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精神科医師のブログ。
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予定調和の「地域医療を考えるシンポジウムin 伊那」

2012年01月29日 | Weblog
長野県伊那市で開催された「地域医療を考えるシンポジウム」に行ってきましたよ。
高速をつかって片道1時間弱、会場の伊那文化会館は伊那インターから近かったから意外と早くつきました。


(伊那中央病院)

このシンポジウムは長野県の健康福祉部医師確保対策室が音頭をとって県内各地で開催しているもののようで、これまで上田、大町、木曽、と開催されてきたものが今回は伊那で開催されたということのようです。

安曇総合病院と同じ大北医療圏(人口約6万6千)の中心都市である大町市(人口約3万人)では平成22年3月に開催されました。
その時は兵庫県立柏原病院の小児科を守る会の活動の設立に深く関わった丹波新聞の足立智和記者(私も以前、佐久病院の夏期大学で話をききました。)を招いての講演のあと、信濃毎日新聞社の飯島裕一氏がコーディネートして市民代表、広域連合代表、病院代表などを招いてのシンポジウムと今回と同様の形式だったようです。
その時は、どんな政治的力学が働いたのか市立大町総合病院中心の構成で同じ医療圏内のJA長野厚生連の病院である安曇総合病院には声もかからず、そんな病院はまるで無いものかのように無視されていたと聞きました。(ーー;)
同年に木曽地域でも同様なシンポジウムがなされていたそうですが、両方に参加した人の話ではどちらもあまりにそっくりな内容で驚いたそうです。
ま、こういう集まりだと実情も、意見も対策もどうしても同じようになりますね。

となり町の病院の院長がしゃしゃりでて空気を読めずに、「もはや公立病院じゃ経営は無理です、うちなら潰れてます。厚生連に移管して一緒にやるしかないですよ。」なんてことを言われた日には、どこの地域の人にとってもおらが街の病院は大切だから大町市民の市民感情としておもしろくないでしょうしね。
個人的にはそのくらいになって本音のぶっちゃけトークで大荒れになったほうが面白いし意義はあると思いますが・・・。
もっとも安曇総合病院にも「がん診療連携拠点病院をめざして放射線治療機器をいれる」などの”???”な動きもあるようですし、市民に「使う人はどれくらいいるの?自分たちは税金でいくら払うの?」とか鋭くツッコミをいれてもらいたいものです。

ま、どこにも、いろいろ大人の事情があるようで・・。難しいですね。

このシンポジウムをきっかけに大町市では「大町病院を守る会」が発足したり、病院祭も初開催されたり、市民が医療のことに感心をもってもらえたというのは意義があったことなのだと思います。
市立大町総合病院改革プランは、地域の実情をよく分析した上での現実的でまっとうな内容ですが、なかなか議会でやりとりしながら病院を経営していくというのは大変なようです。
大町市議会での議論をみると「経営母体の違う安曇病院とのネットワーク化はしない、公立病院として在り続けるために職員全員一丸となって経営改革に全力をつくしていく」ということのようですが、県の力をもって大学医局に頼んでなんとか派遣してもらっていた内科医師も撤退となり、整形外科医も1人となり、いよいよ厳しくなるようです。どうするつもりなのでしょうか?
一方の安曇病院にしたところで「変わり者の医師」や、「疲れ果てた医師」をあつめて再生して何とかやりくりしているのが実情なのですけれど・・・。

地理的には白馬や小谷の人のことも考えると大北二次医療圏の中心になる大町市立総合病院がもう少し2次救急や「がん」などを頑張ってもらって、お産は大町、精神医療と整形外科は安曇。高齢者の医療や緩和ケアは安曇も大町もどちらもしっかりやり、脳外科や心血管インターベンションなどの救急医療や高度専門医療は安曇野赤十字病院や信州大学病院、一ノ瀬脳神経外科、相澤沢病院など松本医療圏の病院と連携してやっていくしかないと思うんですがね。

閑話休題・・。



会場には医療再生に熱心に取り組まれている市立大町総合病院の外科の先生や、初期研修の時にお世話になった下伊那の病院の内科の先生も来ていました。下伊那も医師不足で大変みたいです。
今やビッグネームの伊関先生の講演ということもあり関心は高いのですかね。

主催は上伊那地域包括医療協議会で共催は地区の医師会、行政などですが、大北や上田、木曽で行われたシンポジウム同様、県や信濃毎日新聞も大きく関わっているようです。
長野県の職員も受付などでもたくさん来ていて手話通訳や文字表示もあって大掛かりです。(聴覚障害者に対する合理的配慮ということでしょうか?)。
大きな会場(300~400人?)でしたが、ほぼ埋まっていました。
前の方には関係者席もあったりして首長や議員、病院の管理職などがきているようで、、辰野町など近隣の市町村からバスで駆けつけたところもあったようで、動員もありそうです。
TVや新聞記者もいて、写真などを一生懸命とっていました。

質問も事前に受け付けて選ばれたものだけで、撮影や録画、録音も報道機関以外は禁止だそうで、それは、ちょっと厳しすぎないかい?と思いました。
新聞記事にするそうですから、ここでも予定調和の記事を書くつもりなんでしょう。

ま、よその地域のことだし、今回はどんな予定調和かと思って気楽に参加。(^_^;)

まずは、楽しみにしていた伊関友伸先生の公演。
実は、来る3月10日(土)午後に大北で講演会(安曇総合病院再構築検討委員会地域医療部会主催)をお願いしているのです。挨拶をとおもったけれど、講演がおわったら戻られたのかシンポジウムには参加されず、直接お話することはできませんでした。
講演の内容は著作と同様、医療者、特に医師の事情と住民のギャップの解説が主で、全国各地の地域の実例をあげての解説でしたよ。
臨床研修義務化からの医師不足の話や荷重勤務、専門医を志向する医師の動きや、総合診療のことなど我々にとっては常識的なことも市民にとって見ればまだまだ知られていないのでしょうね。
印象的なフレーズは、「制度と強制では隙間が生じる。共感による行動が隙間を埋める。」ということ。
それから「病院改築したら医師が集まるというわけではない。」ということ。
53億円かけて建て替えたが、医師がいなくなった宮崎県小林市民病院の事例を上げて説明。
他にもそういうところは多そうです。
うちもそうならないことを祈りますが、公立病院よりはまだマシでしょうか?

「地域医療の問題は地域の民主主義の質を向上させるチャンス。医療者、行政、住民の共同作業。住民はお客様ではなく当事者。地域の質がその地域の医療の質を決める。地域医療を守るの皆さんの努力次第です。」

ということが結論でした。(同感です。)


 <今回のキースライドです。>

結局、「自分の健康は自分で守る」という意識が大切ですね。

つづいてのシンポジウムは司会はこれまで同様、信濃毎日新聞の編集委員の飯島裕一氏。
コーディネーターが氏である以上、予定調和は目に見えています。
飯島祐一氏は昨年の若月賞を受賞しているそうで、なんと北大の水産学部出身なんですね(先輩だ)・・・。

長野県の代表の、眞鍋馨氏は元厚生労働省医系技官で介護保険や移植医療対策、医療機器行政などに関わり平成23年に長野県に来て医師確保対策室長をつとめ、平成24年の1月から県の健康福祉部長をされている方のようです。
なめらかに県の方針や取り組みをお話されました。

つづいて伊那中央病院、辰野町立病院、昭和伊南病院の代表、医師会長、市民代表として安心して安全な出産ができる環境を考える会(in伊南)代表の須田秀枝さんが少しずつお話。

伊那中央病院はコンパクトに急性期に特化できた地域の基幹病院で、高度専門医療、急性期医療に特化してどんどんやっていけばいい病院で研修医も予算もあつまり黒字になり順風満帆です。
対して駒ヶ根の昭和伊南総合病院は急性期に特化できず2次救急と回復期医療に舵取り。医師不足に泣いており、開業の先生に休日夜間の応援を要請しているそうです。
同じ駒ヶ根市内にある県立こころのケアセンター駒ヶ根が50億の予算をかけて豪華な病棟を建て替えたばかりであり、県立の看護大学があったりするのですが一緒に再構築はできなかったのでしょうかね?

ちょっと話はずれますが、単科の精神病院と総合病院との組み合わせ、南信病院と伊那中央病院、豊科病院と安曇野赤十字病院、村井病院と上條記念病院など、いずれも隣接しています。佐久総合病院にいたっては精神科の病棟の多くを美里分院として外に出ちゃったりもしたようです・・。
今や認知症の高齢者が増えて来ているし、身体科と連携がとれていればいいのでしょうが、なかなかむつかしいようで、どうして総合病院と同一組織になって総合病院精神科病棟としての機能を果たせる様にしないのだろうかと思います?世界的にもそんな流れですし、そのほうがより多様なニーズに答えられるように思うのですが・・・。
地域移行の時代だしいっそ公的な総合病院の精神科病棟しか認めない制度にすればいいのに。
日本では民間巨大精神科病院が多い精神科病院協会の圧力が強く、歴史的な経緯や経営的なこともあるとおもいますがこれはいづれやらなきゃけいないことだと思いますね。

さて、話をもどすと150床の「まちの病院」である辰野病院も深刻な状況。
かつてはお産も含め盛んにやっていたが、大学からの引き上げで伊那中央病院に集約化されたようです
相澤病院にコンサルトして慢性期医療へのシフトをきめたようです。
新病院建設開始されたそうですが、今は7 人の医師(内科医3人)で地域の医療の砦を守っている状態だそうです。
あちこちで市町村ごとで人口あたりなどの数字が出てきますが、交通事情なども考慮したネットワークの考え方をもとにした医療福祉の指数を考えないと実情を反しないよなぁ。

医師会の代表の先生は、かかりつけを持ちましょうというが、開業している医師が、きちんとかかりつけ医の役割を果たせているかどうかも問題ですね。質をどう保証するのでしょうか?

上伊那地域だと公立病院が3つだったので役割分担してまずまず再編できたようですが、事業母体のことなる似たような規模も病院が並立する大北地域ではどうすればいいのでしょう?
住民にとってみれば近くに何でもできる総合病院があればいいに決まっているし、難しいですね。

どの程度の状態でどこにかかればいいのかとか、どんな生活をしていればどうなりやすいのかとか、医療の限界はどのあたりなのか、あらゆる機会をつかって市民と共有して考える機会をつくりみんなが賢くならなければいけないのでしょうね。

南アルプスと中央アルプスに挟まれた南北に長い盆地の伊那谷という地形的特徴から、松本医療圏(43万)と連続している大北医療圏(6万6千)と比べても上伊那医療圏は、かなり独立した医療圏です。
人口も19万2千人もいて、医療圏内でほぼ完結できます。
それでもトンネルができて近くなった隣接する木曽医療圏(3万4千)、諏訪(21万)や松本、飯伊医療圏(17万)との連携はどうなのか?とか、事業母体の異なる精神科病院である県立こころの医療センター駒ヶ根(129床)や南信病院(93床)は地域においてどういう位置づけと考えるのか?とかについて聞いてみたかったです。
でも、これは空気読めてない質問なんだろうな。
そもそも質問受け付けてないし。

やはり予定調和でシンポジウムは終わりました。
んん、なんだかつまんないな・・・。(;´д`)トホホ…