スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

エタノールへの懸念

2007-05-06 20:18:26 | スウェーデン・その他の環境政策
ガソリンに代わる新しい燃料として注目されるエタノール。エタノールの生成にはトウモロコシやサトウキビ、麦類などが使われる。太陽の光をたっぷり浴び、光合成の過程で二酸化炭素を吸収し、糖が作り出される。その糖をエタノールに変え、燃料として使うと、再び二酸化炭素に還元する。だから、大気との二酸化炭素の出し入れは、プラスマイナス0、というわけだ。

スウェーデンの自動車メーカー、VolvoSaabエタノール車エタノール含有率85%のガソリンE85を燃料として使える)に力を入れてきた。例えば、Saabの主力である乗用車Saab93(ガソリン車モデルとエタノール車モデル[BioPower]がある)の宣伝文句は「Släpp loss naturens krafter.」(自然の力を解き放とう)だ。

政府の補助金のおかげで、E85の価格が通常のガソリンよりも低く設定されていることは以前に書いた通り。スウェーデン各地のガソリンスタンドの多くで、E85が給油できるようになっている。
<以前の書き込み>
スウェーデンにおけるバイオ・エタノールの普及(2007-04-09)

しかし、エタノールに対して大きな期待がもたれる一方で、既にスウェーデンでは悲観的な声も上がり始めている。少なくとも今の技術水準では、大きな弊害をもたらしかねない、というものだ。

本来、食料のために栽培されてきたトウモロコシなどの穀物が、エタノール生産のために投入されるため、特に、インド・メキシコ・ペルーなどの貧困国でトウモロコシの価格が高騰している。そのため、これを主食としている人々がまず貧困に陥りかねないという。さらに、このトウモロコシ価格の上昇を受けて、これまで大豆や米など他の作物を栽培していた土地を、トウモロコシ栽培に転用する動きが進んでいるため、他の食用作物の価格も上昇し始めているという。

途上国の貧しい農民は、食用作物の高騰から生活を守るために、自ら栽培を始める。一方、豊かな農民は、新たなビジネスチャンスと見て、トウモロコシの栽培を拡大させる。その結果、南米の熱帯雨林伐採が加速しているという報告もあるらしい。

本来、二酸化炭素排出を抑えるため、そして、化石燃料の使用を抑えるために、考案されたエタノール燃料。しかし、その生産のために、二酸化炭素の大きな吸収源である熱帯雨林を切り崩しているとしたら、本末転倒だ。もちろん、穀物の価格上昇による貧困の深刻化も、見過ごせない問題だ。

では、エタノールを食料以外から生産できないのか? 実は、可能だ。木材や藁など、いわゆる廃材を利用するのだ。この場合、糖からエタノールに直接変えるのではなく、植物の細胞膜を構成するセルロースを分解し、糖に変えてから、エタノールを生成するのだという。しかし、現在の技術水準では、この方法だとコストがかかる。トウモロコシからエタノールを作るのに、リットル当たり2クローナ(35円)かかるのに対し、セルロース・エタノールは3.5クローナ(61円)と7割ほど高くつく。

だから、エタノール利用の鍵は、このセルロース・エタノールのコストをいかに下げていくか、にかかっているようだ。日本でも、最近このセルロース・エタノールの製造工場が建設されたらしい(たしか、大阪?)。今後の技術進歩に期待したい。