佳境の8話は、こう来たか!ひねりがあるなあ。
2003年版の第8回は、「救えない命」だった。スーパードクターのコトー先生でも救えない命があるということを見せた回で、コトー先生の号泣が、私たちの涙をそそったものだった。視聴者も、感情移入しやすくわかりやすかった。
コトー先生は、ゆかりさんは、末期がんだと自分の目で確認し、延命治療できればと思って臨んだオペだったのだろう。しかし奇跡的に、転移が見られなくなっていた。
ゆかりさんに感謝されて、涙を流すコトー先生。あきおじの時に流した涙とは、違う涙だった。
ゆかりさんは、助かったんだから、よかったじゃない?どうして、あんなにつらそうな顔をしているのと思った視聴者はいたんじゃないかしらね。
いやいや、コトー先生という医師の内面は、もっと深いということを、知らしめた回だった。
この奇跡に、コトー先生は、打ちのめされたのだった。
まず、ゆかりさんの胃がんを末期と診断し、どこかに、治せないとあきらめていた自分が、許せない思いだったんでしょうね。
また医学の常識を否定する結果をまのあたりにし、医師として自信喪失にもなったのでしょう。ストレートに自分を直撃した痛みに、参っているコトー先生は、今までで一番つらそうだった。どんなにゆかりさん家族に感謝されても、笑顔がなかった。
ラスト近く、原さんに、「少し」と言いかけて、間があり、何を言い出すのだろうと固唾を呑んで見守っていたら、コトー先生から、「疲れました」という言葉が出た。初めての弱音だった。コトー先生が、背負っているプレッシャーが、どれほど大きいものなのかを伝えた心からのうめきだったと思う。
そんなコトー先生に、海の男、原さんは、余計なことは、言わない。帰ろうとした時、ドアを閉めるのをやめて、開けて出て行った。入ってきた風が、うなだれていたコトー先生の顔をなで、海を見上げるとコトー先生。雄大な自然に、救われる手がかりを見出す表情の移り変わりは、吉岡コトーの真骨頂!このへんも、セリフはない。でも、見せてくれます。中江監督の演出は、心憎い。
コトー先生は、仙人でも、魔法使いでも、スーパードクターでもない。医療の限界、自分の限界に打ちのめされる人間。だからこそ、謙虚に、次の一歩を踏み出せるのではないか?その布石を置いた回で、やっぱり彩佳さんとの着地点において、大きなターニングポイントになった回だと思う。