「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

Long Good-bye 2020・12・05

2020-12-05 10:00:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は。「愛子さま」が中学1年生のときに書かれたという「作文」。


 「 私は看護師の愛子。最近ようやくこの診療所にも患者さんが多く訪れるようになり、

  今日の診療も外が暗くなるまでかかった。先生も先に帰り、私は片付けと戸締りを任されて、

  一人で奥の待合室と手前の受付とを行き来していた。



  午後八時頃だろうか。私は待合室のソファーでつい居眠りをしてしまった。翌朝眩しい

 太陽の光で目が覚め、私は飛び起きた。急いで片付けを済ませて家に帰ろうと扉をガラッ

 と開けると、思わず落っこちそうになった。目の前には真っ青な海が果てしなく広がっていたのだ。



  診療所は、一晩でどの位流されたのだろうか? 



  いや、町が大きな海へと姿を変えてしまったのかもしれない。助けを呼ぼうとしたが、電話も

 つながらない。私は途方に暮れてしまった。



  あくる朝、私は誰かが扉をたたく音で目を覚ました。扉の外には片足を怪我した真っ白なカモメが

 一羽、今にも潮に流されてしまいそうになって浮かんでいた。私はカモメを一生懸命に手当てした。

 その甲斐あってか、カモメは翌日元気に、真っ青な大空へ真っ白な羽を一杯に広げて飛び立って行っ

 たのであった。



  それから怪我をした海の生き物たちが、次々と愛子の診療所へやって来るようになった。



  私は獣医の資格は持っていないながらも、やって来た動物たちに精一杯の看護をし、時には魚の骨

 がひっかかって苦しんでいるペンギンを助けてやったりもした。



  愛子の名は海中に知れ渡り、私は海の生き物たちの生きる活力となっていったのである。

 そう。愛子の診療所は、正に海の上の診療所となったのだ。



  今日も愛子はどんどんやって来る患者を精一杯看病し、沢山の勇気と希望を与えていることだろう。


 ( 出典:学習院女子中等科・高等科『生徒作品集』(平成26年度版))」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Long Good-bye... | トップ | Long Good-bye... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事