国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

年頭の1枚目はこれだ!(『アガルタ』後編)

2010年01月03日 | マスターの独り言(アルバムのこと)
聴くごとにそこに異次元が広がっていく。
マイルス・デイヴィスの『アガルタ』は、
前哨戦にもかかわらずそう思わせるだけのエネルギーに溢れている。
1975年にこれほどの音楽が存在していて、
それに対して「今、進歩しているのか?」と問われると
何とも言えないような気がしてならないのだ。

ところがこれを演奏したときのマイルスの身体、精神の状態は
正直最悪に近いものであった。
ドラッグ、アルコール、糖尿病と様々な要素がマイルスを蝕み
結果、演奏ができる状況を自分で維持できなくなってしまっていた。
その後マイルスは6年という長い休みに入る。

そのことを踏まえて『アガルタ』を聴くと
尚のことマイルスの描き出そうとしていた音楽の凄みが見えてくる。
一見複雑な理論に基づいた数学のようにも思えるが、
耳をその音の流れに委ねてみればカラフルで表情に富んだ
マイルスの世界が広がっていく。
引退という2文字を背中に背負いながらも
そのぎりぎりのラインで創りだした音楽の凄みだけでも充分に感動がある。

僕が『アガルタ』を押すのは
やっぱり1枚目の1曲目「アガルタへのプレリュード」の冒頭にある。
冒頭ベース、ギター、ドラム、パーカッションが一斉にリズムを創り出す。
そこに「ブィー」と不器用なオルガンの音が入る。
それでもリズムは止まることがない。
間に2度オルガンが入り、そして1分30秒でリズムがストップ。
そこに強烈なオルガンの炸裂音が入る。
オルガン奏者はマイルスだ。

通常流れている音楽が止まるというのはかなりの覚悟が必要だと思う。
ましてライブ中である。
意図をしていても結構の勇気が必要だ。
ところがマイルスはジャズをベースにしているため
この時の演奏も含め、その舞台上で合図を飛ばし演奏をコントロールしている。

この「恐怖の寸止め」のあと益々リズムがノってくる。
そしてそこにトランペッターとしてのマイルスがソロを取る。
いや、もうそこにはソロという概念もないのだろう。
それぞれのリズムが寄り集まり大河となるようなリズムの波に
衰えなど全く感じさせないマイルスの声が天上より降り注ぐのだ。
いつの間にかリズムの先頭に立ち、率いていくのはまさに帝王の貫禄だろう。

これこそが「マイルスの音楽」なのだ!