スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

ヨーテボリ市議会 - 子連れ議員・若手議員

2008-03-03 09:17:03 | スウェーデン・その他の政治
ヨーテボリ市市議会を見学したが、市議会において多数を構成する社民党+環境党と、それ以外の党との論戦がなかなか面白かった。

議会で論議したいテーマについてはあらかじめ提出されている。まず、その提出者(多くの場合、野党側)がその主張を述べた後は、どの議員でも議論に参加できる。発言したい者は机上のボタンを押す。早い者勝ち。ボタンを押した順番に議場前の大きなスクリーンに議員の名前と所属政党が表示される。一人ひとりの発言は3分以内でなければならないが、一つの議題を議論する制限時間は無いようだ。何人もが何度も発言するので、いつまでも続く。順番待ちの発言者があと3人、あと2人と減っていくと思ったら、急に議論が白熱しはじめ、5人くらいが一斉にボタンを押して、順番待ちが再び膨れ上がることもある。興味ないテーマのときは聞いている側はかなりシンドイ。

前回の記事から分かるように、女性議員の割合も多いし、20代や30代の議員も多い乳児を議場に連れてきて、論議に参加している30代の女性も見かけた(社民党のAnna Johansson議員。前回の記事参照)。


子連れの議員

子供がたまに泣き出すと議場にそっと出て行く。他の議員も議場へ盛んに出入りしているので、見ている側は特に気にならない(市議会は17:15スタートなので、ちょうど夕食時でお腹がすく。一方で議会のほうは休憩なし。なので、各自適当に時間を見つけて議会食堂で何か食べているのだと思う)。この彼女は自分の発言の番になると席に戻ってくる。発言の時は最初は子供を抱えながらだったが、そのうち主張に力がこもってくると、子供を隣の席の男性議員に預けて、発言を続けていた。その間、男性議員が「ヨシヨシ」と子供をあやしている光景が、とても和やかで他の議員にも傍聴席の市民にもほのぼのとした笑いを与えた。

子供をあやす男性議員。発言中の女性議員が隣にいるが、ランプの影になっている


一番白熱した論戦は、25歳のAxel Darvik(自由党:野党)が、市執行部議長(市長)である63歳のGöran Johansson(社民党:与党)に食いかかって、善戦していたときのこと。議題は「未成年の暴力事件」について。件数の増加を懸念し、「市としてもっと予防措置をすべきだ」と主張するAxel Darvikに対して、「市もできることはしている。それに統計によれば増加はしていない」と防戦する市長のGöran Johansson。


Axel Darvik(25歳) 対 Göran Johansson(63歳)

その日は、2007年のヨーテボリ市統計年鑑が全議員と傍聴者に配布されていたので、市長はそれを片手に反論する。それに対し「この統計は物事のある一面しか捉えていない。それに増えたか増えてないかが問題ではなく、そのレベルが問題なのだ」と盛んに突っ込みを入れる。

最初のうちは、Axel Darvik(若いほう)も「市執行部議長であるGöran Johanssonに見解を求めたい」と姓名で呼んでいたのだが、そのうち「Göran(ヨーラン)、その意見には俺は賛成できないぞ」と下の名前で呼びだす(いくら年の差はあれ、このこと自体はスウェーデンでは別に珍しいことではない)。それに対し、Göran Johansson(年配のほう)も「Axel(アクセル)よ! お前は現実ももっとよく見なきゃならん!」と、まるで祖父が孫をたしなめようとするような口調で反論していた。議論の内容から判断すれば、この論戦では若いAxelに軍配を上げたい、と私は思った。


反論する市執行部議長(市長)Göran Johansson

ちなみに、このAxel Darvik(アクセル・ダルヴィーク)。2006年9月の選挙でヨーテボリ市の市会議員となったときは24歳で、地元の工科大学の大学生だったのだが、実はその前には、国会議員をしていたのだ。

小さいときから政治や社会問題に関心があり、活発に活動していた彼は、2002年の総選挙で自由党の立候補者名簿に名を連ね、20歳にして自由党の国会議員に選出される(この選挙では自由党が大躍進を遂げたため)。その後、任期の4年間に、学生や若者に関する問題を国会や委員会で積極的に取り上げ、若いなりに活躍したのだった。

議員職はあくまでも社会奉仕(2006-07-05)


国会にしろ、地方議会にしろ、幅広い年齢層の議員がそれぞれの立場から、政治に参加をしている。たとえ若かろうが、一人前に扱ってもらえ、自分で経験を積んでいける。(ナントカ・チルドレンなんて呼ばれる必要もない)

早いうちから訓練を重ねて、若くして成熟した政治家がちゃんと生まれ、これが政治や社会的議論に活力を生み出している要素の一つではないかと思う。

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6 コメント

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GOT市議会 (H.Usui)
2008-03-03 19:19:09
実況中継みたいで堪能しました。写真が撮れるんですね。日本では駄目じゃないかな。
赤ちゃんを連れてきていたり、飯食いに中座したり(これは日本でもやっているかな)かなり自由ですね。98年STOstadhusetに行った時ガイドが市議会場に案内してくれた時、夜開かれていて普通の人が市議だと聞かされて感銘を受けました。
日本ではミニ国会議員の真似をしているだけで
市の役人に丸め込まれているので大切なissueに限って何も言いません。ただひたすら再選のためになることしか興味を持ちません。
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Unknown (Cindra)
2008-03-04 03:26:10
はじめまして。
いつも興味深く読ませていただいています。
日本にいるときは政治には全くと言っていい程興味がなく、選挙に行ったのもたった1回。そんな私もスウェーデンに引っ越してきてから、政治に対する意識がずいぶん変わりました。政治というものが政治家だけのものではなくて、一般人のものという感覚からなのでしょうか?何が日本と違うのでしょうね。

日本と比べて色々不便なことも多いスウェーデンですが、こういう記事を読むと「やっぱりこの国はいいな」としみじみと思うのでした。

これからも楽しく拝読させていただきます。
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Unknown (Ma)
2008-03-12 19:59:00
やっと読みました。
あ~面白かった!
たしか、地方議会によっては、そして国会にも以前は保育室があったと思うのですが・・・まだあるのかなあと思いました。今度、聞いてみますね。
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Unknown (Yoshi)
2008-03-13 03:48:44
みなさん、コメントありがとうございます。

民主主義の本来の形のように僕は思いますし、これがあるから斬新的で先進的な政策が取れるのかとも思います。私の中での大きなテーマになりつつあります。
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市議会 (水野 恵子)
2008-04-05 15:22:41
本当に実況中継のようで市議会の様子がよーくわかりました。佐藤さんのHPは本当に参考になります。日本なら議会に赤ちゃんを連れて行ったら、保守系(圧倒的多数を占めている)から神聖な議場に子連れなんてと懲罰動議にでもなることでしょう。それでいて、反対党の議員の質問のときは席にいなかったり、いても後ろの議員としゃべったりやりたい放題です。これで1000万以上もらっているんですから、その上、議会があるときは別に手当てをもらっている・・・成熟した民主主義の国とそうでない国との差が歴然としていますね。
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Unknown (Yoshi)
2008-04-06 23:23:04
いえ、とんでもない。恐縮いたします。

日本の民主政治をより成熟したものにしていくためのヒントは、スウェーデンの制度からたくさん得られると思います。
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