いよいよ終盤戦に入った関東大学ラグビーの春季大会。秋のシーズンのように優勝争い、大学選手権出場がかかった5位以内確保、そして入替戦回避といった段階を追った緊迫感こそないものの、各チームにとっては貴重な公式戦であることは変わりない。とくに同じリーグGに所属するチーム同士の対戦となれば、どうしても意地と意地のぶつかり合いになる。やはり、完全な交流戦方式になっていた初年度の試合方式よりも現在の形の方が面白い。
当日の日曜日は好カードが目白押しでどの試合を観に行くか迷った。ただ、リーグ戦Gの1部に所属するチームの試合を1回は観ておくのが春の観戦ポリシーだから、必然的に観るのはその時に一番気になるチームの試合になる。ということで目的地は大東大グランドになった。気になるとは言っても、FWのメンバーが大幅に入れ替わった大東大は少し心配モード、昨シーズンからの積み重ねで着実なステップアップを目指す山梨学院の方は期待を込めてといった形で、ちょっと意味するところは違うのだが。
さて、2週連続でAグループの緊迫感が漲る試合を観てしまったので、一息ついてラグビーを観たいという気持ちになっていたことも確か。大東大はFWの1、2列の力が未知数だが、SHに小山が復帰したことでBKにボールが回ればランニングラグビーが満開になるはず。一方の山梨学院は、BKラインのCTBに期待の新戦力(留学生のタイオア・アビレイ)が加わったことで攻撃力がどのくらい上がったかが私的注目点になる。山梨学院は全般的には小柄な選手が多いことに変わりはないため、今シーズンも手堅く戦力アップを狙っていくことになるのだろうか。大東大グランド名物の崖にへばりついて全体を観る選択肢もあったが、今日もピッチサイドの座席から選手目線で観ることにした。
◆前半の戦い/拮抗した競り合いの予測は外れ、思わぬ大差がつく展開に
ファーストジャージは大東大がモスグリーン、山梨学院が濃いグリーンと「緑の対決」とことで、本日は大東大が白のセカンドを身に纏う。白だと散々だった大東大はすっかり過去のものとなったようだ。キックオフはその大東大。自陣でボールを確保した山梨学院はFWで2ユニット+BKの3ポッドのような形で攻める。昨シーズンも山梨学院はFWを2ユニットに分けて攻めるスタイルだったが、去年のようなかつての帝京スタイルをアレンジした方式(ジグザグ走行で最後はハイパントで終わる)に比べるとテンポアップが図られ、着実な進化が認められる。スピードに乗った連続アタックからボールを持った期待のCTBアピレイがウラに抜けて大東大陣22m内に入り、FB白井へのパスがラストパスになるかと思われたがノックオンがあり惜しくも得点ならず。
4分、PKからの逆襲で今度は大東大が山梨学院ゴール前でのラインアウトのチャンスを掴むが、大東大もオープンに展開したところでノックオンがありチャンスを潰す。序盤戦はノックオン合戦のような形で双方とも得点を挙げられないまま時計が進む。ということで、スクラムからの再開となる場面が多いが、大東大がコラプシングを取られる場面も多く、この点は秋のシーズンでは不安材料となりそう。7分には山梨学院の右WTB土橋が負傷で退場する。その後の試合展開を考えると、身体は小さいがファイティングスピリットの塊のような選手が早々と不在になってしまったことの影響は大きかったと言わざるを得ない。
直後の8分、大東大は自陣奥深くのカウンターアタックでFBアピサイ拓海がボールを前に運び中央から左オープンに展開。左WTBサウマキがボールを受けたときは前にはディフェンダーが1人の状態だったが、タックラーをあっさりはね飛ばして左サイドを力強く駆け抜け、そのままゴールラインを越えた。難しい角度からのアピサイのGKも成功し、大東大が7点を先制する。この日7トライを挙げることになるサウマキの「トライショー」の鮮烈な幕開けだった。大学トップレベルの超強力なアタッカーにフリーの形でボールを持たせたら結果がどうなるかは明らかだが、ことごとくWTBで1対1になる状況を作ってしまったフロント3+FW(カバー)のディフェンスにも問題ありというべきだろう。
リスタートの山梨学院のキックオフは、低い弾道で浅い位置を狙ったアメフトで言うオンサイドキックのような形。相手のファンブル(ノックオン)を狙う意図があったのかも知れないが、見るからに丁寧さを欠いたキックでのノット10mはいただけない。その後も山梨学院にはもったいないというか、やってはならないキックオフでのミスが続いたことが惜しまれる。昨シーズンは一つ一つのプレーを丁寧にやっていた印象が強いだけに今年のチームの変調がまずは気になった。
大東大はセンタースクラムからSH小山が持ち出しで抜けて大きくゲインするものの山梨学院陣22mを越えたあたりでノックオン。続くスクラムでは大東大がコラプシングを犯し、山梨学院は大東大陣22m付近まで一気にエリアを挽回すると同時にピンチからの脱出にも成功する。ここから大東大は自陣22m内でゴールラインを背にして堪える時間帯となる。そして16分、山梨学院はようやくモールで大東大のゴールラインを越えることができた。ここも昨シーズンなら早い段階で固まって押し切るかトコキオが強さを発揮してすんなり決めたところ。とはいえGK成功で7-7と試合は振り出しに戻った。
同点に追い付いたところで山梨学院に落ち着きが出るかと思われたのも束の間、山梨学院は自陣で犯した反則から再びピンチを迎える。20分、大東大は山梨学院陣22m手前中央でのスクラムからオープン展開でボールを動かし、左サイドでパスを受け取ったサウマキが2本目のトライ。GKも成功して14-7と大東大がリードを7点に拡げる。ウォーターブレイクが入った直後の22分、大東大は山梨学院のキックオフに対するカウンターアタックから大外に振り、またしてもサウマキが左サイドを駆け抜けてノーホイッスルトライを記録する。GKは失敗するが19-7と大東大がリードは12点となる。続く山梨学院のキックオフではアーリーチャージの反則と、今日の山梨学院はちぐはぐだ。
とは言っても山梨学院にチャンスがこない訳ではない。五分とは行かなくてもそれに近い比率で22m内に攻め込むチャンスもある。なかなかゴールラインまで届かなかったのは、肝心なところでノックオンや(避けられたレベルの)反則を犯すことでチャンスを逃してしまったため。30分には大東大が自陣10m付近でのラインアウトを起点としてオープンに展開し、ショートサイドからライン参加したWTB戸室がラインブレイクに成功。戸室は山梨学院陣10m付近を越えたところで満を持して左サイドを併走していたサウマキにパス。サウマキが期待を裏切らなかったことは言うまでもなく、早くもこれがサウマキの4トライ目となる。大東大のWTBというと、どうしても11を付けた強くて速い選手がイメージされてしまうが、飛躍の年になった昨季に比べても14番の戸室の成長ぶりには目を見はらせるものがある。対戦チームは11番ばかりマークしていると確実に痛い目に遭うことになりそうだ。
波に乗る大東大の攻勢が続く。36分にはラインアウトを起点としたオープン展開から右サイドに位置した5番のタラウ・ファカタヴァがWTBのような走りを見せるが僅かにタッチを割ってゴールラインまで届かず。No.8長谷川に注目が集まりがちな大東大のFWだが、新戦力の5番も要注意と個々を見ると対戦相手にとって厄介な選手がどんどん増えていく。逆に38分には山梨学院の切り札であるNo.8のトコキオがウラに抜け出すもののフォローが遅れてノットリリースの惜しい場面も。しかし、前半の最後に魅せたのは大学No.1SHの呼び声が高い大東大の小山。カウンターアタックから一気に抜け出し約50mを走りきってゴール中央に飛び込む。GKも成功して前半は33-7の大東大26点リードで終了した。ここ一発で決められる選手が居るかどうかの差とも言えるが、山梨学院はとにかくミスが多かったことが悔やまれた。
◆後半の戦い/着実に加点した大東大に対し、最後までチグハグだった山梨学院
今シーズンも組織的な組立で戦うことを意図する山梨学院に対し、個々の攻撃力の高さで勝負する大東大と両チームの持ち味が出た前半。と書きたいところだが、大東大は山梨学院のミスに助けられた面も大きかった。役者が揃っていることもあり、前掛かりになって攻め込んだときの大東大の破壊力は東海大をも上回ると言えそう。感心するのは、ハプニング的な感じでウラに抜けた選手がいても孤立せず、必ずフォロワーが付いていてラストパスを受け取る約束?になっていること。やはり、大東大の選手達には「ボールを持っらとにかくゴールを目指す」という伝統がしっかりと受け継がれているようだ。
さて、山梨学院もこのままずるずると失点するわけには行かない。しかし、開始早々のキックオフでまたも痛いミスが出てしまう。今度は大東大陣深くに蹴り込み、ゴール前でタッチを割れば好キックだし、チェイスした選手が相手を捕まえてターンオーバーに成功すれば高い確率でトライまで持って行ける。だが、ボールは無情にも転がりがよすぎてデッドボールラインを越えてしまった。ここは相手ボールでセンタースクラムの仕切り直しとなるが、得てしてキックオフでのイージーなミスは失点に繋がる。大東大はセンタースクラムから左右にワイドにボールを展開し、最後はサウマキが5トライ目を決める。GK成功で40-7と大東大のリードは33点に拡がった。
ただ、大東大もピリッとせず、やや集中を欠いた場面も散見された。直後のキックオフに対する蹴り返しから山梨学院のアビレイにカウンターアタックを許し、ラストパスを受け取ったWTB曾根が一矢報いる。このノーホイッスルトライで山梨学院が息を吹き返すかと思われたが、大東大のWTB戸室の小刻みなステップワークによるビッグゲインを許したことで再びピンチとなる。山梨学院の反則に対し、大東大はタップキックから山梨学院陣奥深くに攻め込みノックオンを誘う。
ゴール前でのスクラムからオープンに展開したところで山梨学院にホールディングの反則があり、大東大はゴール前からのラインアウトを選択。FWがモールを作って押し込んだ後、サイドを破ったサウマキが6つめのトライを決める。昨シーズンのサウマキはラック周辺でファイトする姿が目立ったが、今日のように「しっかり決める人」に徹した方が相手にとっては「イヤな人」になれることがよく分かる。さて、GKを蹴ろうとしたアピサイだったが、蹴る前にプレースしたボールが倒れてしまう。このままなら(決められた)時間がなくなると判断しドロップキックで蹴ったら見事成功。このキック力を見てしまうとケガで休んでいる大道も安閑とはしては居られないはず。
その後はしばらくの間ゲームは膠着状態となるが、山梨学院に雑なプレーが散見される。これではゴールは近づいてくれない。20分には大東大ゴールライン目前まで攻め込みながらノックオンでチャンスを潰し、直後のスクラムで小山にサイドを突破されてHWLまで陣地を挽回されてしまう。そして24分、大東大はゴール前ラインアウトからFWで攻めてタラウがトライ。GKをも成功し52-12と点差は40点まで拡がった。ここでGKを蹴ったのはアピサイではなくサウマキ。大きな身体に似合わずなかなか起用な選手で、予備のキッカーとしても十分に通用しそうだ。
さて、問題は山梨学院のリスタートのキックオフで、今度は10mラインに届かない。これでは反撃ムードも萎んでしまう。そして、センタースクラムからまたしても小山に持ち出しを許してしまい、誰もタックルに入れないままラストパスが小山からCTB山岸に渡る。小山は身のこなしが軽やかなので迂闊に飛び込めないことはわかる。しかしサウマキといい同じ選手に何度もやられていていいものだろうか。それはさておき、小山は1年生の時はまだ細身だったが、間近で見るとすっかり逞しくなっていることに気づく。また、何よりも素晴らしいのは、プレッシャーがかかった状況でも自然体で確実にボールを捌いていること。昨シーズンはFWとの呼吸が合っていないことも多かったが、今シーズンは意図したところに選手が居る状態になってきている。
山梨学院は29分に1トライを返すが、リスタート後のラインアウトからオープンに展開した時のパパスミスを拾われてサウマキにこの日7トライ目を献上。最後まで先発の15人で通す大東大は35分にキャプテンのPR本間主将もトライを挙げる。この場面で場内が一番盛り上がったことからも主将への信頼感の高さが感じられた。山梨学院は終了間際の41分にSO鈴木が1トライ返す。GKが成功して26-67となったところでノーサイドとなった。終わってみれば大東大の圧勝だが、イージーミス多発だった山梨学院の自滅とも言える内容の試合。昨シーズンは手堅く慎重だったチームなのにどうしてこうなった?という想いを禁じ得ない。
◆期待が高まった大東大/2強にどこまで迫れるか
山梨学院のミスにかなり助けられた部分があったとは言え、大東大の攻撃力は侮り難いことを強く印象づけた試合だった。サウマキ、小山、長谷川に成長著しい戸室と相変わらず鋭いタックルを連発していた川向、新人では正確なプレースキックと落ち着いたプレーぶりが光ったアピサイ拓海、パワフルでランも魅力的なタラウ・ファカタヴァらが目に留まった。ここに大道やラトゥJrが復帰したらとんでもないBKラインができあがる。大東大に宿る悪い方のDNAは強い選手に頼ってしまうことだが、こんな解決策があったのかと思えるくらいに頼れる選手がどんどん出てくる状況だから心配はなさそう。「2強」にどこまで迫れるかは今日の結果からは分からないが、FWを中心としてじっくり強化に取り組んでほしい。
◆不安がいっぱいの山梨学院
昨シーズン、もっとも印象に残る戦いぶりを見せてくれたチームは山梨学院だった。だから、今シーズンのステップアップがどんな形になるのかに期待して試合を観ていたわけだが、残念な結果に終わったという印象が強い。基本的には小柄な選手達での戦いを強いられていることに変わりはないだけに、昨シーズンに築き上げた部分にどのような形で新たな要素を積み上げていくかが上に行くためのポイントになる。しかしながら、この日の戦いぶりを観た限りは、昨シーズンのよかった部分も継承されていないように感じられた。日大、立正大、関東学院が鎬を削る厳しい戦いとなることが予想される2部リーグのことを思えば安閑とはしていられないはずだが、試合後のミーティングの様子(白い歯を見せていた選手が何人か居た)からも切迫感は伝わってこなかったことがとても気になる。
ラグビー「観戦力」が高まる | |
斉藤健仁 | |
東邦出版 |