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映画「ナポレオン」 ホアキンフェニックス&ヴァネッサカービー&リドリースコット

2023-12-03 20:07:10 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「ナポレオン」を映画館で観てきました。


映画「ナポレオン」はリドリースコット監督がホアキン・フェニックス主演でナポレオンの生涯を描いた新作だ。予告編からスケールの大きい映画だと想像できる。戴冠式のシーンもあるようだ。初めてパリのルーブル美術館に行った時、ダヴィッドが描くナポレオンの戴冠式の絵がもつ迫力に圧倒された。幅が約10mと巨大で、名作の多いルーブルで最も感動した。ずっと目の前にいて唸っていた。


高校の授業でナポレオンのことを習った記憶がない。大学受験で世界史を選択していたので、フランス革命からウィーン会議にかけての出来事はこまかく暗記した。なじみのある名称の事件や戦争が続くが、映像で観るのは初めてかもしれない。ホアキン・フェニックスとの相性はいい。期待して映画館に向かう。

映画はマリー・アントワネットギロチン処刑からスタートする。ナポレオンも処刑場にいたことになっている。軍に入隊して、トゥーロンで英国軍を撃退して戦功をあげた後、ジョセフィーヌとの出会いや国内の内乱に絡むナポレオンを映す。エジプト遠征へ向かった後、国内のトップに上り詰めた時の戴冠式、ロシア、オーストリアとのアウステルリッツの戦いなど歴史をつないでいく。運命のロシア遠征のあと、エルバ島の島流しから復活して、いわゆる百日天下でのワーテルローの戦いとセントヘレナへの島流しまで約2時間半で映し出す。


86歳のリドリースコット監督によるスケールの大きい見事な作品だ。
戴冠式は別として、世界史でただ暗記していただけの事件が実際に映像になっていて、すんなり頭に入っていく。ともかく、戦闘場面の迫力がすごい。これも一部VFXとか使っているとは思うが、実際に颯爽と馬が走り、ぶつかり合う。圧倒される。音楽も実に的確に感情を揺さぶる。これもすばらしい。あとは、ジョセフィーヌへの愛情については、自分は知らなかったので興味深く見れた。

⒈人間味あふれるナポレオンとジョセフィーヌ
ナポレオンが戦功をあげて上流社会を垣間見るようになった時、ジョセフィーヌを見染める。愛人で子供もいたジョセフィーヌに一気に引き寄せられる。そこで見せるナポレオンは、自分の知らないキャラクターをもつ人間ナポレオンだ。ホアキン・フェニックスが巧みに演じる。単純にナポレオンの喜怒哀楽を示す。頑張って?も、ジョセフィーヌとの間にお世継ぎが生まれない。ナポレオンはずっとヤキモキする。バックでいたす場面とかもでてくる。この焦りが前面に現れる。

この映画は比較的セリフが少ない。だからといって、観客にむずかしい解釈能力を必要とさせる映画でもない。革命以降の基本的フランス史がわかれば、映像で理解できる。ジョセフィーヌ役のヴァネッサカービーは適役だと思う。男女の駆け引きを知る恋多き女のイメージにピッタリだ。「ミッションインポッシブル」をはじめとして、いくつかの映画で観たイメージと今回は通じる。


⒉戦闘場面の迫力
ナポレオンが名をあげるトゥーロン要塞の英国軍撃破から軍事の天才ぶりを示す。作戦のアイディアが次から次へとうまくいく。何から何までうまくいく場面を見せるのは痛快だ。

そして、アウステルリッツの戦いだ。雪の中、戦場を映す。静かな雪景色はきれいだ。相手のオーストリア兵の動きを見て的確に指示を出すナポレオン。雪に向かって撃った大砲は雪の下の湖(川?)を露わにする。凍った水面に落ちる兵士たち。そのそばを大量の馬も走っている。こんな面倒な水中シーンよく撮ったな。兵士役の俳優たち大丈夫だったかなと気になるくらいだ。


⒊侮ったナポレオンとロシア遠征
ナポレオンは常にロシアを意識している。アレクサンドル1世の動静を気にしているのが映画でもわかる。トルストイの「戦争と平和」はまさにこの時代を描いた大作だ。

1812年のロシア遠征で失敗して、ナポレオンが勢いを弱めるのはあまりにも有名だ。モスクワからの退却で冬将軍には敵わなかった。映画でも物資補給がうまくいっていない場面がでる。日本軍の末期も補給がなく、ドツボにはまるのは同じだ。


クラウゼヴィッツの戦争論でも、ナポレオンの戦いについての言及がある。
「1812年にナポレオンがモスクワに向かって進軍したとき、その戦役の主眼とするところは、アレクサンドル皇帝に和を乞わしめるにあった。。。たとえモスクワに到るまでにナポレオンの得た戦果がいかに輝かしいものであったにせよ、しかしこれに脅かされてアレクサンドル皇帝が講和に追い込まれたかは依然として確実でない。」(クラウゼヴィッツ戦争論上 篠田訳 1968p.229)

諸国に対するナポレオンの脅威が徐々に弱まり、直前の戦争の時と同じのようにあっさり講和してくれなかったということだ。これが思惑に反したのと同時に、退却で損害を受けその後ナポレオンの尊厳がなくなる。

⒋ワーテルローの戦い
往年のベストセラーで渡部昇一「ドイツ参謀本部」という本があった。若き日に読んだが、おもしろくて常に書棚に置いている。この中でナポレオンの戦いに言及している。
エルバ島を脱出したナポレオンが皇帝に復帰してワーテルローの戦いに臨む。その時、ウエリントン率いる英国軍と戦う前にプロイセン軍と何度も戦って勝っている。
渡部昇一の本によれば
「プロイセン軍は敗戦が命取りにならないうちに巧みに退却するのである。外見では敗戦であるが,退却している方の指揮官と参謀長は敗戦だと思っていないことを,ナポレオンはどうも最後までわからなかったように見える。」(渡部昇一 ドイツ参謀本部1974 p.85)

「プロイセン軍はウェリントンと連合作戦を取りやすい方向に向かって兵を引いたのである。。。以前のナポレオン戦争では,戦場の敗者は敗残兵だったが,今やそれは整然たる戦場撤退軍に変わっているのだ。」(渡部1974 p.88)

「フランス軍はワーテルローに陣取ったウェリントンに猛襲を加えた。。。午前11時半ごろから夕方まで繰り返して押し寄せるフランス軍の攻撃をよく持ち堪えたのである。その戦線は突破される寸前だった。その時,予定のごとくプロイセン軍が右手の方から現れてきたのである。」(同 p.89)

まさにこの映画でプロイセン軍が援軍として押し寄せてきたときである。

「一昨日の戦場の敗者は,ほとんど兵力を減じないで猛攻に出てきたのである。ワーテルローの戦いでナポレオンの軍隊は戦場の敗者であるのみならず,まったくの敗残兵になった。戦場で敗れても整然と引き上げると言う事はナポレオンの辞書にはなかった。彼は戦場ではほとんど常に勝っていたのだから。」(同 p.90)

若き日に初めてこの本を読んだとき,この場面を読んでゾクゾクした。天才ナポレオンがこのように敗者となったのかと感嘆した。そのゾクゾクした場面を実際に映画「ナポレオン」では映像にして見せてくれるわけだから興奮しないわけがない。しかもすごい迫力である。この映画を見て本当に良かったと思った瞬間であった。

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