特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

スペシャル 疑惑のXデー・爆破予告1010!

2008年09月16日 22時41分20秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 野田幸男
1985年10月10日放送

【あらすじ】
特命課に送られた謎の予告状「バクハヨコク1010」。神代は、そこから2つの事件のつながりを察知する。1つはラジコン爆弾による連続爆破事件。もう一つは元検事の一人息子の誘拐事件。特命課は、両事件を担当する捜査一課と所轄署の合同捜査会議を開催し、両事件が同一犯人によるものと指摘。「何を証拠に?」と異論を唱える捜査陣に対し、科研の新人女性技官が冷泉教授とともに証拠品を分析した結果を示す。3度の爆破に用いられたラジコンの主要部品の製造ナンバーは、いずれも1010。また、誘拐事件の予告電話の時刻は10時10分、電話ボックスの番号が1010など、両事件に同じ数字が付きまとう。この奇妙な符号を「犯人の警察への挑戦」と見た神代は、捜査一課の犬養清志郎刑事、所轄署の時田伝吉刑事を特命課のメンバーに加え、捜査を開始する。
その矢先、犯人から元検事の後妻を指名した身代金受け渡しのメッセージが届く。指定された山中に車で向かう後妻。特命課が後方から見守るなか、人質の子供を乗せて現れた男は、子供を後妻に渡すと車を交換して走り去る。男の車を追う特命課。だが、橘らが保護しようとした後妻も、犯人と交換した車を走らせる。「奥さん、どうしたんです?」隠しマイクを通じて後妻が答える。「ピストルで脅されています。後部座席にもう一人いたんです」「ついて来るなよ、刑事さん」挑発するような男の言葉に呼びかける橘だが、返事は無い。走り去った車の男は、何も知らない代行運転手だった。採石場に逃げ込んだ車を追うものの、爆破による落石で道を阻まれる。数時間後、ヘリで追った紅林が車を発見するが、中から倒れるように出てきたのは後妻だけだった。
その間、冷泉の分析により、爆破用のラジコンがすべて昭和39年製だと判明。また、用途不明の部品に見えたのは計量スプーンであり、それは爆薬=ニトログリセリンの量を示していた。時を同じくして、犯人から特命課宛に、子供たちの集合写真と合計2キロの計量カップが送られてくる。神代は「次は2キロのニトロで、大勢の子供を殺す」というメッセージだと察知する。
聞き込みの結果、ラジコンを仕掛けた犯人を目撃した少年を見つけ出す犬養と叶。子供の証言によれば、犯人は女だという。一方、紅林や橘、時田らは、これまで犯人が指定した身代金の受け渡し場所が、「ブルームーン」「黄色い部屋」「黒龍」「レッドサン広場」と、いずれも色を示していることに気づく。
さらに、神代は「1010」の謎を解明。それは昭和39年10月10日に起こったある事件を指していた。独身の女性デザイナーが殺され、交際中の子持ちの運転手が容疑者として逮捕された。運転手は容疑を否認したが、次々と不利な証言が現れ、公判で有罪となった末に飛び降り自殺を遂げた。当時、この事件を担当したのが元検事だった。事件が東京オリンピックの開会式の日だと気づく時田。4つの色「青、黄、黒、赤」はオリンピックの五色を現していた。残る「みどり」は、検事の取調べを受けて、父親に不利な証言をした運転手の娘の名だった。「バクハヨコク1010」。それは4日後に迫った10月10日の決行を意味するのか?特命課は21年前の事件を調べ直す。

「犯人と闘うべき刑事が、犯人の言いなりになって過去の事件の粗探しですか?特命課ってのは、そういうところですか?」不満を隠さない犬養に、「刑事というものは、無実の人間を救う義務がある」と諭す神代。「時効でもですか?」と指摘する時田に対し、「これは人間としての誇りの問題だ」と応じる橘。「しかし、10月10日の爆破はどうなるんです?」食い下がる犬養に、「俺たちは何としても爆弾だけは止めなきゃならん。そのために過去の捜査が必要だとすれば、たとえ無駄だろうとやろうじゃないか!」桜井の一喝で、捜査に全力を上げる刑事たち。
犯人と思われた男の声が、演劇の台詞を録音したものだと突き止める叶。では、車内で男に脅されたという後妻の証言は嘘だったのか?後妻を追及する特命課。沈黙する後妻に、特命課が突きつけた新たな事実。それは、彼女が殺された女性デザイナーの隠し子だというものだった。当時、彼女は新しい父、新しい妹を得て、ようやく暖かな家庭を持つことができるはずだった。その矢先、母が殺され、犯人として父となるべき運転手が逮捕された。「私への復讐だったのか?」意外な事実に、愕然とする元検事。特命課は後妻を連行するが、後妻は頑なに沈黙を守る。
そんななか、突然、人質の子供から特命課に電話が入る。「明日までに約束を守らないと、僕もドカンだって」子供の言葉を残し、電話は切れた。それは、後妻にも予想外の事態だった。「どうして?あの人ったら勝手なことを・・・」あの人とは誰か?その答は冷泉が語った。それは成長し、改名した「みどり」、すなわち女性技官だった。「冤罪事件など出さないように」と科研の技官となった彼女は、再審請求を出し続けていた祖母の死を期に、姉になるはずだった後妻とともに復讐を誓ったのだ。消息を絶った女性技官の部屋には「500→1010」と記された神代への手紙が残されていた。
血がつながらないとは言え、ようやく「お母さん」と呼んでくれるようになった子供への母性に苦しむ後妻。そこに女性技官から電話が入る。「子供は無事に返すはずだったじゃない・・・」制止する後妻に「私だって誰も傷つけたくない。でも、判ってほしい、私の恨みを!」母となるべく人を失った悲しみ。自分の証言によって父親を有罪に追い込んだ元検事への怒り。わずか6歳の少女には酷すぎた経験が、彼女を凶行に走らせたのだ。
逆探知で女性技官の居所が名古屋だとつかんだ特命課。「爆弾は5時ジャスト名古屋発、10時10分東京着のハイウェイバスに仕掛けられている」女性技官は特命課の推理を認め「ニトロは時限式、もしくは遠隔操作で爆破できる。バスを止めようとすれば爆破する。東京に到着するまでに真犯人を突き止め、テレビで自白させて」
客を装い、バスに乗り込んだ桜井と犬養が、仕掛けられた爆弾を探す。一方、他の刑事らは捜査に全力を挙げる。橘らは、当時の停電状況から、女性デザイナーの元愛人の「テレビで東京オリンピックの入場式を見ていた」という証言の嘘を見抜く。真犯人は元愛人だった。「あなたに一片の良心でも残っていれば、事件を起こした彼女らの気持ちをわかってやってください」橘の説得に、元愛人は事実を認める。
女性技官からの電話に、その事実を告げ、爆弾を止めるよう呼びかける特命課。だが、電話の向こうではモーツァルトの名曲が響くのみ。それは21年前の事件現場に掛っていた曲だった。「爆弾を止める気はないのか?」焦る紅林を制する橘。「彼女は、信じているんだ。爆弾を特命課が止めることを」冷泉も同意する。「そうですね。彼女は捕まる覚悟です。この曲は彼女の居場所を教えているんですよ」
その頃、バス内では桜井が人質の子供の胴に巻きつけられている爆弾を発見。犬養とともに起爆装置を解除する。子供たちの危機は回避され、特命課は女性技官を逮捕すべく出動した。彼女が覚悟の表情で待つ、モーツァルトの奏でられるコンサートホールへ。

【感想など】
愛を殺し、夢を葬り、心を奪い、人を犯す。都会という名の罪人たち。明日の見えない迷路に落ちた、真実の鍵を探し求めて、愛の光で闇を撃つ。彼ら、特捜最前線・・・『ニュースステーション』の開始に伴い、水曜夜10時から木曜夜9時への枠変更が行われ、新たなスタートを切った我らが『特捜最前線』。大きな節目となる本エピソードは、番組史上初(そして唯一)となる2時間スペシャルとして制作されました。このため、再放送時には2分割で放送されたとのことで、「あらすじ」中の◆の箇所が前後編の区切りです。また、放送順としては436話となりますが、各種資料を見ても通し話数にはカウントされていないため、当ブログでもこれに倣っています。

『必殺シリーズ』や『俺たちは天使だ!』などで知られる渡部篤史演じる時田は、所轄署の叩き上げで子煩悩な家庭人。『高速エスパー』『白獅子仮面』で主役を務めた三ツ木清隆演じる犬養は、若くして捜査一課に務めるエリートながら、二枚目半のちょっとお調子者。新レギュラーの紹介編として、この2名のキャラクター性を立たせるだけでなく、女性技官役の大場久美子、3度目の登場となった冷泉教授(演じるは二谷英明夫人である白川由美)、など豪華なゲスト陣にも活躍の舞台を与え、さらには爆弾、誘拐といった特捜(というか長坂脚本)の象徴的な要素を駆使し、おまけに「1010」の「五輪の色」などお得意のパズル的な仕掛けもふんだんに取り入れつつ、2時間という長さを感じさせないスピーディーな展開は、まさにメインライター長坂氏でなければ書けない娯楽大作と言えるでしょう。
とはいえ、こうした要素やアイディアを惜しげもなくつぎ込む余りに、全体としての整合性に掛けてしまうのも、長坂脚本の悪い面での特徴。今回は特にそれが顕著で、たとえば“科研の詳細な調査”が拡大鏡で部品の製造ナンバーを発見することだったり、法歯学が専門だったはずの冷泉教授がとてもそうは見えない博学ぶりを見せたり、一緒に車で追っていたはずの紅林がヘリにテレポートしたとしか思えなかったり、山道の電話ボックスが異常に違和感のある小道具だったり、些細なことかもしれませんが(後の2つは脚本というよる演出の問題かもしれませんが)、いちいち気になるシーンの連続で、苦笑しながら見ていたというのが正直なところ。何よりおかしいのは、犯人の行動が一貫性と整合性に著しく欠けていること。そもそも、最初から「21年前の事件を調べ直せ」と要求すればよいものを、わざわざ「1010」とか「五輪の色」といった回りくどいヒントを提示する理由が無い。さらに、わざわざ大芝居を打ってまで身代金を手に入れる必要も乏しく、“見せ場ありき”のシナリオづくりの弊害と思わざるを得ません。女性技官のラストの行動も支離滅裂であり、「人を傷つけることを恐れる優しい女性」と「手段を選ばぬ凶悪な復讐鬼」の二面性を描いたつもりかもしれませんが、単にシナリオが破綻しているとしか思えませんでした。

そのほかにも、モーターやエンジン、電話ボックス、高速バスと、すべて「1010」が揃うのも都合が良すぎてリアリティを損ねている、名古屋から東京までバスで移動する園児たちの存在も理解不能など、おかしな所を挙げたらキリがありません。とはいえ、「2時間という長尺でも視聴者を飽きさせない」「新登場のキャラクターを立てる」といった脚本としての命題を存分に果たしているのは、さすがの一言。特に、登場時には特命課に対する反感を露にしていた2人が、捜査を通じて理解と共感を深めていくドラマ性は圧巻でした。
橘の地道な捜査と犯人への情のこもった説得が時田の胸を打ち、桜井の不屈の闘志と子供へのいたわりが犬養の心をつかむ。そして、心ならずも犯罪に手を染めた者への理解と哀れみを胸に秘め、つねに沈着な判断を下す神代課長への信頼感が、二人の胸に育まれていく・・・もちろん、今回のみで二人が特命課に完全に融和したわけではなく、これからの数話は新刑事2人にスポットを当てた話が続きます。おやっさんと吉野という、長年にわたり親しまれてきた二人に変わる存在として、なにかと厳しい視線にさらされる時田と犬養ですが、この二人が、そして新たなメンバーを加えた特命課が、これからどんな魅力を発揮していくか、まずは見守っていきたいと思います。