血液検査では、コレステロールの値や肝臓の状態など、健康状態に関する様々な情報が得られる。最近では病気が将来発症する可能性や、実際にかかっている可能性がどれぐらいあるかといった、いわゆるリスクまでわかるようになってきた。脳梗塞や心筋梗塞、がん、認知症、うつ病などで、早めに対策を講じることができるかもしれない。(以下、日経ライフから一部抜粋)
『 ある日突然発症する脳梗塞は、脳の血管が詰まり、まひや言語障害などの後遺症が残ることも多い。早期発見には脳ドックなどが知られるが、血液検査でより早い時期から発症の可能性がわかるようになった。
「LOXインデックス」は、脳梗塞と心筋梗塞のリスクがわかる新しい検査法だ。脳梗塞と心筋梗塞は臓器こそ違うが、原因は同じ動脈硬化と血栓。この検査では、血液中にある超悪玉の変性LDLコレステロールと、その受容体であるLOX―1という物質を調べることで、動脈硬化の進行度を初期段階から判定できる。
信州大学医学部(松本市)器官制御生理学教室教授の沢村達也さんは、「従来、動脈硬化のリスクは主にLDLコレステロール値を目安にしていたが、実際にはこの値が低くても脳梗塞や心筋梗塞を発症する人がいるし、また高くても発症しない人がいる。LOXインデックスでは、コレステロールの量ではなく、いわば質を測ることができる」と話す。
酸化などで変性したLDLが増えると、血管の内皮細胞にある受容体のLOX―1も増加。その結果、血管に慢性的な炎症が起こり、動脈硬化が加速するという。
■危険性2~3倍
沢村さんは国立循環器病研究センター在籍中に、この検査法の開発に携わった。もとになったのは、大阪府吹田市の住民2500人の健康状態を11年間追跡調査した「吹田研究」だ。この研究ではLOXインデックスが高い群は低い群に比べ、脳梗塞になるリスクが3倍、心筋梗塞では2倍高いことがわかった。
検査ではリスクを4段階で判定。これが高い場合は、超音波で血管内を映す頸(けい)動脈エコーなどの検査が勧められる。適度な運動、魚や野菜の摂取など動脈硬化を防ぐ生活も心がけたい。
がんの血液検査も登場している。「アミノインデックスがんリスクスクリーニング」は、1回の採血で胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、乳がん、子宮・卵巣がんについて、実際にかかっている可能性がどれぐらいあるか調べる。
味の素と一緒にこの検査法の開発に取り組んできた三井記念病院総合健診センター(東京都千代田区)特任顧問の山門実さんは、「がんになると20種類あるアミノ酸の血中濃度が、健康時に比べて変化する。この違いを解析し、各がんのリスクを評価する。ただし、正確な診断には内視鏡や磁気共鳴画像装置(MRI)などの精密検査が必要」と説明する。
すい臓がんも来年から対象とすることを検討している。「血液検査で可能性を絞ることで効率的にがんを見つけられる。がん検診の近未来型」と山門さんは期待する。
■認知症の兆候も
認知症の予備軍である軽度認知障害(MCI)になっているかを調べるのが「MCIスクリーニング検査」だ。まだ自覚症状がない段階でも、いち早くMCIの兆候を捉えられる。
「アルツハイマー病では、アミロイドβという原因物質が発症の20年近く前から徐々に脳内にたまっている。検査では、この物質の排出などにかかわる3つのたんぱく質の変化を調べて、MCIのリスクを判定する」と話すのは、筑波大学発のベンチャー企業MCBI(つくば市)社長の内田和彦さん。この検査は筑波大学医学医療系の朝田隆教授らとの共同研究から生まれた。
MCIは放っておくと5年で約半数が認知症に進むと言われるから、できるだけ早く見つけて手を打つことが重要。運動や食事、脳トレなどが発症予防に効果的だ。
うつ病かどうかも血液検査でわかるようになった。川村総合診療院(東京都港区)院長の川村則行さんは、国立精神・神経医療研究センター在籍中から、診断の客観的指標になる物質を探索。うつ病では血中のリン酸エタノールアミン(PEA)濃度が低下することを突き止めた。これにより90%以上の精度でうつ病を診断できるという。
「薬の選択や治療効果も正しく判定できるようになり、治療に要する期間が短縮した」と川村さんは話している。
■検査対象の病気、さらに拡大
新しい血液検査の開発も盛んだ。MCBIでは来年4月から「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」の検査も始める。NASHは炎症を伴う脂肪肝で、肝硬変や肝がんに進むことも少なくない。「従来の血液検査では早期発見が難しいが、ある種の糖たんぱくを調べることで、それが可能になった」と内田さん。
味の素では、アミノインデックス技術を用いたメタボ検査を来年から開始することを検討中だ。この検査では、血中のアミノ酸バランスから内臓脂肪の蓄積や高インスリン血症、脂肪肝などを一度に調べられる。「まずは複数の健診施設で有用性を検証する予定」(山門さん)だという。 』
『 ある日突然発症する脳梗塞は、脳の血管が詰まり、まひや言語障害などの後遺症が残ることも多い。早期発見には脳ドックなどが知られるが、血液検査でより早い時期から発症の可能性がわかるようになった。
「LOXインデックス」は、脳梗塞と心筋梗塞のリスクがわかる新しい検査法だ。脳梗塞と心筋梗塞は臓器こそ違うが、原因は同じ動脈硬化と血栓。この検査では、血液中にある超悪玉の変性LDLコレステロールと、その受容体であるLOX―1という物質を調べることで、動脈硬化の進行度を初期段階から判定できる。
信州大学医学部(松本市)器官制御生理学教室教授の沢村達也さんは、「従来、動脈硬化のリスクは主にLDLコレステロール値を目安にしていたが、実際にはこの値が低くても脳梗塞や心筋梗塞を発症する人がいるし、また高くても発症しない人がいる。LOXインデックスでは、コレステロールの量ではなく、いわば質を測ることができる」と話す。
酸化などで変性したLDLが増えると、血管の内皮細胞にある受容体のLOX―1も増加。その結果、血管に慢性的な炎症が起こり、動脈硬化が加速するという。
■危険性2~3倍
沢村さんは国立循環器病研究センター在籍中に、この検査法の開発に携わった。もとになったのは、大阪府吹田市の住民2500人の健康状態を11年間追跡調査した「吹田研究」だ。この研究ではLOXインデックスが高い群は低い群に比べ、脳梗塞になるリスクが3倍、心筋梗塞では2倍高いことがわかった。
検査ではリスクを4段階で判定。これが高い場合は、超音波で血管内を映す頸(けい)動脈エコーなどの検査が勧められる。適度な運動、魚や野菜の摂取など動脈硬化を防ぐ生活も心がけたい。
がんの血液検査も登場している。「アミノインデックスがんリスクスクリーニング」は、1回の採血で胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、乳がん、子宮・卵巣がんについて、実際にかかっている可能性がどれぐらいあるか調べる。
味の素と一緒にこの検査法の開発に取り組んできた三井記念病院総合健診センター(東京都千代田区)特任顧問の山門実さんは、「がんになると20種類あるアミノ酸の血中濃度が、健康時に比べて変化する。この違いを解析し、各がんのリスクを評価する。ただし、正確な診断には内視鏡や磁気共鳴画像装置(MRI)などの精密検査が必要」と説明する。
すい臓がんも来年から対象とすることを検討している。「血液検査で可能性を絞ることで効率的にがんを見つけられる。がん検診の近未来型」と山門さんは期待する。
■認知症の兆候も
認知症の予備軍である軽度認知障害(MCI)になっているかを調べるのが「MCIスクリーニング検査」だ。まだ自覚症状がない段階でも、いち早くMCIの兆候を捉えられる。
「アルツハイマー病では、アミロイドβという原因物質が発症の20年近く前から徐々に脳内にたまっている。検査では、この物質の排出などにかかわる3つのたんぱく質の変化を調べて、MCIのリスクを判定する」と話すのは、筑波大学発のベンチャー企業MCBI(つくば市)社長の内田和彦さん。この検査は筑波大学医学医療系の朝田隆教授らとの共同研究から生まれた。
MCIは放っておくと5年で約半数が認知症に進むと言われるから、できるだけ早く見つけて手を打つことが重要。運動や食事、脳トレなどが発症予防に効果的だ。
うつ病かどうかも血液検査でわかるようになった。川村総合診療院(東京都港区)院長の川村則行さんは、国立精神・神経医療研究センター在籍中から、診断の客観的指標になる物質を探索。うつ病では血中のリン酸エタノールアミン(PEA)濃度が低下することを突き止めた。これにより90%以上の精度でうつ病を診断できるという。
「薬の選択や治療効果も正しく判定できるようになり、治療に要する期間が短縮した」と川村さんは話している。
■検査対象の病気、さらに拡大
新しい血液検査の開発も盛んだ。MCBIでは来年4月から「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」の検査も始める。NASHは炎症を伴う脂肪肝で、肝硬変や肝がんに進むことも少なくない。「従来の血液検査では早期発見が難しいが、ある種の糖たんぱくを調べることで、それが可能になった」と内田さん。
味の素では、アミノインデックス技術を用いたメタボ検査を来年から開始することを検討中だ。この検査では、血中のアミノ酸バランスから内臓脂肪の蓄積や高インスリン血症、脂肪肝などを一度に調べられる。「まずは複数の健診施設で有用性を検証する予定」(山門さん)だという。 』