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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

男女平等をめぐる議論

2014-09-05 04:59:42 | 2014年選挙
選挙キャンペーンの中心的な争点とまではならないにしても、盛んに議論されてきたテーマの一つは男女平等だ。

今年5月の欧州議会選挙では、その半年前からフェミニスト党が突如として頭角を表し、男女平等反差別(性別・人種)を掲げながら5.2%の得票率を得て議席を獲得したことは大きなニュースとなった。左派の既成政党である環境党や左党(旧共産党)、そして社会民主党にとっても男女平等は大きなテーマであるが、フェミニスト党の快進撃に触発されて、これらの党でもその議論が加速しているように感じる。

右派陣営の中ではリベラル主義を掲げる自由党が男女平等を主要な争点に選び、「Feminism utan socialism(社会主義に依らないフェミニズム)」というスローガンを掲げている。つまり、左派政党のいう男女平等・フェミニズムはアプローチが社会主義的であり、自由党はそれに代わるアプローチで男女平等を実現することを謳っているのである。


フェミニスト党と自由党の選挙ポスター

さて、男女平等・フェミニズムというテーマでは、スウェーデンでは特に男女の経済的な平等に焦点が当てられて盛んに議論されている。男女の経済的平等とは、性別にかかわらず、また夫婦であってもそれぞれが経済的に自立した生活を送れること、そして、その条件が皆に等しく与えられることであり、その実現は国の男女平等政策の目標の一つとなっている。

では、現状はどうか。男女の賃金格差を見てみよう。スウェーデンの統計中央庁(SCB)によると、業種や職能、職階、学歴などの違いを加味した上で男女の平均的なフルタイム賃金を比較した場合、女性の平均的賃金は男性の93%であるという(2012年)。一方、そのような違いを加味しないで比較した場合は、女性の平均的なフルタイム賃金は男性のそれの86%となる。これは、女性が一般的に賃金の低い業種や職種に偏っていたり、高い職階(管理職・役員)に女性が少なかったりするためである。

また、以上の比較はフルタイムで働いたと仮定した場合の賃金比較であるが、実際には女性のほうがパートタイムで働く割合が高いし、労働力率・就業率は男性よりも若干低いので、1年間の勤労所得を比較すると女性の平均的な勤労所得は男性の80%にしか及ばない(以上、数値はすべて2012年のもの)。

経済的平等といった場合、現役時代だけでなく、老後の経済的平等をも指す。スウェーデンの公的年金制度では、現役時代の勤労所得に比例して年金給付額が決まるので、現役時代の経済的格差は、そのまま老後の生活水準にも影響をおよぼすことになる。2012年時点での年金受給者を見ると、女性の年金受給額の平均は男性のそれの66%である。そのため、現役時代の経済格差をいかに小さくしていくかが政策的課題とされているのである。

では、何を是正していくべきか。(1) 雇用の際の差別をなくしたり、(2) 業種や職能、職階、学歴が同じなのに存在する男女間の賃金格差をなくす(つまり、上記の93%を100%にする)ことは当然であろう。これらは差別の問題である。しかし、それだけでなく、(3) 女性の多い業種の賃金を全体的に押し上げたり、(4) 管理職や役員の女性比率を高めていったり、(5) フルタイムで働く女性が増えるようにしていくこともそれと同じくらい重要である。


【 育児休暇保険の制度改革 - 「パパ・クォータ制」】

これらの問題の多くは、家事労働や育児労働の分担が不平等であることに起因していると考えられる。特に育児休暇である。スウェーデンの育児休暇保険制度では、1974年からは男性にも受給権が与えられるようになった。これは世界で初めてのことだったが、しかし、残念ながらそれだけでは男性の育児休暇の取得率は増えなかった。育児休暇保険の支払い日数に占める男性の割合は1980年の時点で僅か5%。1990年になっても7%とほとんど変わらなかった。

一つの打開策として、育児休暇のうち1ヶ月間は父親が取らなければ、その分の手当がもらえない、という「パパ・クォータ制度」が1995年に導入される。そして、2002年にはこれが2ヶ月に延長された。また、2008年からは夫婦が育児休暇を等しく取れば取るほど減税が受けられる「平等ボーナス制度」が導入がスタートした。


上のグラフは、育児休暇を取る男性の割合を示したものだ。青の棒育児休暇保険の利用者に占める男性の割合。1980年代終わりは25%だったのが、今では45%に達している。しかし、この青い棒で示した統計では男性が1日でも育児休暇を取れば、育児休暇保険の利用者としてカウントされる。

なので、育児における男女の負担をより正確に見るためには、育児休暇保険の支払い日数に占める男性の割合を見たほうが良い。それが、赤い棒で示した統計だ。それよると、男性が取得している育児休暇の割合は、1990年に7%だったものが、徐々に上昇して25%にほぼ到達した。

しかし、それでも25%である。50%までにはまだ程遠い。そこで、さらなる対策が議論されている。社会民主党パパ・クォータを3ヶ月に延長すべきだと主張しているし、環境党最大16ヶ月認められている育児休暇保険の利用期間を3分割して、3分の1を母親、3分の1を父親に固定し(つまり、その期間は母親もしくは父親が育児休暇を取得しなければ制度を利用できない)、そして残りを夫婦で自由に配分できるような制度を提案している。一方、左党フェミニスト党などはより抜本的な改革が必要ということで、2分割、つまり、16ヶ月を夫婦で完全に二分することを提案している。

一方、現政権である中道保守連立の中では、この記事の冒頭で触れた自由党が社会民主党と同じ「パパ・クォータの3ヶ月化」を主張している。ただ、現政権の第一党である穏健党はパパ・クォータを延長することには消極的である一方、育児休暇の分担を等しくするほど減税が受けられる「平等ボーナス制度」の拡充を提案している。

もっと奇抜な提案をする党もある。現連立政権に加わりながら、今や存続の危機にあるキリスト教民主党は、なんと「パパ・クォーターなんか撤廃してしまえ」と主張しているのだ。育児休暇の分担は夫婦が自分たちで決めることであり、政府が勝手に押し付けるのは良くないという考えからである。しかし、そもそもパパ・クォータ制が導入された理由には、政策介入がなければ男女の平等な育児休暇負担が遅々として進まないからであり、キリスト教民主党の提案はそのような議論や苦労を全く無視したものである。保守を掲げる穏健党よりも保守的な党であるが、そんな党がそれでも選挙ポスターに「男女平等」を掲げているのは非常に滑稽である。ただ、若者の支持はほとんど失っており、支持者の大半は高齢者である(奇抜な、と書いたのはもちろん皮肉)。ちなみに、右翼政党であるスウェーデン民主党もパパ・クォータの廃止を主張している。



【 女性の多い教育・福祉部門の給与向上 】

既に触れたように、女性の平均的な賃金が男性よりも少なくなりがちなのは給与水準が比較的低い学校教育や保育・高齢者介護などの仕事に女性が多いことが一つの原因である。これらの職業のステータスを高め、給与水準を高くするための議論も盛んに続けられている。

例えば、自由党は学校教育や福祉部門において、きちんとした教育と経験を積んだ職員がキャリアの道を歩めるように、国庫を財源としたボーナス制度を導入することを提案している。また、これは現連立政権全体に言えることだが、福祉部門において公的・民間サービスを競合させることで、能力に応じた適正な給与が決まるようにすることを主張している。

一方、左派政党は、キャリアを積みたい職員に限らず、職員全体の給与水準が上がっていくように国庫による補填を提案している。また、社会民主党や左党などは、現政権のもとで保育や高齢者福祉などの質が低下した結果、家庭での無報酬労働が増え、それを主に女性が負担することで男女平等に歯止めがかかっていると指摘した上で、福祉部門の財源を充実させることでサービスの質と現業職員の給与を向上させ、現役世代が福祉の不安なく、安心して働けるようにすべきだと主張している。


【 パートタイマーのフルタイム化 】

女性の生涯賃金が男性よりも低くなり、それが年金受給額の男女格差に繋がっているわけだが、その理由の一つはフルタイムではなくパートタイムで働く女性の割合が高いことである。2013年の時点でパートタイムで働く女性の割合は30%で、これに対し男性は11%である。1987年にはパートタイムで働く女性の割合が45%男性が6%であったことを考えると、女性の割合が減少し、男女間の差も減っていることが分かるが、それでもまだ大きな格差が残っている。

パートタイムで働く主な理由は、子育てなど家庭の事情でパートタイムのほうが働きやすいから、というものの他、パートタイムの仕事しか見つからないという理由も大きい。前者の場合は、育児休暇保険のところで書いたように育児労働の不平等な分担を改善していくことが鍵だと思うが、後者の場合は、本当はフルタイムで働きたい人がフルタイムで働けるようにしていかなければならない。例えば、高齢介護などの福祉部門においては、職員のシフトを構成する上でパートタイムで雇ったほうが雇い主に都合が良いため、職員をパートタイムで雇う場合が多々ある。雇い主は主に地方自治体などであるから、彼らに働きかけてフルタイムを希望するパートタイム職員のフルタイム化を要請したり、そのための財政支援を行うことなどが主に左派政党から提案されている。


※ ※ ※ ※ ※


各党の政策主張の違いを事細かにここで説明する時間はないが、このように現在の社会が抱える問題について、具体的な対策を各党が提示して議論しているのは面白い。百家争鳴というと大袈裟かもしれないが、それくらい様々な内容の提案が各党から出されている。そして、その効果の是非をめぐる議論については学術界の専門家の研究ともリンクしているし、アイデアそのものが学術界の研究に基づいていることも稀ではない。

地盤沈下し、生活保護の水準に達した失業保険

2014-08-31 08:01:24 | 2014年選挙
選挙の争点の一つは失業保険の給付水準だ。

スウェーデンの失業保険は、国の社会保険制度には含まれていない。歴史的に失業保険は労働組合が始めたものであり、今でも業種・職能別の労働組合がそれぞれの失業保険基金を管理し、加入も任意である。しかし、面白いことに、失業保険手当の給付水準や給付条件は国が決めており、さらに、各労働組合が管理する失業保険基金には、社会保険料を財源とした補填が国から支払われているため、実質的には国の社会保険制度の一部だとみなすこともできる。

さて、失業保険手当の給付水準は、失業前の給与の80%に設定されている。しかし、支払額の上限が設けられているため、失業前の給与がある程度、高い人はその上限額の手当しか受けることができない。支払額の上限は現在、1日あたり680クローナ(10,200円)。平日のみの支払いなので月に換算すると14,960クローナ(224,400円)である。つまり、月給が18,700クローナ(280,500円)を超える人は、×80%をするとこの上限額である14,960クローナを超えてしまうため、手当の額は失業前の給与に比べると80%以下となってしまうのである。

現在の問題点は、この上限額が過去12年間、ずーっと据置きされてきたことである。本来なら経済全体の平均的な給与水準の上昇に合わせたスライド制を適用するべきところであるが、現在の制度では、必要性と財政的余裕に応じて時の政権がその都度、政治判断をして引き上げることになっている。しかし、2002年に当時の社会民主党政権が最後の引き上げをして以来、同じ水準のままなのである。

この12年の間に経済は成長し、給与水準も上昇してきたから、失業者しても手当がこの上限に達してしまい、失業以前の給与の8割以下の手当しか受けられない人が増えてしまっている。

しかも、この12年の間に、物価水準は22%しているため、上限手当の実質的な購買力はその分、目減りしていることになる。

そして、なんと今年ついに、生活保護の給付水準に追いつかれてしまったのである。

生活保護の給付水準は物価上昇に合わせて毎年更新され、引き上げられている。生活保護は「妥当な生活」を送るのに必要とされる額が支給され、その額は家族構成や住んでいる自治体の物価水準によって異なる。例えば、ストックホルムでは、一人暮らしだと月10,805クローナ(162,000円)、3歳と15歳の子を持つ母子・父子家庭だと11,742クローナ(176,000円)だ(これに加え、親の所得水準に関係なく児童手当が給付される)。

生活保護は補助金であるため非課税で、所得税は掛からない。これに対し、失業保険手当は社会保険給付であるため、所得税が課税される。所得税率は自治体によって異なるが30%だと仮定しよう(ごく平均的)。先述の通り、失業保険手当の上限は14,960クローナであるため、税引き後の手取りは10,472クローナ(157,000円)となる。だから、失業保険手当の支払い最大額が、生活保護給付よりも低くなってしまったのである。


生活保護給付の目的は、セーフティーネットを提供することである。つまり、まず勤労による自活を試み、それが難しいなら各種の社会保険制度、例えば、育児休暇保険や失業保険、疾病保険などの受給を試みて、それでも経済的に困窮してしまった人が、最後の頼みの綱として利用する制度である。したがって、生活保護制度の活用は、勤労による自活に遅かれ早かれ復帰するまでの短期的なものであるべきだ。

だから、最後の頼みとなるべき生活保護よりも、失業保険手当が低いのは非常に大きな問題である。実際のところ、現在11.5万人いる生活保護受給者のうちの半分が、失業による経済的困窮を理由に受給している。彼らの大部分は、本来なら失業保険によって保護されるべきであろう。しかし、失業保険手当の上限が長い間、据置きされたために、その実質的な水準が低すぎ、そのためにそれだけでは生計を立てることができない人が増えているのであろう。

また、失業保険そのものの受給資格がない人も多くなってしまった。2006年秋に政権についた現在の中道保守連立政権は、失業保険の給付条件を厳格化した上に、社会保険料を財源に各失業保険組合に移転される補填額を大幅に削ってしまった。そのために各失業保険組合は保険料を引き上げざるを得なくなり、せっかく高い保険料を支払っても、いざ失業した時に受給資格が無かったり、受給額があまり多くないなら、割に合わないと考えて失業保険から脱退する人も増えてしまった。(その後、政権側は失敗を認めて補填額を増額し、各失業保険組合は保険料を引き下げることができたが、それでも2011年11月の時点で加入率は70.2%までしか回復しておらず、政権が交代した2006年秋の82.8%という水準と比べるとまだ低い)

失業者のうち失業保険から手当を受給している人の割合
を見てみると、2006年の初めは70%だったが、2011年11月にはなんと36%にまで減少している。

失業保険の目的は、失業にともなって生活条件が大きく変化することを防ぎ、新しい仕事を見つけるまでの期間の生活保障を行うことである。だから、手当の水準は基本的に失業するまでの給与水準に比例(8割)させることが基本原則である。しかし、現在はその原則がほとんど成り立っていないのである。


だから、各党は選挙キャンペーンの中で、失業保険の給付上限を引き上げることで、なるべく多くの失業者がそれまでの給与に比例した(8割の)給付を得られるようにすべきだと主張している。上限の引き上げ幅は各党によって異なるし、失業期間とともに給付水準をどのように引き下げていくかも異なる。また、そのために掛かる国庫負担額と、それをどのように捻出するのか(増税、もしくは、他の政策分野の支出カット)をきちんと示し、それがテレビの選挙番組などでしっかりと議論されている。

唯一の例外は、現在の中道保守連立政権の中核をなす穏健党(保守党)である。彼らはこの期に及んでも「失業保険手当の上限を引き上げる必要はない」と主張している。そもそも、2006年秋に政権を獲得した時の選挙スローガンが「働くことが割に合う社会」「社会保険の給付漬けを減らすべき」というものであり、そのために社会保険の手当の給付条件を厳しくしたり、手当の水準と勤労所得の手取りとに差をつけるような制度改革を行ってきた。だから、今でもこの党にとっては、失業保険手当の上限引き上げに対する優先順位は低いのである。

しかし、現政権の政策のために、失業保険が本来の機能がうまく発揮しなくなり、生活保護の受給者が増えてしまったのは非常に皮肉なことである。

中道保守政権の労働市場政策

2014-08-26 16:02:34 | 2014年選挙
盛んに続いている選挙キャンペーンについて、記事を書きたいのだけれど、残念ながらあまり時間がありません。

各党間の大きな論争の一つは、雇用政策・労働市場政策です。これについては、社会保障・人口問題研究所の発行する『海外社会保障研究』に「1990年代以降の労働市場政策の変化と現在の課題」という記事を書きました。1990年代以降の傾向を踏まえながら、2006年秋に政権の座に就いた中道保守連立政権の政策についてまとめました。2012年春に発行された号です。

1か月後に迫った国政・地方同時選挙

2014-08-14 13:24:16 | 2014年選挙
国政・地方同時選挙がちょうど1か月後に迫っている。

私は欧州議会選挙の時と同様、今回の選挙でも投票立会人をするので、数日前に講習を受けてきた。担当することになる投票区は5月の欧州議会選挙と同じ所。しかも、一緒に作業する他の立会人も5月の時とほぼ同じなので楽しくなりそうだ。

講習では、5月の選挙で生じた問題点や改善点が議論された。ウプサラ市のある投票所では、市の選挙委員会の許可なく、投票立会人が勝手にランチ休憩のために投票所を1時間閉めてしまい、大きな苦情が出たそうだ。だから「そういうことをしないように」との注意があった。(いや、普通はしない!笑)

私が投票立会人をする自治体は、スウェーデンの中でも投票率が高い地域だ。前回2010年の国政・地方同時選挙では、国全体の投票率が84.6%だったのに対し、この自治体は89%だった。その前、2006年の選挙では88%だったというから、この調子で行けば今回の選挙では90%に達してもおかしくないだろう。

ともあれ、この選挙では、国会、県議会、市議会の3つの選挙が同時に行われるため、投票立会人の作業も大変だ。それぞれの票を該当する選挙箱に間違えないように入れ分けなければならない。さらに、すべての有権者が3つの投票権を持っているとは限らない。私のように県議会・市議会の投票権のみを持つ人もいるし、逆に国会の投票権しか持たない人もいる。だから、投票権のない人が間違えて票を投じないようにきちんとチェックしなければならない。

欧州議会選挙は、1つの選挙しかなく、しかも投票率はずっと低かったので楽だった。今回の選挙のとてもよい予行練習だった。




【過去の記事】
2014-06-10:欧州議会選挙 - 投票立会人として働く (その1)
2014-06-24:欧州議会選挙 - 投票立会人として働く (その2)

自信を少しは取り戻したラインフェルト首相

2014-07-10 23:11:25 | 2014年選挙
先週、ゴットランド島で開かれた政治ウィークは、興味深いセミナーがたくさんあり、私にとっても非常に良い勉強になった。受け取った情報が多すぎて、それを消化するのに時間が掛かりそうですが。

木曜日、7月3日の夜7時から始まったラインフェルト首相の演説がちょっとだけ印象的だった。

ただ、その話の前に、時をさかのぼること1ヶ月。夏至の頃から始まる長い夏休みが間近にせまる中、公共テレビSVT6月上旬の日曜日夜ラインフェルト首相をスタジオに招き、様々な政策課題にどう取り組むつもりなのか、そして、9月中旬の国政・地方同時選挙に向けてどのようにキャンペーンを展開していくのかを問いただした。

しかし、その時の彼は、あたかも悪いことをした児童担任の先生に呼び出されて叱られ、色々な言い訳をしているような姿で、自信なさそうに、うつむきながらボソボソと小声で喋るだけだったので、見ている私まで何だか哀れな気持ちにさせられてしまった。


浅い答えでは納得せず、厳しく問いただすアナウンサー


今にも泣き出しそう・・・。泣かないで♡

世論調査では、昨年の後半から現政権である中道右派連立の劣勢が続き、左派ブロックとの差がどんどん開きつつあったので、「この人はもう諦めたのか」とも思えてしまった。

しかし、ゴットランド島の政治ウィークでの彼の演説は、それに比べたら随分と自信を取り戻した様子で、自分たちの政策の成果を誇り、返す刀で左派ブロックの批判をしていたから、支持していない私でも少し安心させられた(笑)。きっと、政策秘書か選挙キャンペーンの実行委員長か誰かが、「もっと自信を持った様子をアピールしろよ」とアドバイスしたに違いない。いや、あの哀れな姿をテレビで見た人なら、誰でもそう言いたくだろう。


途中で、フェミニストグループFEMENの4人の活動家がトップレスでラインフェルト首相の演説を妨害しようとしたが、間もなく警察に取り押さえられ、舞台裏へと連れて行かれた。その時、彼がとっさに「表現の自由も人によって色々なやり方があるのですね」とコメント。観衆の笑いを誘うのがうまかった。


(FEMENの目的は、フェミニスト的な主張ではなく、ゴットランド島で進められている石灰岩の採掘をストップさせたい環境運動だった)

政権交代がほぼ確実となった今、社会民主党にとっての敵とは・・・?

2014-07-01 00:29:31 | 2014年選挙
毎年この時期恒例の「政治ウィーク (Almedalsveckan)」が日曜日からゴットランド島でスタートした。政党、労働組合、業界団体、自治体、行政機関、各種NPOなどが一堂に集結し、セミナーを開いたり、政策討論を行ったりする。今年は3000を超えるイベントがこの一週間の間に企画されており(しかもその大部分は日曜日から木曜日までの間)、ゴットランド島はとてつもない活気だ。

(この政治ウィークについては、私の過去の記事を御覧ください。)
2008-07-14: ゴットランド島の「政治ウィーク」


初日の日曜日に、最新の世論調査が発表された。


社会民主党・左党・環境党からなる左派ブロックが、現在の連立与党右派ブロック(極右のスウェーデン民主党は含まない)を相変わらず上回っており、9月半ばの国政選挙では左派ブロックが勝つと見てほぼ間違いないだろう。今回の世論調査では左派ブロックの合計が49.8%と、過半数を若干下回ったが、一方でフェミニスト党が急激な勢いで支持を伸ばしている。彼らは右派政党と組むことは考えられないから、左派ブロックに加えるとすると53.5%となる。この党は今回は議席獲得に最低限必要な4%を下回っているが、ちょうど1ヶ月前の欧州議会選挙の時のように激しいラストスパートを掛けるであろうから、議席獲得の可能性は非常に高い。

他方、右派ブロックのキリスト教民主党4%を下回る可能性が高く、そうなると彼らの得票率は議席配分からすっぽり抜け落ちることになる。そうなると、左派ブロックが議席配分においてさらに有利になる。

だから、9月の国政選挙では社会民主党とおそらく環境党の連立政権が誕生し、左党フェミニスト党が閣外協力という形で政権を支えることになるだろう。首相になるのは現在、社会民主党の党首であるStefan Löfven(ステファン・ロヴェーン)、そして、財務大臣になるのは国税庁の上級職員という経歴を持つMagdalena Andersson(マグダレーナ・アンダーション)だ。

(注:Löfvenを「ロフヴェーン」とする訳をどこかで見かけたが、これはおかしい)


Stefan Löfven(ステファン・ロヴェーン)と Magdalena Andersson(マグダレーナ・アンダーション)


※ ※ ※ ※ ※


左派ブロックの第一党である社会民主党にとって、敵はもはや右派ブロックでも、その中核をなす穏健党でもない。もちろん、9月の選挙までの間、左派ブロックの優勢を維持しなければならないのは当然であるが、今の社会民主党にとっての最大の敵は、他の左派政党と言っても過言ではない。

5月25日の欧州議会選挙では、他のヨーロッパ諸国とは異なり「左の風」がスウェーデンに吹いたわけだが、その風は社会民主党を迂回して、環境党やフェミニスト党に向かい、彼らに対する支持率を大きく押し上げた。

(過去の記事)
2014-05-28: 欧州議会選挙の結果

環境党やフェミニスト党に対する追い風はその後も続いている。フェミニスト党の支持率の推移を見ると、急激な伸びがよく分かる。昨年11月の時点ではわずか0.3%だった支持率が、たった数ヶ月のうちに2.3%にまで伸びている。グラフは今年4月で終わっているが、その翌月の5月の世論調査では3.9%に達したあと、今回6月の調査では3.7%だった。



ただし、これらの党が支持を奪っているのは右派政党からではなく、主に社会民主党からだ。

下の図を見れば分かるように、左派ブロック(フェミニスト党も含む)全体としては50%以上を安定的に推移し、右派ブロックを完全に制してはいるが、社会民主党だけの支持率を見てみると、今年2月に35.1%を記録したあと、ずっと減少している。



社会民主党は大きな政党であり、党内のイデオロギーの違いはかなり大きい。党内では社会民主党の左派と右派が常に力比べをしている。そのため、あまり思い切った政策を党として打ち出すと、党の中から反発が上がることも多く、党執行部はバランスをうまく取りながら党運営を行わざるを得ない。しかし、一部の支持者にとっては、それが非常にじれったくも感じられる。特に、男女平等の政策がまだまだ足りないと感じる人たちの中には、社会民主党を見限って、フェミニスト党に支持を変えている人も多い。(その結果、欧州議会選挙ではフェミニスト党が躍進した)。環境政策についても同じで、左派にシンパシーを感じる若い有権者が、社会民主党ではなく、環境党を支持する傾向が強い。

だから、今の社会民主党にとっての課題とは、いかにしてそういう人たちの支持を党に繋ぎ止めて、これ以上、支持率が低下しないようにすることであろう。しかし、どうやって支持を繋ぎ止めるのか・・・?

フェミニスト党や環境党と張り合って、社会民主党のほうが男女平等と環境政策のそれぞれで2つの党に勝っていると訴えることも一つの方法だろう。しかし、既に触れたように社会民主党は大所帯なので、あまり思い切った政策を打ち出すと、党内に不協和音が生まれるからそれは難しい。

むしろ、フェミニスト党や環境党のように特定の政策分野のみに焦点を置く「偏った」政党と比べて、社会民主党は幅広い政策分野を重視した責任ある党であることを訴えていく方法しか残されていないように思う。昨日も、ゴットランド島で開かれている「政治ウィーク」の一つのイベントで、社会民主党の党首が公開インタビューを受けていた。その中である有権者が「自分は男女平等が非常に重要な政策課題だと思っているけど、フェミニスト党という政党が存在する今、わざわざ社会民主党を支持して票を投じる理由なんてあるの?」と社会民主党党首に迫っていた。彼はまさに「自分たちの党は、様々な政策分野においてバランスの取れた、現実的な政策を実行しようとする、責任感のある政党だ」と答えていた。

果たして、より大きな変化を望む支持者を、そのような方法によって社会民主党に引き留めることができるのか? 私は非常に難しいと思う。おそらく、左派ブロック全体では選挙に勝つだろうが、左派ブロックの中では票が割れ、それでも第一党になるであろう社会民主党はきわどい政権運営を余儀なくされることになるだろう。