特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第437話 逆転推理・秋の花火のメッセージ!

2008年09月22日 21時32分35秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 辻理
1985年10月24日放送

【あらすじ】
インターポールと協力してブランド品の偽造事件を追う特命課。英語を自在に操り、担当省庁である通商産業省(現:経済産業省)とも対等に渡り合うなど、まさに“エリート揃い”の環境に、居心地の悪さを感じる時田。ついつい元の所轄地域に足が向き、かつての同僚たちが捜索中の殺人現場を何気なく覗いたところ、被害者は時田と旧知の老売春婦だった。老売春婦は自室でなく、同業の女の部屋で、その女の服を着て死んでいた。被害者に冷淡な態度を隠さず「どうせ客と金でこじれた結果だろう」と決め付ける刑事たちに、不快感を抱く時田。現場に花火の燃え屑を発見した時田は「客の犯行ではない」と指摘する。老売春婦は客にあぶれると、死んだ子供の供養のため、季節を問わず花火をするのが常だった。
多忙を理由に事件を放置する所轄署に憤り、一人捜査を開始する時田。「誰だって一人じゃ弱い、仲間が要る。そうじゃないか?」助け舟を出そうとする橘らだが、時田は頑なに背を向ける。老売春婦の怨恨関係を探ろうとする時田に、「彼女は、女と間違えて殺された。探るなら女の怨恨関係だ」と助言を送る桜井。反発しつつも、時田は女を探し出す。女には恨まれる覚えはなかったが、数日前、ある客とホテルに行った後、「あの客とホテルに行ったことを証言して欲しい」と頼みに来た男がいたという。男は数日後に自殺を遂げたエリート官僚であり、その客は「産業白書案」と書かれた冊子を持っていた。
時田は神代に単独行動を詫びつつ「犯人はエリート官僚と出世を争っていた産業省の官僚」と自身の推理を述べる。エリート官僚は、犯人のスキャンダルを公表せんと女に接触。だが、犯人は逆にエリート官僚を自殺に見せかけて殺害。さらに女をも狙ったが、間違って老売春婦を殺してしまったのだ。
「産業白書“案”」は、産業省の中でも部長職以上の高官しか持ち得ない資料。該当者の中でアリバイのない官僚はただ一人だった。女はその官僚こそ例の客だと証言するが、官僚は「何の証拠がある」とシラを切る。執拗にマークする時田に業を煮やし、特命課に圧力をかける官僚。刑事局長に捜査中止を命じられる神代だが、「時田が罰せられるのであれば、その前に私が全責任を取ります」と敢然と拒否する。
神代の対応を知らず落胆する時田に、橘は女から託された部屋のカギを渡す。「行き詰まった時には現状に戻る。捜査のいろはだよ」心強い仲間たちとともに、現場を調べ直す時田。事件当夜、階下の住人が「花火をやめろ!」と怒鳴ったところ、部屋の明かりが消えたという。花火をするのに明かりは不要。犯人は老売春婦を殺害した後、死体を確かめるために明かりを点け、階下からの声に慌てて明かりを消したのだ。スイッチに残っていた指紋が決め手となって、官僚はついに犯行を認める。「この私がいなければ日本は困る。私の価値に比べれば、売春婦の一人や二人・・・」なおも強がる官僚に、時田は「その言葉、もう一度、この遺骨の前で言ってみろ!」と老売春婦の遺骨を突きつけた。
「彼女は、殺されても1行の記事にもなりませんでした」官僚の犯行を大々的に報じる新聞を前に、心の晴れない時田。「今夜、付き合えよ」と声を掛ける橘に、神代も「私も付き合おう」と続く。「とことん、付き合ってください」と応じたとき、時田は初めて本当の意味で、特命課の仲間入りを果たしたのだった。

【感想など】
前回に引き続き、新メンバーである時田のキャラ立てをメインとしたエピソード。かつての同僚たちから「秋の花火=季節外れにしょぼく咲く」とあだ名されるなど、決してエリートとは言えない時田が、特命課のメンバーへのコンプレックスから反発を抱くという人物描写は、時田本人のキャラ立てとしてはもちろん、“警察組織内でも独立したエリート集団”という特命課の立ち位置を(時間帯異動による新視聴者にも)再確認する上でも出色。ちなみに、同じく新メンバーである犬養は、若くして警視庁の捜査一課のメンバーだったように、違和感なくエリート集団に馴染んでいる様子。彼のキャラクターをどう立てるかは、以降のエピソードに期待しましょう。

自分と似た境遇の老売春婦の死、さらには、その死が誰からも顧みられないという事実に怒りを抱き「世の中、スイスイやってる奴だけが人間じゃない。這い上がろうとしてもできない人間がいるんだ。刑事っていうのは、そうした人たちの味方になってやらねばならんのだ」という味のある台詞を口にする時田には、スペシャルや前回で見せた“家族思いのマイホームパパ(死語ですが)”という設定に加え、“弱者への視線”というポジションが(ある意味、特命課全員に共通する視線ではありますが)割り当てられる様子です。その時田を中心に、弱者の象徴である老売春婦や、時田の説教を笑い飛ばしながらも、その真心を受け入れる若い売春婦、時田に同情的な所轄署の婦人警官など、周辺キャラクターの配置にも光るものがある本編ですが、佐藤脚本にしてはひねりのない、普通に良くまとまった話だというのが、(贅沢な話ですが)やや物足りません。
加えて、私のような世代の人間にとっては、犯人である官僚を演じるのが宮内洋というのが、なんとも切ない。かつての仲間である吉野との対面が無いのは救いでしたが、かつての先輩である桜井の前で跪き「私は死刑になるのか」と頭を抱える姿は見たくなかった。「高級官僚の仮面はがれる!」と報じる「仮面」の文字にまで敏感に反応してしまう自分が悲しく思えます。

話を本編に戻すと、“エリート=社会の底辺を顧みない連中”と見て、特命課に反発を抱いていた時田ですが、捜査を通じて神代課長以下の刑事たちが“優れた捜査能力”だけでなく“人間としての優しさと強さ”を併せ持っていることを理解していきます。ラストでようやく心を開いた時田ですが、今後も“エリート集団”に埋没することなく、叩き上げの家庭人ならではの“弱者への視線”を発揮して欲しいものです。