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精神科医師のブログ。
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「発達障害を取り巻く最新情報」

2012年12月17日 | Weblog
塩尻市で開催された自閉症を知ろう・感じよう・考えよう実行委員会の主催による「発達障害を取り巻く最新情報」という講演会に参加してきました。
講師は長野県健康長寿課精神保健係の日詰正文氏と児童精神科専門病院・都立梅ヶ丘病院の市川宏伸氏という豪華な面々です。

日詰正文氏は長野県の精神保健センターで長く活動をされ発達障害関係者にはお馴染みの方であり、個人の療育、相談からケースワークから仕組みづくりまで幅広く活動されている言語聴覚士です。
2007年から2010年まで厚生労働省に出向し発達障害対策専門官として様々な施策づくりに携わったのちに2011年に長野県に戻ってこられました。




6年前に日詰氏の話を聞いて以来でしたが、今回もしみじみとあったかくユーモアにあふれる語り口で聞いているだけで癒される感じがします。

 こちらのエントリー→発達障害親子ディキャンプ



長野県の発達障害への施策のイメージ図をみると、オレンジプランなどの認知症の施策に近いようです。
どちらも障害への理解と支援が必要で、家族への支援も非常に大切で、サポーターを大量に養成しようとしているのは共通しています。
認知症は解体症状がすすみ終末期~死までを見据えた対応が求められるのに対し、発達障害は発達していく存在であり社会に居場所をつくり就労支援などに至るまで長い関わりが求められます。

発達障害は見た目ではわかりにくく周りからも気づきにくいために支援の開始が後回しにされやすい障害でした。
感覚過敏などの特性は本人はずっと同じ状態だから周りの皆んなもしんどいと思っています。
でも、周りからも気付かれません。ですから周囲が知識をもたないと気づいてあげられないのです。
身近な地域の保健、医療、保育、福祉、教育などに携わるものが確実に理解できるようにしておくことが重要です。
昨年の大震災の時も避難所で音が聞こえすぎて困る子が想像を超えたうるささを感じてても、ワガママだと思われ車の中で生活せざるをえないようなこともあったようです。
また味を感じすぎていたりということで支援物資の食事が食べられないこともあり、何が食べられるかというような情報が一番求められたりしたそうです。

発達障害は生まれつきのその人の特性であり生涯ずっと付き合うものです。
発達障害者支援の全体像を把握し、必要なときに必要な支援をガイドできる専門家や情報共有の方法が必要になります。
たとえば音が聞こえすぎて困る、呼ばれてもわからないといったような特性を持つ子に絵カードや文字で説明するというような支援の方法があります。
大人の社会にそんなサービスはないから通用しないという声もありますが、構造化というのは様々な場面でされているし、上手に発達障害をもつ人を活かしている職場は活用していたりします。そんな職場の取り組みを厚生労働省のホームページで紹介していたりします。
発達障害サポートマネージャーや発達障害を理解できる医師を養成したり、進学したり就職したり医療機関がかわるなど支援者がかわっても継続的に支援するための情報共有のためのファイリングシステム(パーソナルレコードというか取扱説明書みたいなもの)の普及もいそがれます。
アセスメントのツールや支援の方法も世界で使われているいいものを長野県でも使えるようにしていこうと取り組んでいるそうです。

日詰先生はあるとき支援で出向いた学校で小学校の子どもたちに自閉症の説明をするように求められたそうです。
そこで子どもたちに自閉症の◯◯君の対応について聞いたら「ささやかないとびっくりするじゃん」「見せなきゃわからないじゃん」と言われ教えられたそうです。
この子たちのようにピントがあっている人は発達障害の支援と言わなくても上手にやっていたりします。
それを褒めてその意味をきちんと説明できるのが専門家の役割だそうです。

発達障害に関する正しい知識を県民全体に広め、行く場所も増えというふうになっていけばもっと生きやすくなるだろうと話されていました。

長野県発達障害支援センター
発達障害者支援・情報センター
世界自閉症啓発デー・日本実行委員会

引き続いての市川宏伸氏の講演会は治療や支援に関するUptodateな知識や動きをの網羅的な話でした。

発達障害支援法に至る法整備の動きや、発達障害の診断基準、発達障害と行為障害(非行)、いじめ、虐待、特別支援教育、医療、薬物治療、検診システム、司法との関係など様々な話題について次々と話がすすみました。

特に来年改定される国際的な診断基準であるDSM5の話では広汎性発達障害に関しては自閉スペクトラム障害にまとめられ、感覚の過敏や過鈍も診断基準にはいるそうです。またADHDとの併存が認められるようになるそうです。
診断基準がより現場の実感に近づくようでこれは嬉しいことです。

ただし診断だけしても意味が無く診断は対応(治療)の存在が前提であるということは強調されていました。
薬に関しては主たる治療法にはなりませんが、特に二次的症状に関して用いられ上手に使えば他の治療法のための有力な補助手段になるそうです。
ご家族も薬物に関しては期待や不安などもあり関心が深いのだと思います。
さまざまな薬の使い方につていもお話がありました。
こうして、まとまった話が聞けるのはありがたいことです。

午後は「星の国から孫ふたり」という映画の上映があったようです。私はこれには参加できませんでしたが、いづれ見てみたいですね。