「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

うのはな Long Good-bye 2024・04・10

2024-04-10 05:33:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」 、今読み進めている本の

 中から 、 備忘のため 、抜き書き 。

  若いころ 、ペーパーバックの全集本まで買って読ん

 だ作家の本の一冊なのに 、初めて読む心地がすると

 ころが何箇所もある 。読む年齢によって こうも印象

 が違うものか と長嘆息 。

  引用はじめ 。

 「  主水正( もんどのしょう ) は夕食のあと 、茶
  を啜りながら庭の卯花 ( うのはな ) を見てい
  た 。それはこの家を新築するとき 、奥との庭
  を仕切るために作った袖垣で 、花が咲くまで
  卯花とは知らなかったのである 。濃くなった
  たそがれの 、青ずんだ薄暗がりの中に 、その
  花は白く 、ひっそりと咲いていた 。」

 「  わが領地は気候にも恵まれ 、地も肥えていて
  物成りが豊かだ 、七万八千石の表高より 、は
  るかに実収は多いということで 、幕府の国目付
  (くにめつけ)に睨まれている 、―― 老職ども
  はそう主張して 、新田の開拓につよく反対して
  きた 、だが 、その主張には他の理由が含まれ
  ている 、国目付に睨まれているのは事実かもし
  れないが 、決してそれだけではない 、恩借嘆
  願の件にあらわれているように 、御用商人ども
  の算盤が 、うしろからかれらを縛っているのだ 」

 「 藩に対して 、商人どもは常に貸方でなければ
  ならない 。御用の金品が定期に皆済されるだけ
  では 、それからあがる利は固定してしまう 。
  貸方の額が多く 、支払い決済が延びれば延びる
  ほど 、利率は高くなり 、金品の値付けも自由
  に操作ができる 。したがって 、藩の財政が豊
  かになることは 、商人どもにとってなにより好
  ましくないのだ 。」

 「 なにごとも穏便に 、公儀から睨まれないよう
  に 、すべて現状を変えないように 、そういう
  名分の盾をめぐらせて 、ぬくぬくと熟寝(うま
  い) をたのしんでいるかれら 。真実を蔽(おお)
  い隠し 、いつわりの平安にしがみついて 、自
  分大事とけんめいになっている重臣たちに 、
  その寝床がそれほど安全でないことを悟らせ
  るのだ 。」

 「 ―― 俗に東照公は 、百姓は死なぬ程度に生
  かしておけ 、と云われたそうだ 、と昌治は
  さらに云った 。もちろん根拠のない俗説だろ
  うが 、家康公の言葉の真偽には関係なく 、
  死なぬ程度に生きている者たちがいかに多い
  かということを 、自分で見廻ってみて初めて
  知った 、どうしてそんなことがあり得るのか 、
  農民は郡奉行 、町民は町奉行によって 、そ
  れぞれ保護をされ看視されている筈だ 、にも
  かかわらず 、こういう生活がみすごしにされ
  るのはなぜか 。 」

 「  原因は単純ではないだろう 。だが 、まずあ
  げなければならないのは 、現在の状態によっ
  て利得をする者が 、その状態を存続させよう
  とするところにある 、ということだ 。農 、
  産 、商業の根もとを握っている大地主 、五
  人衆といわれる大商人 、そして 、これらに
  支えられている藩の重臣たち 。かれらには現
  在の状態を保つことが 、おのれの安泰を保つ
  唯一のみちなのだ 。その均衡をやぶらなけれ
  ば 、なに一つ改善することはできないのだ 。」

 「  ―― その均衡をやぶる方法の第一が『 堰 』
  を造ることだ 、と昌治は云った 。三万坪の
  新田を拓いても 、たいした役には立たないか
  もしれない 。だが幾組かの百姓が 、自分の
  田を持つことのできるのは事実だ 、これまで
  貧しい小作人だった百姓のうち 、幾組かは自
  分の田を持つことができる 、これは不動だと
  みえる大地主たちのあいだに楔を打ち込むこと
  であり 、僅かではあるが 、かれらの力の均衡
  にひびを入れることになるだろう 。
   重臣たちや大地主 、五人衆たちの結束は固い 。
  なにか新しい事態が起こるとみれば 、派閥を
  越えて協力し 、現状を守るために立ち上がる
  だろう 。

 「 主水正は『 世間 』というもの 、そこに生き
  ている『 人間 』たちを知るようになった 。
  彼は 、江戸屋敷にいるあいだに 、多くの人と
  接し 、その生活をみてきた 。人生は単純では
  ないし 、人の生きかたも単純ではない 。善悪
  の評価でさえも正当であるよりも 、そうでな
  い場合のほうが多いし 、それを是正すること
  が殆んど不可能であることも知った 。
   江戸から帰って来たとき 、主水正はおとな
  になったと思った 。」

  引用おわり 。

  物語の上巻をやっと読み終えたところ 。下巻が愉しみ 。 

 ( ついでながらの

   筆者註:「 ウツギ( 空木・卯木 、学名: Deutzia crenata )は 、

       アジサイ科ウツギ属の落葉低木 。別名は ウノハナ

       日当たりのよい山野にふつうに見られる 。

       名 称
        和名のウツギの名は『 空木 』の意味で 、幹(茎)

       が中空であることからの命名であるとされる 。

       花は卯月(旧暦4月)に咲くことからウノハナ(卯の

       花)とも呼ばれる 。中国名は 、齒葉溲疏 。

       分布と生育環境

        日本と中国に分布し 、日本では 北海道南部 、本州 、

       四国 、九州に広く分布する 。 山野の路傍 、崖地 、

       林縁 、川の土堤 、人里など日当たりの良い場所にふ

       つうに自生し 、畑の生け垣にしたり 観賞用に庭に植

       えたりする 。」

       以上ウィキ情報 。

       見出しの写真は 、うのはな ではなく 、しょうきうつぎ 。 )

 

 

  

  

  

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