ、快方に向かうというので、それが当たることを祈るばかりだ。23時15分、セットしておいた目覚まし時計が鳴り、起き上がる。必要なものが全部そろっているか確認。自転車メーター、予備チューブ、工具、カメラ、携帯電話、サングラス・・・。水のボトルは自転車のフレームに固定し、食べ物は背中のポケットに入れる。左足にはICチップを巻きつける。

父親のスタートは私よりも1時間半遅いので、まず私が先に家を発つ。出かけに父親だけでなく、ホスト・ファミリーのおじさんSonnyがビールを片手に激励してくれる。今年は練習不足だった、果たしてゴールまでたどり着けるのか、という弱気が頭をよぎる。

スタート地点にたどり着いた頃には、スタートまであと15分ほどしか時間がない。スタート地点には柵で囲まれた区域が6箇所、平行に並んでおり、スタート・グループごとに次々と柵の中に入って行く。2分ごとに左の柵から右の柵へと順番にスタートが切られていくプロセスが、20時以降ずっと続いていたのだ。



緊迫のスタート地点の様子。スタート・グループごとに
60人ずつ枠の中に入って出発の合図を待つ。ついに来た。


0時24分、7962人目(ゼッケンの番号)としてスタートを切る。

この時にはもう暗くなっていて、北西の空に夕焼けの残りがかすかに残る程度。最初の1kmはバイクに先導されて、同じグループの60人がゆっくりとウォーミング・アップで走っていく。小さな入り江に面するモータラの岸沿いの細い道を走りながら、入り江の中でライトアップされた大きな噴水が見えるのが、なんとも幻想的。そして、国道に出ると、ここからレースが始まるのだ!

みな、ウォーミング・アップを続けながら、自分のペースを探っていく。それと同時に、集団形成が少しずつ始まっていく。一人単独で走ると、風の抵抗をもろに受けることになるので、誰かの後ろについて、みな風よけにしたいと考える。だから、自分とペースが合いそうな人を見つけて、後ろに連なって便乗しようとするのだ。

例えば、ある一群に追い越されたとき、着いていけそうなら自分も連なっていく。または、ある一群の中で走っているとき、先頭のペースが落ちてくると、後ろの人たちは誰か先に飛び出してくれないかなと、顔色を窺い始める。そして、待ちきれずに集団から飛び出して、先に行こうとする人に、みんなが一気に連なっていくのだ。私もあるとき自分から集団を抜け出して、自分のペースで走っていたことがあったが、しばらくして後ろを見たら10人ほどが一列に私の後ろに引っ付いていてビックリした。先導する立場から見たら、これはまさに金魚のフン!?

こうして集団がどんどん形成されていき、それが次々と変化していく。都会の通勤電車にたとえるならば、こんな感じ:
鈍行
ゆっくり走るアマチュア参加者。たいてい普通の自転車。いかに速く走るかが目的ではなく、24時間かけてでも完走することが目的。彼らの集団形成はあまりない。
快速:時速20km前後
鈍行よりも少し速く走る人のグループ。
急行:時速22~27km
アマチュアでもある程度、練習を重ねてきた人たちの集団。
特急:時速27~32km
10~11時間くらいで完走を目指すグループ。もちろん、みなレース用の自転車。
超特急:時速32km以上
10時間の壁を突破したいグループ。もちろん、このグループの中にもさらに速い集団もいる。例えば、9時間の壁を越えたい人たちは35km以上で走るだろう。でも、私にとっては猛スピードで追い抜いていくという点で、根本的には違いがない。

これだけスピードが違う集団が、国道の片側で追い越し合戦を繰り広げるのだ。私は急行グループ!と言いたいところだけれど、スタミナが切れて快速グループに付いたり、孤独に鈍行で走ったりもする。急行グループに属して走りながら、今はかなり調子がいいなと思っても、後ろから轟音が近づいてきて、10kmも速いスピードで走るグループが一列で軽やかに追い抜いて行くのは、いつ見ても信じがたい。自転車が十数台も連なって走るときの轟音というのは凄まじい。後ろからてっきり車が近づいてきたのかと思うほどだ。

サマータイム制のために、空が一番暗くなるのは夜中の1時。普段ならば、1時でも空がほんのり明るいのだけれど、今回は雲のおかげでかなり暗い。雨は幸い私がスタートする前に止んでいる。時たま半月が顔を出し、時たま見える湖を淡く照らしている。各参加者が付ける自転車後部の赤いライトが国道に沿って果てしなく連なっている。まるで赤い蛍か、火の粉のようだ。


これは二年前の大会の写真。満月


うまく写真に撮れないのだけれど、赤い光が道に沿って延々と続いているのだ

(連載続く)

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