スウェーデンの今
スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員
 



前々回の記事で、国政選挙で当選しスウェーデン議会の議員となった人の年齢分布について紹介したときに、一番若い議員は22歳だと書いた。

しかし、保守党(穏健党)から立候補して当選した女性議員ストックホルム市議会の議員にもダブルで当選しており、彼女はフルタイムで市政に関わるために、スウェーデン議会の議席は辞退することになった。国会と市議会、もしくは県議会にダブルで当選することは珍しいことではなく、両方のポストに同時に就く議員も何人かいるものの、彼女の場合はフルタイムで市政に関わるために、国政への関与は断念することに決めたようだ。

(ちなみに彼女は、前回のアメリカ大統領選挙の際に、スウェーデンの新聞のインタビューの中で「共和党のマケイン候補を支持している」と発言していたのを覚えている。アメリカに比べると政治全体が左寄りに位置しているスウェーデンでは、保守政党の政治家を含めて大部分の政治家がオバマを支持していたため、たまに「マケインを支持している」と言う声があるとむしろ新鮮に聞こえるものなのだ。)

比例代表制を採用しているスウェーデンでは、ある議員が辞退した場合、比例代表名簿の次に名前がある人が繰り上げ当選することになる(これは、任期の途中で病気や出産・育児、その他の理由により議員職を休んだり辞めたりするときにもいえる。だから、補欠選挙というものはない)。

その結果、彼女の代わりにスウェーデン議会の議員をすることになったのは、18歳アントン・アベレという男の子だ。選挙権・被選挙権ともに18歳以上であるため、最年少の議員となるわけだが、彼の名前を耳にしたことがあるスウェーデン人は多いはずだ。

その理由は2007年10月に起きたある出来事だ。ある夜、ストックホルムの中心街の路上において、パーティーに参加していた16歳の少年が同年代の少年数人に暴行を受け、死亡するという事件が起きた。この事件はメディアでも大きく取り上げられ、少年による暴行や犯罪をどうやったら減らせるか、という社会的な議論が巻き起こっていった。当時15歳でストックホルムに住んでいたアントン・アベレは、犠牲者と同年代である自分たちも何か行動を起こさなければ、と考えて、ネット上のFacebook「私たちを路上での暴力から守ろう!」というグループを立ち上げた。このグループは大きな反響を呼び、一週間も経たないうちに若者から大人まで10万人もの人がグループに参加することになった。


そして、ネット上での活動だけでなく、実際にデモ集会を行って、暴力は許さない、という固い意志を賛同者とともに社会に示すべきだ、と考えた彼は、事件から1週間ほどが経った週末に、ストックホルムの中心にあるクングストレッドゴーデンという公園にみんなで集まろうと、Facebookのグループのメンバーに呼びかけた。すると、当日は1万人を超える人々がこの公園に集まってデモ集会に参加した。そして、呼びかけ人である15歳の彼は「暴力は許さない」と演説を行ったのだった。この集会がきっかけとなり、この後、スウェーデンの様々なNPOや団体、行政機関、警察が若者による暴力を未然に防ぐためのキャンペーンを展開していくことになった。彼自身も「路上暴力を止めよう」というNPOを設立して、3年間にわたって活動してきた。


演説し、暴力反対を訴えるアントン

今年の秋からストックホルム商科大学に通い始めた彼は、繰り上げ当選が決まった先日、メディアによるインタビューの中で「誰もが夜でも安心して路上を歩けるようにするためには、警官を増やしたり、刑罰を厳しくしたりすることが一つの解決策になると思う」と答えていた。また、ネット上での他人の侮辱やイジメ、誹謗・中傷といった問題にも取り組んで行きたいと言っている。「簡単な解決策はないが、みんなで議論して見つけて行きたい。ネット上で非常に深刻な侮辱が行われているのに、それをやっている本人は『言論の自由』を盾にして、自分を正当化しようとすることが多い。しかし、そもそも『言論の自由』が守ろうとしているのは、そんな恥ずかしい行為ではない」


今年の国政選挙のために彼が立ち上げたキャンペーン・サイト

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2007年10月のデモ集会で演説し、テレビに大きく取り上げられた当時15歳の彼は、非常に幼く見えたが、今でもそんな外見はあまり変わっていない。こうやって若い人が政治に関わることは、同世代の若者に関心を持たせるためにも、そして、社会をよりよいものにしていくためにも、非常に重要なことだと思う。


コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
Unknown (akiya)
2010-10-20 16:10:30
すごく久しぶりの投稿です。

18歳で議員になるなんて日本ではまずありえないでしょうね。自分が18歳の時全く政治に関心が持てなかったですし、周りにもいなかったし・・・。
学校で政治経済の授業はありましたけど、ただ社会の仕組みを覚えただけで、実生活に関わらせることもなくおわりました。
きっと友達にこういう人がいたら、影響されるだろうし、学校の授業でももっと政治が身近に感じれる授業をして、友達との会話の中にそういう話題が出てくるような環境ができれば、日本も、お年寄りががんばらなきゃいけないこともなく、ガチガチに固まった古い体制を変えれるのかなぁとおもいました。


ところで、2週間ほど前に夏休みを利用して、スウェーデン旅行をしました。
ヨーテボリには3日に行きましたが、街並みが石畳とか古い建物とかとっても素敵で、緑もたくさんあって、いい街ですね!
あんまり調べて行かなかったので、Yoshiさんにおすすめの場所でも聞いとけばよかったなーと思いました。Lisebergのルーレットででっかいクッキーは当たりましたが、重くて持って帰るの大変でした(笑)
同じ飛行機の人に配りつつ帰りましたけど。なかなかへらない・・・。
 
 
 
Unknown ()
2010-10-21 18:36:15
お忙しい中、たくさんの興味深い記事、国会の動きの記事からこちらまで、興味深く読ませていただきました。ありがとうございます。「暴力はいけない」「自分たちの町を良くしよう」といういわばごく当たり前のことすら、若い世代が社会で主張することとすら抑圧しているような、そして教育の場において他者と対話する機会がまだまだ恵まれない日本の社会との違い等を感じました。また、日本の社会に共有されている価値観って何なのだろう?(民主主義は果たしてどうだろう)とも考えさせられます。新政権(といっていいのでしょうかね)の動きについての記事など、今後もアップされるのを楽しみにしております。
 
 
 
Unknown (Yoshi)
2010-10-22 08:29:25
コメントありがとうございます。

>学校で政治経済の授業はありましたけど、ただ社会の仕組みを覚えただけで、実生活に関わらせることもなくおわりました。

>教育の場において他者と対話する機会がまだまだ恵まれない

本当に、その通りだと思います。制度と用語の暗記だけで、役に立つ実践的な知識は身に付かなかったように思います。一方で、実際の政治を教材に使って政治経済・公民の授業で議論を行わせようとすると、「政治的に偏っている」と条件反射的に外部から非難が来るという話も聞いたことがあります。知識というのは、クイズのためにあるのではなく、実際の生活や社会に役に立ってこそ、意味をなすものだと思うのですが。

>ヨーテボリには3日に行きましたが、街並みが石畳とか古い建物とかとっても素敵で、緑もたくさんあって、いい街ですね!

ヨーテボリは生活する者としては非常に暮らしやすい町ですが、観光しようとすると何がお勧めできるのか、なかなか思いつきませんね。私は海が好きなので、船とか島がいいと思います。

>Lisebergのルーレットででっかいクッキーは当たりましたが、重くて持って帰るの大変でした(笑)

あれはかなり大きい!
 
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