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精神科医師のブログ。
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病院組織の意思決定における重大なプロセス違反?

2012年05月07日 | Weblog
さて緊急招集された再構築検討委員会が開催された。
会議のコストをざっと計算すると。30人×2000円(平均時間単価)×3(時間)=18万円
どれだけの人が残業手当をつけたかは分からないが、幹部を中心に多くの人を長時間拘束したものの本日も相も変わらず不毛な会議であった。

これまでの経過を振り返ろう。

このブログでさんざん述べてきたように、これまで中川真一院長は、宮澤敏文県議とともに、地域医療再生基金の補助金を原資の一部として、がん医療と救急医療に力を入れる(リニアックとICUの導入)ことを条件に周辺市町村にも再構築のための公費による資金援助を依頼してまわってきた。

なぜ安曇病院に放射線治療機器という話に?

問題なのはそのプロセスだ。

このことを独裁を自負する中川真一院長は、院内のコンセンサスや長野厚生連の本所(理事長)などの了解を得ない形で強引に推し進めようとしたのである。

そもそも安曇総合病院では職場運営委員会が病院内の唯一の意思決定機関であり、どこで何が話し合われても職場運営委員会で決定されない限り、それは単なる案件でしかない。
また場合によっては上位組織である長野厚生連の理事会にも話を通す必要もある。

それらの手続きを正式に踏まずに、秘密裏に宮澤敏文県議のいうままに院長(と前事務長)は県に仮の計画を提出して地域医療再生基金の補助金を申請し、リニアックやHCUを導入するという大方針を既成事実化しようとした。

その結果としていまの混乱がある。

地域との約束、特に政治家とのからみなどもあり、いまさらあとには戻れないと思ったのだろうか・・。
院長は民主的に議論をしているポーズをとりつつ、院外にはリップサービスを振りまき、院内には意図的に加工された情報のみを公開し急性期で新しいことを始めなければ安曇総合病院はおしまいだというようなプロパガンダを流した。
医局会はもちろん、職員全体会議でもその話題をださず自由な議論や意見を封じ、地域的、全病院的な議論はあえて起こさないようにしてきたように私には見えた。(意見する文章は怪文書扱いされ院長に問題視された。)
であるので、このブログを見てくれているような人は除いて、地域住民や一般の職員は再構築をめぐる議論や、これまでのゴタゴタの全体像についてほとんど知らない人が多いだろう。

中川真一院長は「地域医療再生資金がもらえちゃったものだから・・・。もう、やることに決まったんです。」と主張する。

しかし急性期病院に本格的に舵を取り、リニアックやHCUを新規に導入するという案はニーズの側面からも実現性からも、財務の視点からも、説得力をもって院内の唯一の最終意思決定機関である職場代表者会議も、上部組織の厚生連の理事会も通すだけの力を持った案ではないということは院長もわかっているのだろう。
院長は正面切って職場運営委員会に議題を提出することなく、8つの部会からなる再構築検討委員会が新たに組織された。
しかし私にはにはそこでも院長は議論をしやすい土壌を作ろうとせず、ただ議論しているよというポーズとアリバイ作りの会議を延々とおこなってきただけの1年に思える。
「再構築」という思考停止ワードの影で、部会での議論は病棟を新しくしたい、放射線治療機器が欲しい、心カテをやりたい、外科を充実したい、老健が欲しい、病棟の広さは、トイレのデザインは・・などさまざまな案はでてくるものの、再構築の大方針がないため、あくまで現状の検討、ブレインストーミングにとどまった。
一方で院長周辺からは甘々の身内のデータを用いた都合のいい解釈ばかりを積み上げたシミュレーションばかりが出てきた。急性期にふった新しいことをやらないと安曇総合病院はおしまいであるというような喧伝をした。そして8つの部会の一つである「がん診療部会」でのリニアック設置というプランを病院の決定事項として話をすすめようとした。姑息である。
がんや救急など急性期医療によりシフトをすすめ、リニアックとHCU導入して、心カテ(待機)もおこない収益をあげるという院長案以外の案、例えば地域医療部会で話し合われたような得意な分野を活かして在宅医療やリハビリ、精神医療、健康増進などの支える力を入れ、急性期医療に関しては地域の他の医療機関との連携を図るという案に関しては、病院としてのシミュレーションやコンサルタントによる試算の協力は得られず、会議でも院長は聞くポーズだけで聞く耳をもとうとしなかった。

もちろん部会などでのこれまでの議論には、それなりに意義はあったとはおもう。

しかし、それぞれが、ばらばらに自分のやりたい医療とできる医療だけをやることを積み上げていってもいつまでたってもまとまらない。
いつかは病院全体の戦略を決め、それを集約していく作業が必要なのである。
診療のインフラ整備として、診療の範囲を明確にする、すなわち当院として地域に必要な医療全体のどの部分を担うのか、優先順位をどうつけるのか、すなわち何をやらないのかという、戦略レベルの話はどこでもできなかった。

そしてずっと膠着状態のまま今日の今日まで来たというわけである。

再構築検討委員会の議論をまとめた再構築マスタープラン素素案ではその混乱ぶりがよくあらわれている。
(院内には公表するようなのでよく見てもらいたい。今までの部会の議論をまとめてマスタープランを作れと言われた事務の苦労はいかほどのものか・・・。)

そもそも組織において戦略(どこへ向かうのか?)を決定するためにトップダウン、ボトムアップのパイプがしかれ、かつ意思決定には最終責任を負うべきリーダである病院長が関わる意思決定の仕組みが必要である
その一方で、「院長がご乱心」ということもありうるので、そういう時には、国で言えば憲法にあたる病院の理念だったり厚生連の理念だったり、伊関先生が紹介して下さった公的病院の9原則だったりといった原理原則(脚注参照)に立ち返って皆で議論する必要がある。

中川真一院長のこれまでの業績は前のエントリーで述べた。
戦術レベルのさまざまなこと、初期・後期研修医の育成。DPC病院への手あげ、電子カルテの導入などの取り組みでを成功させてきた。しかし戦略レベルにおいてはどこかで道をあやまったのかもしれない。

地道な医療をないがしろにして、政治や病院経営ゲームに熱中し、地域の実情を無視して。これまでやっていなかった高度医療の新しいことを始めたり、制度のなかから儲かりそうなものを後追いで追いかけるのではなく、地域のニーズはなにかを真剣に考え、限られたリソースを最適に使うべく努力をした上で、制度の方が追いついていなのなら制度の方へ働きかけをするべきなのだと思う。
身の丈にあった医療を丁寧におこない、その取組を発信することで人をあつめ、医療システム、地域の医療文化を変えていけばよいのだ。ある地域での良質な取り組みがモデル事業となり全国へと広まったケースなどはたくさんある。


(参考、大胆予想25年、診療報酬体系どう変わる?―厚生労働省保険局医療課の鈴木康裕課長、DPC2群の充実も選択肢に~)

中川真一院長は「うちには売りになるものが何もないんです。」といい(失礼なヽ(`Д´)ノプンプン)、他の医療機関とのさらなる連携の可能性をさぐるよりも巨大な急性期病院(ミニ大学病院?)を目指した。
今や貴重になった総合病院の精神科病棟を中心とした精神科部門があることは大学病院にもまけない安曇総合病院の売りである。(コア・コンピタンスである総合病院精神科病床。
しかし妬みでもあるのだろう。「うちは精神科があることが問題なんです。計算上毎年2億円の赤字を出しています。精神科病棟を縮小するのは時代の流れです。」といい、精神科病棟の縮小を計画にあげた。
7:1看護体制の導入などもあり職員の雇用は増えつづけた一方で、それに合わせた事業の拡大、患者の数の増大、収益の増大はなかった。そもそも当院の規模、陣容、立地条件で急性期に特化するかたちでのDPC病院、7:1看護体制というあり方に無理があったように私には思える。
(老健などの在宅支援施設や在宅医療のシステムが機能した上で、病床数を削減するならありえるかもしれないが)

挙句、院長は「当院はすでに急性期病院への舵をきった。630人の雇用をまもるためには今までやっていなかったこともやって患者を確保し収益を確保する必要があるんです。」と言う。

一理はあろう。

しかし院長のメンツをまもりたいのか、病院をまもりたいのか、それとも地域の医療をまもりたいのか・・・。
私にはすでに泥沼に足を踏み入れ、患者を確保(拉致)して、収益を得ることが、地域ニーズに応じた医療の提供よりも先に語られるようになってしまっているように聞こえる。
そもそも良い医療を地域に提供することが目的であったはずが、いつの間にか収益の確保、組織の維持が目的となってしまっており組織としておかしくな方向に向かっていることを危惧する。
もし過剰投資で経営がなりたたなくなり、収益性維持のために、不要なことをやって患者をあつめたり診療単価をあげるようなことになるならどう考えてもおかしい。
組織の末期症状である。

そういう時こそ、もういちど理念に立ち返って皆で議論する必要がある。
そもそもこれまで職員や地域住民の間でのディスカッションがあまりに少なすぎた。


雇用は可能な限り維持しつつも、地域ニーズに応じたことを無理なくやる方法を考えなくてはいけない。
人と人とのつながりを強化し地域ニーズに応じた「支える医療」を充実さすことで、それは実現可能であると思うのだが。
安曇総合病院マスタープラン(案)

本日の会議で出た意見の一部を紹介する。

「色々議論していっても、全くわからなくて不安がある。まずは医局の先生方が、腹を割って話していただきたい。」

「病棟の早期の建て替えは希望しているが。看護部でも幹部を除いて事情がわかっている人がほとんどいない。」

「これのどこがマスタープランですか、とても話にならない。もう一回更地に戻すような気分でやらなきゃいけない。」

「シミュレーションにはコンサルタントを入れて厳しい数字も出してもらうべき。支える医療に力を入れた場合のシミュレーションも・・・。」

「再構築で老健はつくってはいけないと本所にいわれたというが、リニアックも判子は絶対に押さないといわれたのでは?再構築とは別に老健を先につくるというような考え方もあるのでは?」

「いい老健のニーズはあるし、リニアックよりも多くの雇用を産む。老健を優先すべき。」

「病棟の新築の工事費用を40億ではなく30億に切り詰めてやったらシミュレーションはどうなるのか?」

「かつてCTをいれる、MRIをいれる。といったときに、赤字が怖くて買えないという議論になった。
その時は機材の導入は大町病院が先行していたが、安曇総合病院も時代の流れで入れざるを得なくなって、入れたら頑張った・・・。そのへんが大町との差になったのではないか。自分が40代だったら強引にでもひっぱって(リニアックを)導入するが、自分は年齢的にも引っ張れない。若い人達がどう考えるかだ・・。」

「病棟の建て替えがズルズル伸びてもいいのか?リニアックに反対するならちゃんと根拠を示せ。」

「リニアックは計画の一部にすぎない。このチャンスを逃して、病棟が建て替えられなくなってもいいのか」

「そのままなにもしないで赤字になるか、新しいことに挑戦して赤字になるかどっちがいいんだ!」

「機械を入れたが放射線治療医を招聘できなかったり、内科医が多数辞職したりといった可能性は考えていないのか?」

「舞鶴のような医師が大量離職したような病院は政治家や首長がだめだったんですよ・・。」(うちは違うのか!(-_-;))
「このマスタープランの素素案を各部会、各部署にもちかえって議論して下さい。」と院長は言う。どうしろと・・・。(-_-;)

院長のプロパガンダが奏功して、一部にリニアックの導入や、急性期医療病院への転換の待望論があることは分かったが、すでに臨床現場から離れた者たちの覚悟も感じられない意見ばかりである。とても相手にする気にはなれない。
地域のニーズに応じた、身の丈にあった医療を、まっとうにやって赤字になるのなら制度のほうがおかしいのだ。
そのときは地域住民や社会に問いかけていけば良い。

これまで独裁でおしすすめてきた中川真一院長は、本日の会議では「議論が巻き起こるのを待っていたんです。」と言っていたが、これは民主的に議論した結果、「皆が反対するからこうなっちゃったんです。ボクはやりたいんだけど・・。」とでも言いたいのであろうか?

当初の耐震基準に満たない病棟を新築するというシンプルな話であったはずの再構築の議論を混乱させたのは、ビジョンなきままプロセスを無視して強引に物事をおしすすめ、リニアックやICUを導入するという計画で県に地域医療再生基金を申請し、それを前提に市町村に経済的な支援を頼むなどしてきた院長の責任でもある。

先日の幹部の集まり(院長は欠席)で院長の問責についても議論されたようなことも聞く。
そこでは「世の物事の決め方には2種類しかない。独裁か多数決かだ。これまで独裁でやっておいて、突然民主的に決めるというような虫のいい話はゆるされない。」というような声もあったようだ。
独裁という自由の結果は重大な責任である。

中川真一院長のやり方に重大なプロセス違反があったことを潔く認め、責任をとって謝罪をしないと、院内はもちろん外部に対して示しがつかない。筋は通すべきであろう。
そして、けじめをつけないと、再構築はいつまでたっても次のステップへとすすめないだろう。

その上で情報公開を十分に行なって院内外でさんざん議論を尽くし、現実的な再構築案をつくり、地域医療再生基金をそれに関して転用できるのかを県に問い合わせ、なおかつそれでも公的資金に寄る援助をもらえるのかということを市町村(住民)にも根回し、財務計画を建て・・・というプロセスが必要となる。

しかし、このままでは、地域医療再生基金を利用しての再構築計画の期限に間に合いそうもないのではあるが・・。
まぁ、それも致し方なしと思う。
最初から棚ボタのお金だったのだ・・・。

残念ながらこの病院(地域)も、一度医療崩壊を経験し落ちるところまで落ちて「底付きを体験」をしないと変われないのかもしれない。

JA長野厚生連理念

JA長野厚生連は、JA綱領のもとに医療活動を通じ、組合員・地域住民のいのちと生きがいのある暮らしを守り、健康で豊かな地域づくりに貢献します


行動目標

一.私たちは、医療に携わる者として、常に人間性を磨くとともに知識と技術の習得につとめます。
二.私たちは、地域のニーズを尊重し、親切で良質な保健・医療・福祉サービスの提供につとめます。
三.私たちは、組合員・地域住民の主体的な参加のもとに、労働組合とともに民主的な運営と健全な経営につとめます。
四.私たちは、農村医学と農村医療の確立と発展につとめ、農業と農村を守ります。
五.私たちは、教育・文化・地域活動を積極的に推進し、地域の信頼を高め連携強化につとめます。


安曇総合病院理念
私たちは、地域の皆さまの健康を守るため、親切で安全な医療活動につとめ、ホスピタリティあふれる病院づくりをめざします。


基本方針
医の倫理を守り全ての患者さんの権利を尊重し、平等で安全な医療・福祉サービスを提供します。
地域のニーズに応じた救急医療体制の充実を図ります。
地域医療機関と連携し、在宅医療を支援します。
JA厚生事業を推進し、保健予防活動を通じて皆さまの健康増進に貢献します。
臨床研修に取り組み、信頼される医療人の教育育成につとめます。
文化・研究活動を積極的に展開し豊かな地域づくりに貢献します。


JA綱領 ~わたしたちJAのめざすもの~

わたしたちJAの組合員・役職員は、協同組合運動の基本的な定義・価値・原則(自主、自立、参加、民主的運営、公正、連帯等)に基づき行動します。そして地球的視野に立って環境変化を見通し、組織・事業・経営の革新をはかります。さらに、地域・全国・世界の協同組合の仲間と連携し、より民主的で公正な社会の実現に努めます。
このため、わたしたちは次のことを通じ、農業と地域社会に根ざした組織としての社会的役割を誠実に果たします。


わたしたちは
1. 地域の農業を振興し、わが国の食と緑と水を守ろう。
1. 環境・文化・福祉への貢献を通じて、安心して暮らせる豊かな地域社会を築こう。
1. JAへの積極的な参加と連帯によって、協同の成果を実現しよう。
1. 自主・自立と民主的運営の基本に立ち、JAを健全に経営し信頼を高めよう。
1. 協同の理念を学び実践を通じて、共に生きがいを追求しよう。



公的病院の9原則。

1. 普遍的且つ平等に利用し得るものであること。
2. 常に適正な医療の実行が期待しうること。
3. 医療費負担の軽減を期待しうること。
4. その経営主体は当該医療機関の経営が経済的変動によって左右されないような財政的基礎を有し、且つ今後必要に応じ公的医療機関を整備しうる能力(特に財政的な能力)を有する者であること。
5. 当該医療機関の経営により生ずる利益をその医療機関の内容の改善のための用途以外に使用しないような経営主体であること。
6. 社会保険制度と密接に連携協力し得ること。
7. 医療と保健予防の一体的運営によって経営上、矛盾を来さないような経営主体であること
8. 人事行務等に関し、他の公的医療機関と連携、交流が可能であること。
9. 地方事情と遊離しないこと。