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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

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組織人として、専門職として、人間としての倫理。

2012年12月28日 | Weblog
近年、どの企業組織においてコンプライアンスのことが言われるようになった。
倫理意識の欠如を原因とする、企業の不祥事が増えているからであろう。
コンプライアンスとは企業や組織内の人が法律や内規などのごく基本的なルールに従って活動することである。



そして専門職としての職業倫理や、人としての倫理はさらに法令遵守の上位をいく概念であると思う。

例えば医師であれば応召義務やヒポクラテスの誓い(Do not harm.(害するなかれ)など・・)などが職業倫理にあたるだろう。
人としての倫理はなかなか言葉で説明するのは難しいが・・。

一例をあげれば患者さんが喫煙しているからといって、その患者さんの診療を拒否し、禁煙の動機づけにつながる介入ではなくハラスメントをおこなうなどはどう考えてもおかしい。喫煙についても自分の責任分野はしっかり診療した上で禁煙についての動機づけをおこない禁煙外来につなげるのなら文句はないのだが・・。
まず意図的サボタージュは組織人としての倫理に反するし、患者を傷つける行為は医師としての職業倫理に反する。
内科医はアルコール依存症の患者さんだからといって肝硬変となり吐血したからといって放置をしたり自業自得でしょうと突き放したりはしない。
内心ウンザリしながらも身体の治療をおこないつつ、精神科につなぎアルコール依存症という精神疾患に対して介入を行なっていくだろう。
また、収益をあげるために患者に必要のない検査や処置を強要したりすることも倫理に反する。

患者を診ないばかりか傷つけているそのような医師を放置しているとしたら組織として問題である。
このことはまた別のエントリーで書こうと思う。

このように組織の中に法的にまた倫理的に問題となる行動をしている人がいて直接の指摘で改められない場合、まずはライン(職制、上司)を通じた改善を訴えるだろう。
しかしそれでも改められない場合や、パワハラや違法行為の強要などで部下が上司を告発せざるをえないような場合、集団自体がおかしな方向に向かっていっている場合はどうすればいいだろうか。
その場合、トップに直結する「倫理ホットライン」などのコンプライアンス通報制度が整備されている。
しかしトップ自体が法律に違反していたり、倫理にもとる行為をしている場合はどうすればよいのだろう。
その場合は組織内で声をあげ賛同者をつのったり、監督官庁へ告発したり、マスコミへ公表して世論にうったえるしかない。

ここで思い出されるのが「ミートホープ」の食肉偽装事件である。

北海道のミートホープという食肉会社では社長の命令で、牛肉ミンチに鶏や豚の心臓やパンを混ぜたり、腐った肉を使用する際、漂白剤を使用したり、血液製剤をつかうなどのことが日常的におこなわれていた。
元工場長の告発により地元紙に食品偽装事件が掲載されたが、社名と地域は報道されず、保健所などの公的機関も動かなかった。
遂に逮捕を覚悟で警察に訴えるが、被害届がないことから確認が難しく、このような難件に割く人員はいないと受け入れてもらえなかった。
結局、告発を行った朝日新聞のDNA検査によって牛か豚かを調べた結果、偽装が立証された。
これら一連の情報は内部告発が発端となったもので、公益通報のあり方に一石を投じる事件でもあった。

さて私がこのブログを通じて組織内の恥(?)や内部の情報をさらしたことがコンプライアンスに問題はないか、組織人としてどうなのかというようなことをある人に指摘された。

記事に関しては個人の責任で意見を述べているし、個人の名誉や企業秘密、個人情報などの扱いには細心の注意を払っているつもりだ。
事実誤認などで問題があれば直接指摘していただきたい。納得すれば訂正するし、発言には責任をもつ。
秘密漏洩や名誉毀損などコンプライアンスに反することがあれば直接言っていただき、こちらの対応に納得できなければトップに通告したり倫理ホットライン、裁判などにかけて調査していただければと思う。

もっとも私だって本来ならば職場内部のこと、特に恥になるようなことは書きたくない。
しかしこれまでこのブログで報じてきたように安曇総合病院において一部の政治家と院長が結託し、公的資金を用いてどう考えても地域のニーズに合わず身の丈にも合わないリニアックの導入という無責任な動きがあった。
そして組織内でのコンセンサスもとらず、職場内の意志決定機関である職場代表者会議も上位組織の厚生連の理事会も通さずあまりに強引に秘密裏にものごとを推進しようとした。
いまさら退職していく院長を告発するつもりはないが、その事はコンプライアンスには抵触しないのだろうか。

私は現場で患者さんと向かい合っている専門職として、この計画は地域住民や病院に残って病院を支えて行かなければない職員にたいして将来にわたって不利益になることであると考え問題視せざるをえなかった。

私はその動きに反対し代案を示し、きちんと情報を公開して筋を通して議論するように求めた。
院長とのヒアリングや、さまざまな会議などでも相手にされなかったため、持ちうる手段で情報を公開し起こっている事態にスポットライトをあて、そして広く議論がまきおこる土壌をつくろうとした。

そもそも厚生連の病院は公的病院であるのだから、経営に関わる情報や現場の専門職から見て必要と考えられる医療など全ての情報を公開した上で、受益者たる住民や組合員と議論して病院を作り上げていくべきだと思う。

公的病院の方針や公人である政治家の言動を報じたり、それに対して意見を述べることが悪いことだとは思わない。
しかし職員や地域住民とも問題意識を共有すべく院内外に掲示したビラは怪文書扱いされ即回収された。
それで自分として持ちえた手段の一つがインターネット(ブログ)しかなかったというのが現実であったのだ。
その効果があったのかどうか、事態は職員や地域の人など多くの人にも知られることになりリニアック導入の計画は中止となった。
混乱はまだまだ続いているが、いろいろ議論や紆余曲折があっても最終的によい医療実践が残ればよいのだと思う。

私としてもこの病院とこの地域に愛があるうちは可能な限り安曇総合病院で診療をつづけたいと思っている。



自ら考え行動する職員や住民をつくるのは徹底した情報公開が原則であり、今後も院内、院外への情報公開を徹底し、それをもとに職員や地域住民が議論できる場をつくっていく必要がある。

それこそが今度新しく来る院長に最も期待したいことだ。