特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第435話 特命課・吉野刑事の殉職!

2008年09月11日 21時24分25秒 | Weblog
脚本 竹山洋、監督 三ツ村鐵治
1985年10月2日放送

【あらすじ】
吉野の作文が『警察月報』に掲載された。そこには、東京駅で張り込み中に出会った同郷の男への想いが綴られていた。男は自慢の息子に会うために上京してきたが、乗り換えが分からず困っていた。酔った勢いで「中目黒まで連れて行け!」と叫ぶ男に、乗り換え方法を教えて立ち去った吉野。『傷』という作文のタイトルには、捜査のために、男を送ってやれなかったことを悔いる気持ちが込められていた。
そんななか、警官が刺され、拳銃を奪い去られるという事件が勃発。捜査に乗り出した矢先、吉野に郷里の母親から電話が入る。上京中の父親が、若い女に大金を渡そうとしていると知らされ、驚く吉野。その間にも、犯人は奪った拳銃で強盗を働いた。被害にあったパチンコ屋へ駆けつけた吉野は、野次馬の中に父親と若い女の姿を発見する。
女を父親の愛人だと思い込み、父親を尾行する吉野。だが、父親は女を「お前が東京駅で会った人の娘さんだ」と紹介。奇妙な縁に驚く吉野だったが、女から「父はあの日、死にました」と聞かされ愕然とする。吉野と分かれた後、男は渋谷駅で口論になり、殴られて頭を強打したという。「道を尋ねたつもりが、酔っていたので絡んだように思われたんでしょうね・・・」狭い町のことだけに、父親は男の死を知っており、吉野から送られてきた『警察月報』を読んで驚き、香典を持って訪れたのだという。「・・・なぜ、言ってくれなかったんだよ」「お前を責める言葉しか出てこんような気がしてな」
女は、弟(=男が自慢していた息子)が拳銃を奪い、強盗を働いた犯人ではないかと心配していた。「息子さんが犯人だとしたら、お前にも責任がある。自首させることはできんのか?」内心では激しく自分を責めながらも、と父親の言葉を拒否する吉野。だが、パチンコ屋に弟の写真を見せ犯人だと確認した吉野は、特命課に報告せず、再び女のもとへ。弟からの電話で出かける女に、自分も連れて行くよう迫る吉野。「逮捕したくないんです!」その言葉を信じた女は、吉野とともに弟の隠れる埠頭へ。後には、吉野から拳銃と手錠を託された父親だけが残された。
一方、特命課では吉野が弟の犯行だとつかんだことをつかむ。そこに父親が訪れ、神代は吉野の身が危ないと予測。緊迫した面持ちで出動する刑事たち。
その頃、埠頭では、神代が案じた通り、弟の拳銃が火を吹いていた。肩を撃ち抜かれ、流血しながらも弟を追う吉野。「拳銃を捨てろ!一緒に警察に行くんだ!」吉野の叫ぶも虚しく、スナックに立て篭もる弟。後を追った吉野の脚を、再び銃弾が貫く。
駆けつけた警官隊に包囲させるなか、自棄になって自殺を図る弟に吉野が語りかける。「お前のお父さんは、お前を褒めてた。中学しか行かせてやれなかったのに、でっかい工場の班長になったと、嬉しそうに言ってたぞ。お父さんは、そんな君を励ましに東京まで来たんだぞ」どれだけ真面目に働いていても、中卒というだけで蔑ろにされる日々を、恨みを込めて語る弟。「カッとしても、畜生と思っても、辛抱するしかないんだよ。頑張ってくれよ、なぁ!」
ようやく特命課が現場に到着するなか、吉野の必死の励ましが弟の胸に届いた。泣き崩れる弟を立たせて、朝焼けを見せる吉野。「きれいな朝だ・・・」そのとき、手柄を立てようとでもしたのか、逃げそびれていたスナックのバーテンが背後から弟に襲い掛かる。「やめろ!」はずみで引き金が引かれ、その銃弾が吉野の胸を貫く。スナックから倒れ出る吉野。警官隊を押しのけ、駆け寄る刑事たち。吉野の胸に耳を当てていた神代の表情が固まる。「吉野・・・」泣き崩れる父親。涙にくれる女。そして、刑事たちの頬を涙が伝う。「吉野、吉野!起きろ!起きてくれ!」神代の叫びが、埠頭に虚しく響いた。

【感想など】
第1話から一度の離脱もなく活躍し続けた唯一の男、好感・吉野がついに特命課を去る時が来た。それも、津上に続いく殉職という形で。刑事の交代劇自体が少ないとはいえ、10年にわたる歴史のなかで、(セミレギュラーを除いては)2人しか殉職していないという事実に、やはり『特捜最前線』という番組ならではの独自性を感じずにはいられません。
それはともかく、劇中でも、そして視聴者からも、誰からも愛される存在であった吉野という男の死を前にしては、語るべき言葉もありません。女に惚れっぽい吉野。他人にだまされ易い吉野。自分に対してはことのほか厳しく、他人にも厳しくありながら、限りなく優しい吉野。その優しさを素直に表せない吉野。つねに真っ向から正論を唱え、ときに周囲の刑事たちと衝突する吉野。父への愛憎、血のつながらない母親への感謝の思いを胸に、家族の繋がりを大切にする吉野、人を愛し、人に愛され、人を愛するという気持ちを何よりも大切にしてきた吉野・・・「あの吉野が死んでしまったとは、どうしても思えないんです・・・」ラストで神代課長が涙ながらに漏らした言葉は、まさに私たちの想いそのものであり、今はただ、安らかに眠って欲しいという他はありません。

せめてもの慰めは、これまで意地を張り合い、和解する術も無いかに見えた吉野と父親が、ドラマ中盤になって、ようやく素直に気持ちをぶつけ合うことができたこと。
犯人を自首させるべく、あえて特命課に口をつぐむ吉野に対し、父親はこう言いました。「考えたんだが、やっぱり課長さんに話したほうが・・・」「いや、自首させたいんだ」「そのことで、お前、警察をクビになりゃせんか・・・」息子の将来を案じる父親に、吉野は警察学校時代に、嫌気がさして実家の母親に電話したときの思い出を語ります。電話を奪い取って「バカ」と切った父親だが、不意に上京して吉野に面会すると、二人、喫茶店で1時間も黙ったままだった。「何と言っていいか、わからなかった」「それでも嬉しかったんだ。幸せだった」「そうか・・・」「おれは、彼を父親に会わせてやれなかった。それを、さも気にしたような文章を書いて、恥ずかしい。女々しい感傷だ・・・」
自ら「幸せだった」と振り返る、貴重な父親との思い出。あの日の自分の過ち(父親の言うように、それがすべての原因ではないにせよ)がなければ、男が犯人と会ってさえいれば、犯人が苦しい現実に耐え抜いていたかもしれないという『傷』。そうした想いが吉野を死に追いやったのだとすれば、その運命の皮肉さを、どう嘆いたらよいのでしょうか・・・

冷静に振り返ってみれば、バーテンの行動が意味不明だったりと、ケチの付け所はありますが、「吉野の死」というテーマのもと、吉野の生き様、そして吉野への刑事たちの想いを描くという面では、誠直也氏の希望(殉職編の脚本に竹山氏を希望したのは誠氏本人だったと聞きます)に十二分に応えた脚本であり、演出だったと思います。とくに、ラストシーンは埠頭のシーン以上に涙腺を刺激し、見るたびに心を揺さぶります。
・・・吉野の遺骨とともに、特命課に別れを告げに来た父親。「そんな顔をせんでください。よくやったと、笑って送ってやってください」父親の言葉に、涙眼で応じる神代「私にとっても、一番、手のかかる息子でした。お骨を拾っているとき、ちょっと気が遠くなりかけました。余りに、軽いんで・・・」父親が去った後、悲痛な面持ちで立ち尽くす刑事たち。橘は無言のまま、吉野が飾っていた鉢植えの花を叩き捨てる。「やめてください!」高杉が悲鳴を上げる。「あんな無骨な顔して、何かといえば女に惚れて、花を贈って…あいつは死んじまったのに、花だけはきれいに咲いてやがる。そんなもの、毎日見ていられるか」
刑事たちにとってと同様、演じる俳優陣にとっても、この日が苦楽を共にした“戦友”との別れであり、そんな彼らの本気の哀しみが、画面上からも伝わってくるような気がします。さようなら、吉野竜次。これからの特捜を見続けながら、私たちはつねに、あなたとおやっさんの不在を、心に刺さったトゲのように感じ続けることでしょう。