『向田邦子の恋文』という妹の和子著の作品を読みすすめています。
彼女が33意,4歳の頃、13歳年上の妻子ある男性N氏との手紙のやりとりや、N氏の日記が綴られています。
N氏は、記録映画のカメラマンで、邦子と付き合っていた頃、体をこわしており、母親宅の離れに一人で暮していました。
邦子が死ぬまで明かさなかった秘められた恋。道ならぬ恋。
手紙のやりとりには、甘い思慕の情の吐露はなく、ありふれた日常を平凡に羅列するにすぎない、他愛もないものでした。
昭和38年11月27日(向田からN氏へ)
28日は夕方までうちで仕事をして、久しぶりでいっしょにゴハンをたべましょう。
邦子の誕生日ですもんね。
29日は都市センターへこもって仕事。
30日は、TBSで28本分ロク音(またKRC)
1日から37日まで都市センターです。
果して一週間ロク(*1)とバブ(*2)の顔をみなくて耐えられるか、天下分け目というところです。
そちら、お具合はいかが?
(*1)は、向田家の猫
(*2)は、N氏の愛称
邦子は親、兄弟に悩みを打ち明けたり、愚痴をこぼしたりすることがありませんでした。
自分の内なるものや、やりたいこと、仕事で判断に迷うことなどを相談し、アドバイスを求め、あどけないほど素のままでいられる相手。
淡い思いやりの愛を受け、自分を育ててくれた人。
それがN氏でした。
邦子はコタツで横になって満足そう。ふっと可哀想にもなったりする。(N氏の日記より)
旅先で窓際の籐椅子に腰掛けている邦子
テーブルの上の一枚の皿に二つの茶碗、二本のフォークが並んでいます。
「姉は思い切りN氏と駆け落ちでもすればよかったのだろう。けれど
姉は家族を見放せなかった。捨てられなかったのだ。今、私がこうして在るのはお姉さんがいたから、そんな思いが浮かび歳月の重さとともにくらくら押しつぶされそうになった。」そう和子は記しています。